大天井岳(おてんしょうだけ)に登るのはこれで3回目。特に印象的な山ではないが、槍・穂高の展望がすばらしい。残雪期の登山が意外と面白いので、山仲間と2年連続の山行となった。昨年登った際には5月に大量遭難があったことを聞いていたが、たいして気にもとめなかった。
〈 燕山荘から見た燕岳 〉
初日は燕山荘泊。600人収容の山小屋に宿泊者はわずか5名。シーズンオフはゆったりして快適だ。夜、山小屋から安曇野の夜景が美しい。翌朝、燕岳に登頂。昨年より雪が少ないので、今日のうちに大天井岳から常念岳まで足を伸ばせるかも知れない。所々雪田はあるものの登山道に雪はほとんどなく、鼻歌交じりの夏山気分でペースを上げることが出来た。
〈 燕山荘の朝 〉
雪煙が舞う大天井岳の頂上付近に大天荘が見えてきた。しかしそこに至る登山道の大半が深い雪に埋まっている。たった2時間歩いただけで風景が変わってしまった。私たちの装備でとても登れるものではない。結局、直登をあきらめて山の反対側にあるもうひとつの山小屋を目指した。そのとき見落とした分岐の看板にはかすれた文字で、今から目指す山小屋が閉鎖中だと書いてあったのだが・・・。
大天井岳の北斜面は予想以上の急傾斜で、道は新雪で覆われている。踏み跡がわずかに残るものの、雪庇の上に足を置いたら谷底に滑落してしまうだろう。深い雪に太股まで埋まりながら悪戦苦闘の末やっと乗り越えると、次の雪が行く手を阻む。今度は完全に道を見失ってしまった。雪の下のハイマツに足をとられて身動きが取れない。ハイマツに手をかけた時、眼鏡が枝に触れ雪の中にふっ飛んでしまった。
〈 大天井岳と大天荘 〉
腰まである深い雪に閉じ込められた。しかも時間はどんどん過ぎ去り、陽は西に傾きはじめる。幸い雪の中から眼鏡を見つけ出すことができた。やっとの思いでハイマツを乗り越え雪渓を脱出して、登山道に復帰したがまだ山小屋は見えてこない。延々と雪の道を歩くこと1時間あまり。遠くから屋根を見つけて、これで助かったと声を上げたのも束の間、山小屋は去年から閉鎖されたままだった。風雨に体力は消耗し、全身の力が抜けていくのを感じる。
気を取り直し、当初目指した大天荘に向けて歩くしかない。次々と思いが頭をかけめぐる。一刻も早く暖かい部屋で体を休めたい。陽が落ちるまでに山小屋に着けるのか。このまま雪の中で夜を迎えたら大変なことになる。そんな時、雪の斜面にひょこり雷鳥が姿を現し、張りつめていた気持ちが少し落ち着いた。やがて山頂が現れ、その下に山小屋が見えた時には心身ともにぐったりと疲れ切っていた。宿泊者は私たち以外に4名。ストーブで濡れた衣類を乾かすが、雷で発電機は動かない。夜、吹雪となる。気温は一桁。
〈 槍・穂高の稜線 〉
翌朝、快晴。しかし、槍・穂高はガスで見えない。大天井岳山頂を経由して燕山荘に戻る。途中、また雷鳥が現れた。燕山荘で昼食後に視界が回復。下山を始めると雲が晴れ、槍が完全に見えた。最後の最後に槍が姿を現したのが嬉しかった。雪におおわれた北アルプスの絶景が広がる。最終日は麓の中房温泉泊。
【1993.6.9-11】
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