縁側で日向ぼっこ

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「白痴」坂口安吾

2025年02月11日 | 本 レビュー

100分間で楽しむ名作小説「白痴」

坂口安吾

発売日2024/11/25

表題作の「白痴」は、戦争末期の東京に住む、演出家見習いの男性、伊沢(27歳)が主人公。ある晩帰宅すると、隣の家に住む白痴の女性オサヨが、押し入れの中に隠れており、そこから奇妙な同居が始まるというストーリー。

坂口安吾の作品を読むのは初めてですが、女性の観点から見て、なかなか感想を書くのは難しいな思いつつ、でも、不思議と嫌な気持ちにはならず、この作者は正直な人なんだな、と感じました。

4月15日の空襲の日、2人が命からがら逃げのびることができ、伊沢はなんだかんだ言って実は孤独だったのではないか?戦火の中、足手まといになるであろうオサヨを捨てることなく、一緒に歩いていこうとする姿は、純愛なんかでは決してないのだけれど・・・一人より二人のほうが、きっといいって思いました。

 

本書には、その他3つの作品が収録されています。

「行雲流水」

タイトルの意味が分からず読んでしまいました。読み終わったあと調べたら「空行く雲や流れる水のように、一事に執着せず、自然にまかせて行動すること」。とのこと・・・

主人公は和尚ですが、この人、この仕事に向いていないんだろうな、と思ったのと、男たちを手玉にとる「ソノ子」は、18歳という若さなのに度胸が据わっているなと思いました。とんでもない悪女なんでしょうけれど、ここまでくるともうアッパレって感じです。戦中、戦後はこうでもしないと女性が稼ぎ頭になるのは難しかった時代だったとすると、ちょっと悲しい?

 

「風博士」

タイトルだけ見れば、ファンタジーかしら?と思いそうですが、内容は、全くわかりませんでした。ここまで、わけのわからないお話を読んだのは初めてかもしれない・・

風博士の遺書の内容が延々と続くのですが、蛸博士が禿頭とか、バナナの皮を撒いて殺害を企てられたとか、彼の邸宅に忍び入って鬘(かつら)を盗んだとか・・笑い話だったのかな?

 

「私は海をだきしめていたい」

こちらもタイトルだけ見れば美しい響きですが、内容は悲しいです。主人公の男性は、元娼婦の女性の体だけを愛しているといっていますが、実は魂の結びつきを怖がっているのではないか?なんて感想を持ってしまいました。このお話の始まりの文章がなかなか印象的でしたので書き留めておきます。

P103

私はいつも神様の国へ行こうとしながら地獄の門を潜ってしまう人間だ。ともかく私は始めから地獄の門をめざして出掛ける時でも、神様の国へ行こうということを忘れたことのない甘ったるい人間だった。私は結局地獄というものに戦慄したためしはなく、馬鹿のようにたわいもなく落ち着いていられるくせに、神様の国を忘れることが出来ないという人間だ・・・