パーティーの数日後、ポラリスの事務所の仲間、つまりユジン、チョンア、スンリョンの3人は久しぶりにチョンアの奢りで飲みに行くことになった。いつも、スキー場の仕事には2人の女性ばかり現地に行って、男性のスンリョンにはお呼びがかからないので、拗ねてしまったのだ。3人は憂さ晴らしのため、居酒屋やバーを梯子していた。飲めないユジンを除いて、二人はかなり酔っ払ってくだをまいている。ユジンはしきりに帰りたがっていたが、二人は許してくれなかった。
そのころマルシアンではミニョンが、真剣な顔で写真を見ていた。先日、スキー場で使ったコートをクリーニングに出そうとしたら、ユジンの香りとともに、写真のフィルムが出てきた。そうだ、ユジンにコートを貸したのだった、とミニョンは気がついた。アシスタントにお願いして現像に出しておいたのだが、戻ってきてびっくりした。ミニョンの写真が沢山あったのだ。ユジンが撮ったことはうすうす気づいていたが、こんなに沢山撮られていたとは。
タバコを吸っている姿
部下に指示をしている姿
ユジンのカメラを見て微笑む姿まで、、、。
そのときは微笑ましく思ったが、今となっては不信感しかわかない。やはり、チェリンが言ったように、婚約者がいるにもかかわらず「落としたい」というゲームをしているのだろうか。まさか、わざとフィルムをポケットに入れたのだろうか?そんな風には見えないのに。
その日の夜ミニョンはキム次長とバーに飲みに行った。お酒で気を紛らわせたかった。そしてキム次長に尋ねた。
「先輩、全く純粋そうに見えるのに、理解出来ない行動をする女がいるんです。本音と裏腹な行動ばかりするんですが、どうしてでしょうか」
「理事、プレイボーイがぼくに聞くんですか?僕に分かる訳ないじゃないですか。理事の気を引いて寝たいとか、、、。一度相手をしてやったらどうですか。」
「はぁ。そんな単純な話じゃないんです。本当にそんなふうにみえないから困ってるんです。」
「こんな女ったらしを悩ませる女性って誰ですか?怪しいなぁ。その手のオンナはハマると深みに落とされるから厄介ですよ。気をつけて。」
ミニョンは何と答えて良いか分からずに、どんどんお酒🥃がすすんだ。
そのときポラリスの一行が騒がしく店に入ってきた。キム次長はすぐにユジンに気がついて、席を立って近寄ってきた。結局一行はキム次長の一声で一緒に飲むことになってしまった。
ポラリスの3人は何かゲームをしているようだった。キム次長は興味深々で尋ねた。
「何してるんですか?」
「空き瓶ルーレットをしてるんです。瓶の先が向いた人がみんなの質問に答えるんですよー。で、答えられなかったら一気飲みするんです。今ユジンに質問してたんです。ユジンはサンヒョクさんと10年近く一緒にいるけど、本当にずーっと一筋だったかなって思って。おいっ
ユジン、たまには他の男に心が揺れることもあっただろう?だいたい初恋は誰なんだよ。男はサンヒョクだけってことはないだろ⁉️」
スンリョンは酔っ払っているので、あけすけに話した。
「スンリョン、やめなさいよ。ユジンは一途だし、お酒が飲めないんだから。サンヒョクしかいないに決まってるでしょうが。ほら、困った顔をしてるわよ」
「そりゃあ面白そうだ。わたしも聞きたい」
キム次長は楽しそうだったが、ミニョンは冷たく言い放った。
「あんまり思い出がありすぎて言えないんじゃないですか」
みんな、びっくりして黙ってしまった。
ユジンは傷ついた顔をして、手近にあったビールのコップを一気飲みした。
スンリョンもチョンアも、ユジンが全く飲めないことを知っているので、口をあんぐりして見ていた。
するとミニョンはたたみかけるように、
「ほら、女性の飲めないは信用できませんね。飲めるじゃありませんか。さあどうぞ。」
とビールをついだ。
「ちなみに理事の初恋は誰ですか?」
キム次長が聞くと、ユジンはミニョンをじっと見つめて、固唾を飲むように返事を待っていた。
「僕は今の彼女にしか興味はありません。過去の恋愛は振り返らないようにしてるんです。」
また、冷たい返事が返ってきた。ユジンはその返事を聞いて、ガッカリしてしまいますますビールを飲むのだった。
ミニョンの奢りだと聞いて、チョンアとスンリョンは酒が進み、ベロンベロンに酔っ払ってしまった。そんな二人を送るため、キム次長も帰ってしまい、あとにはユジンとミニョンだけが残された。ユジンは顔が真っ赤になって、目を潤ませてミニョンを見つめている。身体は半分テーブルにしなだれかかるようになり、頬杖をついている。完全に酔っ払っていた。
いつのまにかユジンは昔チュンサンに聞かれた質問をミニョンにしていた。チュンサンのような答えを返してくれないだろうか。
「理事、理事は同じ過ちは二度としないタイプですか?それともしないと思っても、またやってしまうタイプですか。」
しかし、ミニョンの答えは全く違った。
「僕は失敗はしても同じ過ちを繰り返すタイプではありません」
「それなら、ある人に二度と会わないと決めたら、会いたくても我慢しますか?それでも会いたいから会いに行きますか?」
「会いません」
ミニョンはキッパリと言った。
ユジンは
「過ちを犯すことはあります。会いたい気持ちは抑えられないから会いに行きます」という言葉を待っていた。それこそチュンサンだったから。でも彼はチュンサンではないのだ。
ユジンはガッカリしながら
「そうかぁ。本当に正反対なんですね、、、あぁ全然違う、、、。でもどうしてこんなに似ているの?」とつぶやいた。
ミニョンは驚いて聞きかえした。
「何ですか?」
すると、ユジンはまたため息をついて、潤んだ瞳でミニョンを見上げたまま呟いた。
「ミニョンさんは、私の知っている人に似てるんです。すごーく似てるんです、、、。わたしが初めて好きになった人に。初恋の人に、、、」
ミニョンの背中がゾクっとした。これがチェリンの言っていた初恋の人の話をして落とす作戦なのか、、、。心が嫌悪感に満ちていく。
ユジンはぐでんぐでんに酔っ払っており、ミニョンが抱き抱えないと歩けないほどだった。ユジンの住所を教えてもらい、タクシーに押し込みたいのに、訳の分からないなことを話し続けている。
「ミニョンさんの好きな色は白じゃないですか?そうですよね?好きな季節は冬、わたしも好きなんですよ〜」
昔チュンサンとした会話を繰り返すユジンを仕方なくおんぶして、自分が常泊しているホテルの部屋まで連れて行った。家庭や家にこだわりのないミニョンはホテルに住んでいたのだ。
仕方なくユジンをソファーに寝かせて、毛布をかけた。自分は冷蔵庫からビールを取り出して、ひと息ついた。
なんて、最悪な展開なんだろう。しかし、ユジンの寝顔はまるで天使のように安らかで、悪意は微塵も感じられなかった。ミニョンはしばらく眺めていたが、立ち上がった。
その時だった。寝ていたはずのユジンが呟いた。
「、、、チュンサン」
「うん?」ミニョンがびっくりして振り向くと、ユジンもびっくりして起きあがった。今、彼は返事をしてくれた。本当にミニョンさんはチュンサンなのかもしれない。
ソファーのところに来て、優しい顔で見つめ返すミニョンを見つめながらユジンは話し始めた。
「本当にチュンサンなのね。私、あなたのことを一度も忘れた事はなかったのよ。これは夢じゃないよね?チュンサン。」ユジンは涙を流しながら、ミニョンの首に腕を回して抱き締めた。
「どうしてはじめから正直に言ってくれなかったの?わたしずっとあなたがチュンサンでありますようにって祈ってたのよ。本当にずっと会いたかったのに、ひどすぎる」
「だって僕にはチェリンがいるんだよ」
「でもわたしの事を好きだって抱きしめてくれたじゃない。デートしたことも忘れたの?あのキスのことも?」
「いや、、、」
ユジンは涙を流しながらミニョンに顔を近づけていった。ミニョンはユジンの涙をぬぐった。すると、ユジンはそっと目を閉じた。
しばらくミニョンは冷ややかにユジンの顔を眺めた後、
「簡単すぎてつまらないな、、、ユジンさん」と言った。
「??」
ユジンは呆然としてミニョンの顔を見つめていた。
「これがいつもの初恋の人話ですか?まあ、作り話の中では一番退屈かも。」
「チュンサン、何を言ってるの?」
「もうお芝居はやめましょう。涙の演技も素晴らしいし、飲めないはずの酒を飲んで酔っ払ったフリ、初恋の人の話。もう充分です。まさか、友達の彼氏に迫るなんて、、、」
「、、、ミニョンさん?」
「そうですよ。僕はミニョンです。分かってやっているんでしょう。そのお芝居をまだ続けてもいいですよ。僕も男ですし。」
ミニョンは冷笑して言った。
ユジンは一気に酔いが醒めた。近づいてくるミニョンを押し返して、荷物を手にとった。こんなに恥ずかしくて屈辱的なことはなかった。チュンサンとの大切な思い出をこの男に話してしまったばかりか、馬鹿にされてふみにじられたのだ。しかも、ミニョンは自分が彼を誘惑したと思い、まるで軽い女のように軽蔑している。悔しくてたまらなかった。
「ユジンさんが望んだことなんでしょう?」となおも腕を掴むミニョンを、思わず平手打ちしてしまった。ユジンは荷物を引っ掴むと、慌てて部屋を飛び出した。自分の愚かさに涙が溢れた。よりによって酔っ払ってホテルまでついてきたあげくに、チュンサンと勘違いするなんて。その夜、ユジンはいつまでも布団にくるまって泣いていた。