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ザッザッザッザッ
走り続けるユジンには、雪の音しか聞こえなかった。夜になって、踏み固められた雪がツルツルとアイスバーンになりはじめている。それでもただただ夢中で走り続けるしかなかった。今はただ、全ての事から逃げ出したかったのだ。すると、ふいに後ろから誰かがユジンの腕を掴んだ。反動で振り向くと、それはミニョンだった。ミニョンは、息を弾ませながら、真剣な眼差しでユジンを見つめていた。その瞳は涙で潤んでおり、ユジンの悲しみに深く傷ついている様子が分かった。
ミニョンは、必死にユジンを追いかけた。今追いついてその手を掴まなければ、永遠にユジンを失ってしまいそうで怖かった。やっと追いついて、腕をしっかりと掴んだ。そして振り向いたユジンの顔を見て、胸が締め付けられた。涙に濡れてぐしゃぐしゃだったのだ。ただでさえ色の白い顔は、悲しみで透き通るような青白さで、華奢な身体は抱きしめると折れてしまいそうな儚さだった。ミニョンは咄嗟にユジンを強く抱きしめて言った。
「ユジンさん、あなたを二度と離しません。分かりましたか。」
これでユジンを抱きしめるのは2回目だった。この前はユジンの悲しみを癒やしてあげたいと思った。今度はユジンを何としてでも守り抜きたいと誓った。
ユジンはミニョンに抱きしめられて心の底から安心した。ジャケットから立ち上るタバコの匂いや、がっちりした身体の力強さに、ものすごい速さで鼓動を刻んでいた心臓が、少しずつ落ち着きを取り戻していた。安心する、この人と一緒にいたいと願った。
ミニョンはいったんユジンを離して、じっと見つめた。二人の視線が熱く絡まる。ミニョンの瞳は真剣で、奥底には苦痛と悲しみが宿っていた。それはまるでユジンの心を映す鏡そのものだった。
「ユジンさん、僕に、僕について来てくれると約束してください。もう二度と離れないと。いいですね?」
ユジンはミニョンの目を見て、涙を流しながらゆっくりと深くうなづいた。そんなユジンをミニョンはもう一度強く抱きしめるのだった。
心の奥底に仕舞い込んでいたお互いへの想いがひとつになった瞬間だった。寒い空の下、二人はしばらく抱き合っていた。
その頃、サンヒョクはユジンを必死で探していた。必死に隠していたのに、みんなの前でこっぴどく振られてしまった。サンヒョクには怒りよりも、今ユジンを捕まえないと、ミニョンに盗られて、永遠に戻ってこないと感じていた。急がなければ、と思うほど心は空回りした。あたり一面の雪の中、なかなかユジンとミニョンを見つける事はできなかった。
そのとき、一台の車が駐車場から飛び出してきた。一瞬街灯に照らされた車内に、まっすぐ前を向いたミニョンとユジンが乗っているのが見えた。2人はサンヒョクに気がつかない。そして車は猛スピードで雪けむりを上げながら去って行った。サンヒョクはその後ろ姿を見つめる事しか出来なかった。
車は夜の林をひたすらに走り続けていた。ミニョンは厳しい顔つきで一言も発しないまま、運転している。ユジンはそんなミニョンの横顔をチラッと見て、今度は窓の外を眺めた。どこに行こうとミニョンが一緒なら構わない、彼を信じて何も聞かずについて行こう、と思うのだった。
ホールではサンヒョク、ユジン、ミニョンを待つ家族や友人が待ち続けていた。ユジンの母ギョンヒにはチンスクが横に座って慰めていたし、チェリンは遅い3人に不安を感じて、イライラし始めた。サンヒョクの両親は失望と疲れを隠そうともせずにうなだれていた。
車は1時間以上山道を走り、一軒の家の前で止まった。どうやらそこは人里離れた別荘のようだった。真夜中だというのに、その別荘には煌々と灯りがともっていた。
「ここはどこですか?」
「うちの別荘なんです。」ミニョンはニッコリと笑った。車を降りてもユジンは不思議そうにキョロキョロと周りを見回していたが、ミニョンは手慣れた様子で玄関の鍵を開けようとした。
すると、突然ドアが開いて一人の女性が外に出てきた。面長の美人だが、なんとなく冷たくて気が強そうな雰囲気の女性だった。その女性は、ドアの前に立つユジンには目もくれず、真っ赤な口元を綻ばせて、ミニョンを抱きしめた。
「ミニョン‼️」
「母さん」
ミニョンの背中にまわる赤いマニキュアの手や、ミニョンの笑顔、女性の顔をしげしげと見比べながらも、状況が飲み込めずに、キョトンとしているユジンだった。
ミニョンを抱きしめているのはピアニストのカンミヒだったのだ。