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9月4日。午前五時の十和田湖。
湖畔の避暑に朝の散歩はつきものだ。ホテル前の車道途中の道標(みちしるべ)に遊歩道らしきものがあり降りてゆくことに。
国道に出る。そこを横切ると湖畔の遊歩道に出るようだ。さらに降りてゆくことに。(鉛山〔なまりやま〕はホテルの背後に控える山。)
桟橋〔さんばし〕らしきものが見える…
おお……何という。ちょうど日が昇る瞬間であった……。
湖水も樹々の緑も初々〔ういうい〕しい朝の光で目覚めはじめる。
さざ波の打ち寄せる音。鳥や虫の声。静けさ。
遠くで息をする山。
森の緑も息をする。
桟橋に胡坐〔あぐら〕し楽しむ。金色の陽光。湖水の紺碧。草の緑。
翡翠〔ひすい〕色の湖面。
水生植物がつくる色彩。
よく見ると人家らしきもの。
いろいろの苔たち。
緑の中の白はツノホコリか。(植物ではなく菌類の一種。)
打ち寄せる波の音に耳を澄ます。
波の崩れる瞬間を偶然カメラが捉える。水は不思議な形をしたレンズだ。
懐かしきトクサ。
洗われた石たちの上に枯葉と枯枝。緑の葉も顔を出し。左下に偶然トンボが写り込む。ノシメトンボ(赤トンボの一種で所謂〔いわゆる〕普通のトンボ)か? 動物に関し生物学の素養がないので分からない。(以後同じ)
サワグルミか? 植物に関して生物学の素養がないのでわからない。(以後同じ)
笹舟を造り浮かべてみる。
ターコイズブルーの湖面。
苔もいろいろな種類があるがルーペで見ないと種類はわからない。それでも真緑・黄緑・茶色の色彩。星形や樹形。これに湖水の色の変化が加わる。組み合わせ多彩で見ていて飽きない。
混生する水生植物。ササエビモ、ヒメフラスコモ、カタシャジクモ、クロモ…
ヒメマスか。写真に明確には捕えられなかったが稚魚の姿。
湖の呼吸。
このあたりは「よどの岬」と呼ばれるが名前の由来は不明。
葉にたたずむアキカアカネ。奥入瀬もそうだがこのあたりの虫たちは人間に対して無防備だ。彼らは森に君臨しているのだ。
稚樹に交じる大樹。ブナか。近接した何本かが癒着したものか。
渡し板には「秋田県では、循環型社会形成のため『秋田県認定リサイクル製品』の使用と普及に努めています。」とあり。
斜面には稚樹が多い。水辺の倒木がパワーボートのキャプテンの言葉通り腐らぬまま横たわる。渚にパラソルのように楓〔かえで〕がせりだす。
渚と緑のカーテンにサンドイッチされて散歩道は続く。
人家なのかこの後放し飼いの犬がやってきて吠えられる。説教すると引き返した。
6時30分。左へ行くと国道に出るようだがもう少し散策を続けよう。
苔が生えている。あまり人が通らないせいか。
水際に降りてみる。
玉砂利が敷き詰められたよう。それを湖の水が浸していく。
石は角がとれている。形も色も様々。模様付きもある。約1000年前の噴火の跡を留めるようだ。こういうのを見ると石拾いを趣味とする人の気持ち地学に傾倒した宮澤賢治の気持ちが少し分かる。
廃材に密生する苔はクリスマスの靴下。
落葉から生い立つ謎の生物。キノコ?
土筆(つくし)様の生き物だが何であるか分からない。因みに土筆はスギナの胞子茎でありスギナはシダ植物トクサ科なので土筆なのかもしれない。
6時56分。朝食の時間が迫っているので引き返そう。斜面を登り国道に出る。
これも獣道っぽい。熊が降りてきそうだ。
森の姿には理由がある。十和田湖は火山の噴火によってできたカルデラ湖であり水際まで山の斜面が迫る。日の当たる時間が限られるため生育する樹木は少しでも多くの光を求めてできるだけ真っすぐ伸びようとする。そのため「背高のっぽ」の高木が多くなる。また短い日照時間の中でできるだけ多くの日光を受けようとして葉をできるだけ多くつける。それがこのような姿の森を形成する。また木が枯れて倒れることにより上空に空間ができる。この空間からの光を受けて林床の生物たちは生き私たち人間もその恩恵に与〔あずか〕る。
身も心も緑に染まるいつまでも歩いていたい道。
ホテルに戻ってきた。
今朝は洋食をチョイス。しっかりした安定のお味でした。(食い散らかした写真で失敬。)
朝の散歩の余韻を楽しみながら昼間は読書と昼寝で過ごす。
午後2時過ぎ。昼寝から目覚める。ふと思う。朝の十和田湖がすばらしかったのだから夕の十和田湖も美しかろう。夕映えに包まれた十和田湖のしかもそ全景を写してみたい。そんなわけで湖全体を眺められるスポットを調べ始める。十和田湖周辺には展望台が少なくとも六ケ所以上あり発荷峠〔はっかとうげ〕がホテルから近く眺めも良いことがわかる。近いといっても徒歩では無理なのでタクシーで行こう。フロントに電話し夕方タクシーを回してもらうよう伝える。すると近隣にタクシー会社はなく青森市内から前日予約でチャーターする必要があると言われる。愕然とする。電話を切り茫然としていると程無く電話が鳴る。ホテルの送迎バスが利用できるかもしれない。確認をとるので待ってほしいと連絡が入る。え。そんなことができるのかしら。できるのならばありがたい。そう思いつつ待っていると十分ほどして行けますとのこと。捨てる神あれば拾う神ありである。(ちょっとちがうか。)
支度して4時半頃出発。ホテルから湖畔の国道を南下。ドライバーさん今日はもう送迎の客はないのでゆっくりどうぞとおっしゃる。私は勤務時間のこともあるのでできるだけ時間をとらせないようにと気を遣いつついろいろと話をしながら展望台へ向かう。
到着。湖沿いの高台に展望台はあった。しっかりした建物もありその中から湖を眺められる。建物の中には周辺の観光名物案内が掲示されていた。
上のポスターはいずれも小坂町の観光名所を載せたもので次のようにあった。
◆小坂鉱山事務所 「うーん、確かに似ている。欧州では世界遺産か…サヴォイア家の王宮」
◆康楽館 「シャガールも豊四郎も、その舞台にきっといる…パリ・オペラ座」
◆小坂鉄道レールパーク 「この鉄道員たちは、実はこうなりたかったのだ…オルセー美術館」
よくわからないので調べてみると…
「小坂鉱山事務所」は1905年に小坂鉱山の事務所として建設されたルネサンス様式の外観を呈する建築物で1997年まで使用された後に小坂町に譲渡され2002年に国の重要文化財に指定される。「サヴォイア家の王宮」はイタリアのトリノ市にある世界遺産で19世紀のイタリア統一運動の中心をなしたサヴォイア家の残した建築物で当時の最新技術を駆使したもの。
「康楽館」は1910年に小坂鉱山の福利厚生施設として開館した芝居小屋で1985年に小坂町に譲渡される。近代和風建築の建物は2002年に国の重要文化財に指定されたが現在も常設公演が続けられる現役の芝居小屋である。「パリ・オペラ座」は19世紀に建てられたパリ国立オペラの劇場でシャガールの描いた天井画が飾られている。「豊四郎」は康楽館の西陣織の緞帳〔どんちょう〕を描いた小坂町出身の日本画家福田豊四郎のこと。
「小坂鉄道レールパーク」はかつての小坂製錬小坂線小坂駅を再利用して2014年にオープンした鉄道保存展示施設。ディーゼル機関車の体験運転やブルートレイン車両での宿泊ができる。登録有形文化財。オルセー美術館はもともと1900年のパリ万博に合わせて建設されたオルセー駅の鉄道駅舎兼ホテルであったが改修後の1986年に19世紀美術を展示する美術館として開館。特に印象派の作品の収蔵が多くルーブル・ポンピドゥとともにパリの三大美術館である。
わざわざ世界的な観光名所を持ち出さなくてもよい気がするが自虐テイスト上等での目立とうアピールなのだろう。たしかに東北の山奥のさらに奥に何があろうそんな大したものはあるまいと侮〔あなど〕る輩〔やから〕は私だけではないだろうから。
実際のところ調べてみると康楽館などは単なる歴史的建築物というだけなく中村勘九郎の歌舞伎興行も打たれる現役の芝小屋である。小坂鉱山事務所も建物として威容を誇り小坂鉄道レールパークのブルートレイン泊はマニアに結構ウケルのではないだろうか。(この場合「泊りテツ」になるのか。)
そしてこれらの三つの施設をはじめとした文化遺産群が数百メートル内に立ち並ぶ「明治百年通り」は観光するにはなかなかに魅力的で便利である。さらに周辺には日本の滝百選の七滝〔ななたき〕とその名を冠した小坂七滝ワイナリーもあり楽しみは尽きない。七滝ワイナリーは十和田湖を作った火山の噴火の火山灰に適した山葡萄を30年以上の歳月をかけて育て土地に根差した唯一無二のワインを目指す本物志向のワイナリー。私もお腹の調子が良ければ試したい銘醸だ。
と小坂町の観光案内をしてしまったが他にもポスターには「飯屋MAGO(道の駅こさか七滝) 桃豚かつラーメン/桃豚かつカレー/夏限定メニュー 冷やしカレー拉麺」とか「笹森展望所 樹海ライン最高地点」とか「紫明亭展望台」とか「小坂産桃豚パテと七滝ワイナリーワイン&アカシアはちみつジンジャーソースを使った十和田湖チーズバーガー」とか「直径30センチの十和田湖一周ビッグバーガー」とか「ヒメマスー塩焼き/刺身/にぎり寿司/天丼」とか「小坂町の農民の味“かつらーめん”」とかどんだけ地域連携してるんだという美味しそうな名物もいろいろあるのでいつか試してみたいものだ。
屋上に上がると360度見渡せる。南側に「展望レストラン展望喫茶 峠の茶屋」と公衆トイレ。
ドライバーさんに気を遣い早々に引き上げた。そのため夕映えの十和田湖を見ることはできなかった。しかしこの正面写真で分かるように十和田湖の湖面の色合いは頗〔すこぶ〕る青かった。濃い青。紺色に近い青。ギラギラするような青い色に見えた。まるで湖からエネルギーが漲〔みなぎ〕り溢〔あふ〕れ出るかのように。
パノラマで撮ってみた。
展望台で一通り撮影を済ませるとドライバーさんの時間も考え早々に帰路につく。車中当地について話す。ヒメマスのこと。鹿角のこと。この時は鹿角郡小坂町と鹿角市のちがいも分からず話していたがとにかくこの地は秋田県鹿角郡小坂町である。ヒメマスの不漁が言われるが温暖化の影響かと問えば生息適正水温があるだろうとのこと。
こんなこともあった。
ホテルに到着し車を降りて部屋に向かうとフロントからドライバーさんが私を追いかけてくる。「これはお客さんのではないですか。」と言って財布を差し出す。見ると私の財布である。聞くところ私の部屋の前に落ちていたと。どうやら宿の車に乗るため部屋を出た際何かの拍子で落としたらしい。旅先で財布紛失とは何とも恥ずかしい限りだがそれ以上に気づいて届けて頂いたことが有難い。発荷峠への送迎という本来ないサービスをしてくれた上もしかしたら旅先で一文無しになるやしれない私を救ってくれたホテルスタッフの方々にはただ感謝である。本当に。
そうして今宵の夕餉。お酒はハートランドビールに阿櫻〔あざくら〕の純米吟醸ー超旨辛口ー。阿櫻はけっこうフルーティなイメージがあったがこのお酒は香り控えめでたしかに旨辛系。前菜の「みず玉」とは所謂この地域の名物山菜「みず」の葉の根元にできる赤く膨らんだむかごで「みずの実」「みずのこぶ」などとも呼ばれるらしい。秋のもので青いムカゴという感じでなかなか面白い味であった。
そしてこの夜何となんといっても驚かされたのがこのヒメマスのパイ包み焼き。ヒメマスの魚の風味が香ばしく立ちえも言われぬ美味。熱を通し身も締まったことでヒメマスの香味が凝縮されたのだ。
十和田湖は西湖畔の朝の散歩で確信した。これが日本の湖畔だと。それは避暑を超えた経験であった。だからこそ最高の避暑であった。十和田湖のエネルギーを胸いっぱいに吸い込んでこの夜は床に就いた。
※ 下記の動画は以前の記事「20240904 青い森を歩いてきた2 ―十和田湖の朝―神秘の水」でアゲたものと同内容です。
20240904 十和田湖の朝―神秘の水―青い森を歩いてきた2
20240904 十和田湖 朝の散策ー青森への旅の記録10
付記1 十和田湖の自然と歴史については次のサイトを参考にした。
●生物相 → 奥入瀬フィールドミュージアム
●水生植物 → みんなの十和田湖 水生植物の役割を知ろう(秋田県生活環境部 環境管理課)
→ 2021年の十和田湖の水生植物相および生物多様性保全における評価(農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター)
●火山噴火と植生 → Ⅱ章 十和田湖と周辺域の歴史と現状(公益社団法人 日本水産資源保護協会)
●森林の成り立ち全般 → 森林のライフサイクル〜遷移と更新〜(前田建設さんのwebサイト)
●コケと地衣類の区別(生物には植物界と菌界の区別があり、コケ類は植物界に属し、菌類と地衣類は菌界に属している。)
付記2 秋田県小坂町の観光名所と名物
●小坂鉱山事務所 →小坂町観光のご案内 小坂まちづくり株式会社
→サヴォイア王家の王宮群(wikipedia記事)
●康楽館 →小坂町観光のご案内 小坂まちづくり株式会社
→なびたび北東北 2024.4.26 記事 康楽館常打芝居、28日開幕 出演俳優ユニット「古里のよう」
→なびたび北東北 2023.12.13 記事 小坂町の康楽館に中村勘九郎さん・七之助さん出演へ 来年4月公演
●小坂鉄道レールパーク →公式HP
→オルセー美術館 wikipedia記事
●小坂七滝 →日本の森・滝・渚100選(日本の森・滝・渚全国協議会)
●小坂七滝ワイナイリー →小坂町観光のご案内 小坂まちづくり株式会社
→公式HP
●明治百年堂 (小坂鉱山事務所の中にある物産ショップ) → 小坂町観光のご案内 小坂まちづくり株式会社
●小坂町の農民の味“かつらーめん” → こさかまちかつらーめん(令和5年度文化庁認定「100年フード」)
「100年フード」なるものを知らなかったので調べてみた。 → 全国各地の100年フード -文化庁
「わんこそば」「いぶりがっこ」「ジンギスカン」に混じって「こさかまちかつらーめん」や「石巻やきそば」があるのでよく見てみると次の三つに分類指定されているようだ。
①伝統の100年フード部門 ~江戸時代から続く郷土の料理~
②近代の100年フード部門 ~明治・大正に生み出された食文化~
③未来の100年フード部門~目指せ、100年~
この分類に従えば、①わんこそば いぶりがっこ、 ②ジンギスカン ③石巻焼きそば こさかまちかつらーめん となる。因みに①ほや雑煮(石巻)なるものもはいっていた。
●十和田湖ブランドバーガーはウエストショアズグリーンカフェ west shore's green cafe (直訳すると=西湖畔の緑のカフェ)で提供されている。
→ ウエストショアズグリーンカフェ west shore's green cafe(十和田湖ふるさとセンター内カフェ)
→ a.woman サイト記事
→ 十和田湖一周ビッグバーガー なびたび北東北 記事 2023.8.27 桃豚パテ入り、特大バーガーは直径30センチ 「十和田湖観光の記念に」
●十和田・八幡平エリア・エリアガイド → 秋田県公式観光サイト アキタファン
付記3 つぶやいていない曲。
2001: A Space Odyssey • Theme/Also Sprach Zarathustra • Richard Strauss
Innocence ―Austin Wintory · London Symphony Orchestra
Tchaikovsky - pas de deux
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