「チュンサンとユジンの結婚は絶対に阻止しなければなりません。お母さんがスキー場に急いで行ってください。彼らは今すぐにでも結婚してしまいそうです。今止めないと大変なことになります、、、。これは大きな過ちです。ええ、わかりました。すぐには難しいんですね。わたしもできるだけ早くいきますから、、、。それじゃ。」
サンヒョクがそっと部屋に入ると、ジヌはとても驚いた顔をした。
「父さん、どうして父さんがユジンたちの結婚に反対してるの?」
サンヒョクはあまりにびっくりしてしまい、そんなジヌの様子には構わずに話した。
「父さん、僕なら平気だよ。少し前まではつらかったけど、もう大丈夫だから。ね、父さん。」
しかし、ジヌは顔をしかめて観念したように言った。
「確かに私が反対する理由はないんだが、ユジンのお母さんも実は理由を知らないんだ。こんなこと言えないし。もし、お前が理由を知りたいなら、聞いた以上は二人の結婚を全力で阻止すると約束してくれ。約束できるか?」
父のこんなに深刻な表情は初めて見た。サンヒョクは2度と後戻りできない沼にはまり込んだ気がしたが、その真剣な顔を見ていると、催眠術にかけられたように思わず言ってしまった。
「わかったよ。父さん」
するとジヌが暗い声で話し始めた。
「チュンサンは、、、チュンサンはヒョンスの子なんだよ。わかるか?チュンサンとユジンは兄妹なんだ、、、、」
サンヒョクの頭は真っ白になった。そんなことがあるのだろうか。まさか。自分がこの前励ますつもりでミニョンに言ったことが本当だったなんて。サンヒョクは信じられなかったが、よく考えてみると、今までの親たちの反応やミニョンの不安がる様子を思い出して、合点が言った。これは何とかしなければならない。ジヌは、ショックを受けているサンヒョクに、今すぐ自分の代わりにスキー場に行ってほしい、二人は今夜にでも結婚してしまうかもしれないと告げた。サンヒョクはすぐに家を飛び出した。そして、真っ暗になった空を見上げて、竜平に車を走らせるのだった。どうか間に合うようにと祈りながら。
その少し前に、ミニョンは自室でタキシードを着こんでいた。罪悪感に悩まされながらも、結婚式を中止するつもりはなかった。神に背いてでも実行するつもりだった。
ユジンも、ソウルのアパートで、ミニョンにもらったウエディングドレスを着ていた。まだ自分が結婚するなんて考えられなかった。でも、今日その夢がかなう。しかし、ミニョンの早急すぎる様子を見ると、なぜか不安が先立ってしまい、鏡の中の自分は少しも笑っていなかった。ユジンはポラリスのネックレスを胸元に着けると、部屋を静かに出るのだった。
サンヒョクは竜平に着くと、ユジンの部屋に向かった。しかし、いくらインターフォンを鳴らしても、ユジンがいる様子はなかった。そこで、今度はチョンアの部屋を訪ねた。チョンアはサンヒョクを見るとびっくりしたようなバツが悪そうな顔をしていたが、サンヒョクはかまわずに「ユジンはどこにいるのか」と叫んだ。はじめチョンアはどうしても教えようとしなかったが、サンヒョクが「結婚を妨害したいわけではない。伝えたいことがある。」というと、しぶしぶ教えてくれた。ユジンはソウルにいて、ミニョンとソウルのとある教会で結婚式を挙げるつもりであると。そして、ミニョンは竜平から一人で車で教会に向かっていること、ユジンとはソウルからそこで落ち合うつもりなことを教えてくれた。サンヒョクはやっとのことで教会の名前と場所を聞き出すと、竜平からソウルに取って返すのだった。間に合うとよいのだが、と猛スピードで車を走らせながら。
ミニョンは教会の中でただ一人、磔になったキリストの像の前でぼんやりと考えていた。揺らめくろうそくの光だけが温かい。自分たちはこの前見た幸せそうなカップルとは違う。あの時のような祝福を受けられる結婚でもなければ、神に背く行いでもある。でも、どうしてもユジンが欲しい。ユジンと結婚したい、ミニョンは迷いながらも決意を固めた。
その時だった。後ろの扉が静かに開いて、誰かがゆっくりと入ってきた。外から凛と冷えた冷たい空気がふわっと入ってきた。それと同時に、ユジンがからいつも香ってくるスミレの香りが、ふわりと鼻に届く。
恐る恐る振り向くと、黒いジャケットを羽織ったウエディング姿のユジンがそっと近づいてきた。この前ミニョンがプレゼントしたウエディングドレス姿は、まさにミニョンが夢見ていた通りでとても美しかった。胸元にはポラリスのネックレスが輝いている。ユジンと出会ってからずっと望んでいた光景、ついに夢がかなったのに、それなのに、ミニョンの心は晴れなかった。こんなことをしても、すべては泡沫となり消えてしまうのはわかっていた。「こんな結婚は間違っている」
ユジンはまっすぐにミニョンを見つめて、ほおを紅潮させながら、真剣な面持ちで歩いてくる。そして近くまでくると安心したように柔らかく微笑んだ。その瞳が澄み切っていて、ミニョンは心が苦しくなった。そしてユジンの手をそっと握りしめて祭壇の前で向かい合い、心の中で祈った。
「神様、僕をどうかお許しください」
こうして二人だけの結婚式は静かに幕を開けた。