サンヒョクがユジンを見送って、寂しげに廊下を歩いていると、一緒に番組でコンビを組んでいる先輩DJのユヨルが近づいてきた。ユヨルは婚約から婚約解消、友人に戻ったサンヒョクとユジンについて経緯をなんとなく聞いていたので、びっくりしてサンヒョクに話しかけた。
「おい、なんでユジンさんがここに来てるんだよ。」
「ああ、ユジンは留学するんだって。」
「留学?!ちょっとサンヒョクここに座れよ。」
ユヨルはサンヒョクを廊下の長椅子に座らせると話し始めた。
「サンヒョク、お前さ、もう一度ユジンさんを捕まえろよ。忘れられないんだろ?」
しかし、サンヒョクはうつむいたまま
「もういいんです。」とつぶやいた。しかし、その左手にはきらりと婚約指輪が光っている。
「お前な、じゃあこれは何なんだよ。何があったか知らないけど、ユジンさんがつらい時期には支えてやれよ。お前、彼女がつらいときに知らんぷりするのか。心配じゃないのか。愛する人を黙って行かせていいのかよ?俺はそう思う。」
いつもふざけているユヨルは珍しく真剣にそう言うと、サンヒョクを残して行ってしまった。ユヨルの言葉の中に取り残されたサンヒョクは、しばらくじっと考え込むのであった。ユジンとチュンサンはもう元に戻ることは法律的にあり得ない、そして自分はまだユジンを愛している。ユジンはチュンサンとの別れに傷ついて、ひとりで人生をやり直そうと頑張っている。そんな彼女の辛い時期を支えるのは、確かに自分の役目かもしれない、サンヒョクは決心するのだった。
その日の夜、チュンサンはそっとユジンのアパートの前にただずんでいた。チュンサンはユジンに自分たちが兄妹でないことを伝えたくてやってきたのだった。もしかしたらやり直せるかもしれない。しかし、明日をもしれぬ命になってしまった今は、またユジンを傷つけてしまうかもしれない、チュンサンはユジンの部屋の明かりをじっと見つめて躊躇していた。彼女の部屋の明かりは、まるでポラリスのように、暗い夜空に輝いている。今の自分には、ユジンだけが希望の光だ。本当はそばにいてほしい。そんなチュンサンのことは知らず、部屋の中ではユジンのベッドの上で、ユジンとチンスクがしんみりと肩を寄せ合って座っていた。長くて楽しかった二人暮らしも、もうすぐ終わりを迎える。
「あーあ、寂しくなるな。この部屋ももう引き払わなくちゃいけないよね。」
しんみりと言うチンスクにユジンが言った。
「えっ?結婚するまで住んでたら?」
「結婚?!相手もいないのに?」
「だってヨングクがいるじゃない。」
「やだっ、冗談でもそんなこと言わないでよ。」
照れて自分を叩いてくるチンスクを、ユジンはにこにこと笑って見つめていた。
「そういえばユジン、留学する前に、みんなで一晩中食べて飲んで騒ごうよ。」
「いいよ。」
「会社の人たちも呼んだらどう?友達って言っても、ヨングクにチェリン、サンヒョクにチュンサン、、、あっごめん。つい名前が出ちゃって。」
チンスクは慌てて謝ったが、ユジンの顔はすでに曇っており、部屋の温度は一気に冷えた。ユジンは遠い目をして黙っている。その時、ユジンの携帯にサンヒョクから電話がかかってきた。外で待っているというサンヒョクに、ユジンは慌てて3階から外に降りて行った。ユジンはびっくりして息を切らせながら聞いた。
「どうしたの?サンヒョク」
するとサンヒョクは久しぶりに見る真剣な顔つきで言った。まるで、付き合っていた当時のような、まっすぐで熱いまなざしでユジンを見つめている。
「ユジン、僕たちやり直せないかな?」
それを聞いたユジンの顔はみるみる曇っていった。そして、それを物陰から聞いているチュンサンもまた凍り付いて表情を歪めるのだった。