松田美智子著【越境者 松田優作】を読了しました。
2008年に刊行された、いわゆる“松田優作本”です。
ただ今までとちょいと毛色が違うのが、著者が松田優作の前妻・松田美智子氏であるという事。
過去、様々なヒトが“松田優作本”を記して来ました。
僕も結構な数を読了しております。
コンビニで売ってるマンガ【松田優作物語】なんてぇのも読んじゃいました。
どの作品も期待に違わない松田優作像が描かれていたものです。
しかし、ど~も納得はいかなかった。
人間、そんなにカッコ良いものか?という単純な疑念です。
もちろん、【人間・松田優作】としてムキ出しの姿を描こう描こうとしている作品もありましたが、やはりどこか劇画風なんですよね。
そんな中、この【越境者 松田優作】は今までの“松田優作本”の中でNo.1でしょう。
やはり“あの”松田優作の妻であった松田美智子氏が記している事が大きい。
家族でしか知り得ない松田優作を記せるのですから。
これが次の妻・松田美由紀が記したとすれば、スーパースター・松田優作になってしまうでしょう。
松田美由紀こそが松田優作を無闇矢鱈に松田優作を神格化させているのですよ。
実際に読み進めますと、松田優作の弱く不安定な感情を多く見る事が出来ます。
若い頃の渡米も決して本人の意思ではなく母親主導であり、しかもイジメに遭った事で、たった1年で帰国した、とありました。
また、その一方で過去の“松田優作本”にて見受けられる『ケンカに負けた事は一度もない』『会うやいなやブン殴られた』などの武勇伝は、かなり信憑性が薄いとも。
映画【竜二】で有名になった金子正次との関係にも言及しておりました。
命日が松田優作と同じだった事もあり、奇妙な因縁を持たざるを得なくなったマイナー舞台人・金子正次。
大雑把な“松田優作本”だと【親友】と記された事もありましたが、かなり眉唾モノです。
さほどの下積みもなくスーパースターになれた松田優作と、“映画スタア”に憧れていたマイナー舞台人・金子正次がホントに【親友】なれるとは、到底思えません。
間違いなく金子正次は松田優作の成功に嫉妬していたはず。
スーパースター・松田優作に触りたい俳優やクリエイターが多いのは、よ~く分かります。
一回、松田優作に会っただけでも“舎弟”を名乗るバカもいますからね。
香川照之なんかも、そのひとり。
以前、テレビで『父親の愛情を知らないで育った』ってファクターを、松田優作との魂の共通項として語っていやがりました。
片や地方の赤線に在日の非嫡出子として生まれた人間と、片や仲違いしながらも歌舞伎界の大物の父・大女優の母を持つ人間に共通項を見出そうってのがあざと過ぎます。
それは【ラストデイズ】っていう番組です。
『お前は、オレになれる』って松田優作に言われたとか。
ホントかよ。
ウソ臭ぇ~。
まさに“死人に口なし”です。
死ぬ直前、仏教に傾倒していたという逸話が残っていますが、これは松田美由紀の母親が紹介した新興宗教でした。
“あの”松田優作が新興宗教に傾倒していたなど決して彼のイメージに合いませんから、松田美由紀がオミットしていたのでしょう。
この本によると、かなり怪しい新興宗教だった様です。
美智子氏の松田美由紀に対しての嫉妬も隠さずに吐露しているのも好感が持てました。
オンナだろうが、オトコだろうが嫉妬という感情を持たないヒトはいませんから。
とは言え、松田優作も所詮はオトコだったんですねぇ。
当時18歳の若いオンナにフラフラ吸い込まれちゃったんですから。
このあたりは【松田優作物語】なんかではドラマチックに描かれていましたが。
『松田優作が生きていたら…』というifをよく見かけます。
『ニッポン映画界の損失だ』なんてフレーズも見かけました。
ホントにそうかなぁ、というのが僕の本音です。
当時、松田優作ってそれほど必要とされていない俳優だったんじゃないか、と記憶してるんですよ。
もちろん【ブラックレイン】の出演によって状況は変わったかも知れませんが。
デ・ニーロからのオファーがあったとも聞きます。
しかしながら、それ1作で終わっていた可能性の方が高いと思うんです。
神格化され過ぎて、皆さんめくらになっている気がしていました。
そんな中、【人間・松田優作】を感じる事が出来た今作、後世に残したい名著であります。
【探偵物語】で“ダンディー”を演じた重松収氏も【ラストデイズ】に頻出します。
後年は松田優作の運転手を務めていたとか。
『お前たちは、俺には絶対に勝てない。なぜなら、俺は24時間映画のことを考えているからだ』松田優作(ニッポンの俳優・1949~1989)