立山室堂はいつものように観光客であふれている。ここから立山を経て五色ヶ原までのんびり歩くのが今回のコース。雷鳥沢から稜線まで最短の大走りを登ることにする。標高差600m。分岐には標識があったのだが、途中から途絶えてしまった。
〈 槍ヶ岳遠望 〉
何本目かの沢を見当つけて登り出したものの崩壊したガレの急坂で、進むにつれて道の状態は悪くなる。両手両足で岩にしがみつくが次々と崩れ落ち、進むに進めず戻るに戻れずの状態。どうやら完全に迷ったと気づいた時、少し離れて若い男女のペアが後ろに見えた。私のあとを追ってきて私同様、道に迷ってしまったようだ。
〈 内蔵助山荘から 〉
夕暮れがせまる頃、ひょっこり稜線上の縦走路へ出た。登り始めてすでに2時間。暗くなる前に道が見つかりホッとした。少し進むと道の脇に消えかかった踏み跡と標識。こちらが本当の道らしい。今夜は内蔵助山荘で宿泊。翌朝、小屋前で後立山から昇る御来光をながめることができた。雄山神社でお祓いを受け、龍王岳、獅子岳、ザラ峠とアップダウンの大きいコースを経て、2日目の宿は五色ヶ原山荘。
〈 大汝山から雄山神社 〉
午後2時半という早い時間に着いたので、コーヒーでもできないか従業員に聞くと忙しいという。この時期に忙しいはずがない。ガイドブックに風呂有とあったのを思い出してさらにたずねると、今日は石鹸がないから沸かさないという意味不明の返事が返ってきた。山小屋によって従業員の接客姿勢がずいぶん違う。彦根の人と同室となり、この先、最終日まで行動を共にする。
〈 五色ヶ原と薬師岳 〉
北アルプスも最近は若い女子が多い。私がヘトヘトになっているのに、すぐ横を涼しい顔で通り過ぎていく姿を見ていると本当に感心する。復路の龍王岳で巨大なザックの女子が独り。親不知(おやしらず)からだと言う。親不知は日本海。今、彼女は北へ向かって歩いているので方向が逆だ。
〈 龍王岳から雄山三山 〉
親不知から北アルプスを一周して剣沢で仲間と合流し、親不知まで帰ると言う。頭の中に日本地図を思い浮かべた。新潟県、長野県、岐阜県、そしてここは富山県。歩いた距離はいったい何キロだ。今日がテント泊で25日目だとさらりと言ったのには驚いた。どう見ても普通の女子だ。1カ月も山の中で生活しているとはとても思えない。
〈 縦走路から雄山三山 〉
最近は大学山岳部も不人気らしいのに、若い女性が独りで北アルプスの大縦走とは。山に登るといろんな人に出会うものだが、時にはとんでもないツワモノと出会うこともある。
【1990.9.22-24】
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