上高地はいつ訪れても観光客であふれています。その観光客が仰ぎ見る穂高が今回の目的地です。河童橋の雑踏からわずか10分で道は静かな針葉樹林の登りになります。ここから今日の宿、岳沢ヒュッテまで3時間。穂高は涸沢経由でゆっくり登るのが一般的ですが、今回は吊尾根に向けてせり上がる岳沢から前穂高岳を直登する最短コースをとります。標高差は1,590m。 〈 岳沢から穂高の稜線 〉
しばらく進むと樹々の間からは切り立った穂高の岩稜、振り返れば焼岳と梓川、眼下には上高地が広がります。夕方早い時刻に標高2,230mの岳沢ヒュッテに到着。上高地を見下ろす小屋のテラスは、これから穂高を目指す人や穂高を登り終えて上高地に降りる人たちでにぎわっています。この小屋には風呂があるので、明日の厳しい登高に備えて早めに休むことにします。〈 眼下に梓川と上高地 〉
今日は大半の荷物を小屋に預け、約7時間かけて重太郎新道を往復します。最後まで岩場が連続し、クサリやハシゴを使わなければ進めない急登です。事故が多いので気が抜けません。巨大な一枚岩を乗り越えると奥穂高岳との分岐点、紀美子平。ここは前穂高岳の山頂を目指す人たちが休憩しています。左は重量感ある奥穂高岳、右はノコギリの歯のような明神岳の岩稜が続きます。〈 紀美子平 〉
両手両足を使って最後の岩場を登りつめると前穂高岳の頂上です。岩の積み重なった頂上は意外に広く、多くの人が展望を眺めながらくつろいでいます。北は槍ヶ岳から北穂高岳、奥穂高岳にかけて一望のもと。眼下は残雪の涸沢カール。東は常念山脈の穏やかな稜線。360度の大パノラマにこれまでの疲れが吹っ飛びます。槍・穂高を縦走してきた登山者にとってはここが最後のピークです。〈 前穂高岳から槍ヶ岳 〉
眺望を満喫した後は、重太郎新道の垂直に近い急下降を経て上高地に戻ります。下山後、河童橋の上から観光客にまじって降りてきたばかりの穂高を見上げるのは、少し誇らしげな何とも心地のよいものです。
【1996.8.4-5】
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