◆ブラックホールはその強力な重力で光さえ飲み込んでしまいます。私たちは光で物を見ていますから、光を出さないブラックホールを直接見ることはできません。ブラックホールの周囲には飲み込まれようとするガスの渦巻(降着円盤)ができます。そしてこの渦巻が高温になってX線を出します。つまり、宇宙でX線を出す天体を探せばよいわけです。1971年にX線天文衛星がとらえた「白鳥座X-1」はX線観測で最初に見つかったブラックホールの候補天体で、質量が太陽の10倍ほどあります。ちょうど白鳥座の頭から2番目の星の付近ですから、夜空を見上げれば私たちにもおおよその位置はわかります。その他にも大マゼラン雲X-3など候補天体がいくつか見つかっています。最近、ハッブル宇宙望遠鏡がブラックホールに飲み込まれつつあるガスの渦巻を発見して話題になりましたし、日本のX線天文衛星「あすか」もブラックホールの謎を探っています。
◆ブラックホールほど有名な天体はありませんが、これほど私たちに誤解された天体もありません。ブラックホールは周囲のガスや星、ときには仲間のブラックホールさえも飲み込み、まるでモンスターのように成長しつづけます。しかし、ブラックホールが何でもかんでも飲み込むといっても、それはある距離(シュバルツシルト半径)まで近づいた時のことです。SFでは宇宙船が簡単に飲み込まれたりしますが、それは近づきすぎたからです。星がブラックホールになったからといって重力が増える訳ではありません。ですからもし太陽がブラックホールになっても地球がそれに飲み込まれることはありません。
◆ブラックホールの表面を「事象の地平線」と呼びます。その中に入ると光さえ逃げ出すことができません。飲み込まれたら最後、バラバラの素粒子になって時間も空間もない中心の1点(特異点)に吸いよせられてしまいます。そして、彼らの最期の悲鳴がX線として私たちの耳に届くのです。
◆星の死後の姿は色々ですが、その一つがブラックホールです。そのブラックホールが星やガスを次々と飲み込み、やがて星の材料となるガスがなくなると新しい星は生まれなくなります。死んだ星とブラックホールだけが宇宙に残る・・・。ブラックホールもやがて蒸発して消える・・・。宇宙の最後がどうなるか、今はまだわかっていません。
※SFでは簡単にブラックホールをくぐり抜けますが、ブラックホールの彼方に飲み込まれて「別の宇宙」に行ったら二度とこの宇宙には戻ってこれない、と考えられています。では無事くぐり抜けたとして、飲み込まれた物はその後どうなるのでしょうか。ブラックホールとは反対に全ての物をはき出す「ホワイトホール」がどこか別の宇宙にあり、この2つの宇宙をつなぐ時空のトンネル「ワームホール」があると考える科学者もいます。誰もブラックホールに入った人がいないので確かめようがありませんが。