公開放送が行われる日の午後、ソウルからチェリン、ヨングク、チンスク、そしてユジンの母親ギョンヒを乗せた車が到着した。
ギョンヒは久しぶりにユジンに会えるので、嬉しそうだった。
一方でチェリンは、サングラスをかけて毛皮を羽織り、不敵な笑みを浮かべていた。
両親を連れたサンヒョクは、四人を見つけて手を振った。父親のジヌは愛想良く微笑んだが、母親のチヨンは冷ややかな笑みを浮かべてギョンヒに挨拶した。気まずい空気が流れる中、サンヒョクは一生懸命に場を和ませようとするのだった。
チェリンはホテルで一休みしたあと、ミニョンの事務所を訪れた。
チェリンの登場に表情を固くしたミニョンを見て、
「安心して。元恋人をイジメに来たわけじゃないわ。そんなに怖がらないでよ。」
そう言ってソファーに座った。
「ミニョンさん、元気?望み通りになって嬉しいでしょう?ところでユジンとは上手くいってるの?」
すると、ミニョンは小さく顔をしかめた。「まぁその顔じゃ、うまくいってないのね。」
チェリンはそう言うと、ふふっと笑った。
ミニョンは苦笑しながら言った。
「君の言うとおり上手くいってないよ。満足?今日はライブを観に来たの?」
「そうだけど、あなたも行くんでしょ?」
すると、ミニョンは視線をはずした。
「今すごく忙しいんだ。どうかなぁ」と言った。
「あっそう、もう帰れってことね。お邪魔してごめんなさい。あとで、バーで一杯やりましょう。誘ってね。」
しかし、ミニョンは
「時間があったらね」とつれない。
「時間があれば、、、ね。あなた、作る気ないでしょ?寂しいわ。昔は少しの時間でも会いに来てくれたのに。ほんと、変わったわね。」
チェリンはプイッと向きを変えると、歩きかけて思い出したように捨て台詞を吐いた。
「今日はきっと面白いことが起こるから見逃さないでね。」
そして勝ち誇ったようにほほえんで去って行った。
あとに残ったミニョンには、チェリンの高価だがキツい香水の残り香と、嫌な後味が残った。
チェリンと付き合っていたときには思わなかったが、チェリンの香水は、自分というものを主張するような香りだ。人の気持ちはお構いなしに気持ちを押しつけて周囲を不愉快にする、、、。ミニョンはペンを弄びながら、ぼんやりと考えるのだった。
刻一刻と開演の時間はせまり、サンヒョクの両親とサンヒョク、そしてユジンの母親は会場に向かっていた。するとサンヒョクの母親のチヨンが財布を取りに部屋に戻ると言い出した。他の3人は先に会場に行くことになった。
チヨンが財布をとって急いで行く途中、遠くに見覚えのある二人を見つけた。それはミニョンとユジンだった。チヨンの目がスッと細められ、険しい顔つきになった。
そのとき、ユジンとミニョンはゆっくりと歩いていた。ユジンは先日ミニョンに借りたマフラーを首に巻いていた。無意識のことだったが、ミニョンの匂いに包まれていると安心した。ミニョンの匂いは、タバコの匂いなのだけれど、昔チュンサンと落ち葉焚きをしたときの、ハシバミの香りを彷彿とさせた。それは父親の匂いにも繋がる、ユジンにとっては思い出深いものだった。ユジンは思わずマフラーに顔を埋めて微笑んだ。ミニョンは、そんなユジンを見て、嬉しくなった。小さな事だが、ユジンが好意を見せてくれているような、ユジンが自分のものになったような気持ちがした。マフラーで心をしばりつけようなんて、まるで高校生の恋みたいだ、と呆れて苦笑した。すると、ユジンがマフラーを見つめられていることに気がついて慌て出した。
「ごめんなさい。わたし、マフラーを借りたままでした。気がつかなくてすみません。」
スルスルとマフラーを解いて、ミニョンの首に巻こうとした。
「マフラー、似合ってます。いいからそのままにして。」
お互いに譲り合って、結局はユジンが手慣れた様子で、ミニョンの首にマフラーを巻きつけた。ユジンは真剣な面持ちだったが、ミニョンは恥ずかしそうになすがままにされていた。マフラーに移ったユジンの香りが、ミニョンの心を温かくしていた。それはまるでスミレの淡い香りのようで、ずっと昔に感じたような懐かしさを感じるものだった。そして二人はどこから見ても、付き合いたての恋人たちのように、仲睦まじく見えるのだった。
遠くからそんな二人の様子を見ていたチヨンは、怒りに身を震わせた。
「なんてことなの!絶対に許さない」
ユジンはサンヒョクを愛していないばかりか、浮気までしている。男性の首にマフラーを巻きつけるなんて、恋人でもない限りありえない。しかも相手はチェリンの恋人なのに。例え二人が否定しても、あの男のとろけそうな笑顔を見れば分かる、それにユジンの眩しそうな眼差しも恋に落ちているようにしか見えない。息子の目の前で、あんな表情をしたユジンを見たことはなかった。
今日という今日はユジンの母親の前で、全てを暴露してやる、そしてサンヒョクのために、結婚を破談にする、チヨンは固く決意したのだった。
その頃サンヒョクは笑顔でリハーサルに望んでいた。隣りにはユヨルがいた。
「先輩、フィナーレはよろしくお願いしますね。」
「任せろ。ちゃんとユジンさんを連れてこいよ。」
二人はそう言うと目配せをして舞台をおりた。いよいよコンサートの幕が上がる、、、。