次の日の朝も、ドラゴンバレーは雪に覆われて、吐く息も凍りそうなほど寒かった。ユジンが建物の調査をしていると、現場の職人さんが慌てて走ってきた。
「キム監督が酔っ払って、外で寝てしまってあやうく凍死しかけたんです。」
ユジンは、すぐに現場に駆けつけた。幸いにも寝た場所が材木置き場だったため、少しは寒さから守られて、凍死を免れたのだった。ユジンは他の職人と一緒に彼を毛布でくるみ、手足をさすった。湯たんぽを持ってこさせて、念のために救急車を呼んだ。みなで暖かい宿舎に運んだ。
「昨日、わたしが宿舎まで見送ればよかったんです。おじさん、ごめんなさい。」
ユジンは激しく後悔した。それと同時に、妻を亡くしてひとりぼっちのキムが解雇されてしまったらどうしようと心配していた。自己管理不足と言えばそれまでだが、キムの生き甲斐の仕事を取られてしまうのは、生きる希望を潰すことになる。
しかし、チョンアがユジンの元に来て、マルシアンはキム監督を解雇するつもりだと告げた。
ユジンはたまらず走り出した。
ユジンはミニョンのオフィスに行って、ミニョンにチャンスをあげてほしいと頼むつもりだった。
「理事、キム監督の解雇を撤回していただけませんか。昨日は、亡くなった奥様の命日だったんです。それで、思い出してしまい、つい飲み過ぎたんだと思うんです。お願いします。」
ところがミニョンは冷徹に言い放った。
「私情を挟まないでください。皆さんに迷惑をかけたんですよ。」と言った。
「亡くなった人を思って涙を流すのは、自分の寂しさをまぎらわすだけでしょう。亡くなった人にとってもっともいい贈り物は、忘れてあげる事なんです。」
それを聞いてユジンの心は震えた。
「キム監督を雇ったのはポラリスです。だからわたしも辞めます。もうあなたのような冷酷な方と働けません。」
ユジンは一礼して部屋を出て行こうとした。
「僕が冷酷ですって?」
「そうです。あなたは今まで誰かを本当に愛したことがないでしょう。だからそんな冷たいことが言えるんです。」
ミニョンはとても痛いところを突かれた、とてじろいだ。今まで自分は誰かのために尽くしたり、誰かを思い生きてきたのだろうか。常に愛される自分を当たり前のように感じていて、深く人のことを思いやっていなかったように感じた。
「あなたについさっきまでそばにいて、笑ったり泣いたりしていた愛しい人が、一瞬でいなくなる気持ちがわかりますか。他は何も変わらないのに、大切なひとだけがいなくなるんです、、、きっとあなたのような人には分からないでしょう、、、それを悲しむことがそんなに悪いことですか」
ユジンの眼差しは、深い悲しみと強い怒りでいっぱいで、深くて暗い湖のように見えた。あまりの悲しみのオーラに何も言えなくなってしまい、涙でいっぱいの目で去っていくユジンをミニョンは呆然と見送るしかなかった。
自分は、本当に心から誰かを愛したことがないのだ、、、ミニョンはそれに初めて気づいた。
一方ユジンも
「亡くなった人に最も良い贈り物は、泣くのではなく忘れること」と言ったミニョンの言葉が胸に突き刺さっていた。
ユジンは寂しさに耐えきれず、母親に電話した。泣いているのを悟られないように、声を押しころして、亡くなった父親のことを想い出すか聞いてみた。母親は
「パパのことなら、何ひとつ忘れていないわ。優しい声も、その笑顔も、あなたたちを見守る姿も、何もかも。忘れられるわけがないわ。だってまだ愛しているもの。」
とそれは優しい声で話してくれた。ユジンはいつまでも受話器を握りしめて、静かに涙を流しながら母親の声を聞いていた。外の暗闇は、まだまだ明けそうもなかった。