昨年の夏、知人女性から、初めて入院生活を経験したというメールが来たので驚いた。圧迫骨折という怪我らしかった。すでに退院しているので、お見舞いには行かなかったが、数日後に電話がかかってきて話を聞き、また驚いた。
自宅のキッチンで料理の皿と飲み物を左右の手に持って、急いで廊下へ出ようとした時、その日に限って隅に置いてある段ボールの箱に躓(つまず)き、尻餅をついて転んだらしい。倒れかかりながら瞬間的に右手のグラスの飲み物をこぼさないようにしたため、重心を失ったらしかった。翌日から腰が痛くて、ついに起き上がれなくなり、救急車を呼んで近くの病院へ。医師から2週間の入院と告げられたが、病院の規則の夜9時消灯では、とても眠れず、朝は眠いのに起こされて充分な睡眠が取れないため、血圧測定ではいつもの130前後から20も30も上がってしまうので、
「このまま入院してると、病気になってしまうから、退院したいんですけど、駄目でしょうか?」
医師にそう聞くと、
「歩けるようになったから大丈夫でしょう」
と、許可が出て、1週間で退院したということだった。
「大変だったわね。でも、病気で入院より、怪我で入院のほうが、マシじゃない」
そう慰めたが、人生最大の不幸なできごとのような、彼女の口ぶりだった。
メールを読んだ後も電話の後も、初めて聞いた圧迫骨折について、ネットで調べてみた。骨粗鬆症が原因とあり、中高年女性に多く、骨密度の検査を受けるほうがいいと、どのサイトの記事にも同じようなことが書かれている。
そこで、ヤフー・サイトのセルフチェックをしてみると――。
『骨の健康度チェック診断結果』
骨の健康度:丈夫で良好!
という結果が出た。
ついでに、他のチェックもしてみた。
『背骨のゆがみ度』
ゆがみはなさそう
『骨盤のゆがみ度』
骨盤健康タイプ 理想的! 骨盤が自然な位置にある良い状態です。
という結果に。そのチェックは目安と思ったが、予想どおりでホッとした。
(そう言えば、骨密度測定の検査、受けたことがあるわ)
ブログ記事で調べてみたら、2010年に無料の検査、2008年に特定健診のオプションで受けていた。
5年経っているので、検査を受けることに決めた。何も症状はないし、ヤフーのセルフチェックも問題なく、検査を受けても正常の数値に決まっていると予想できたので、医療機関に行く必要はないと思った。
区の保健所で、無料の骨密度測定をしてくれる情報を読んだことがあるのを思い出し、サイトを見たら申し込みが必要なので、さっそく電話した。久しぶりの検査にワクワクし、カレンダーを見ては楽しみな気分になった。
けれど、当日、他の予定が入ったため、保健所にキャンセルの電話をした。また3か月後に無料の骨密度測定を行うと、担当者が親切にも教えてくれたので、
「その時に、また申し込みます」
と言っておいた。
日にちが経つうち、
(でも、午前から保健所へ行くなんて……)
と、気乗りしなくなり、近所の医療機関で検査を受けようと決めた。もっと時期が早ければ、2008年の時のように特定健診のついでにオプションで受けられたのに、有効期限は過ぎてしまっている。
近所の内科クリニックに、電話で問い合わせた。
(1)症状がなくても検査だけを受けることができるか。
(2)健康保険3割負担で、検査費用は、いくらか。
その2つの質問に対する受付女性の回答は、症状がなくても検査だけを受けられるということと、検査の費用は、初診料含めて1200円ということだった。
その日は午前中にマンションの理事会があり、近所のレストランでランチをすませてから、骨密度測定の検査を受けに行った。
毎年、特定健診に行こうと決心しながら今週こそ来週こそと延ばしては有効期限切れになっていた内科クリニックで、最後に来たのが2009年8月。昨年のその日で6年ぶり。午後の診療時間より15分早く着いたが、待合室には誰もいなかった。受付担当女性が、以前と違う熟年女性に変わっていた。壁に貼られた医療PRのポスターを見たりしていたが、コーヒーのお代わりサービスのレストランで2杯飲んで来たため、トイレに行った。健康診断の尿検査の時に知っていたが、このクリニックのトイレは超小空間、超狭い。待合室に戻って、さっき二言三言の会話をした受付担当熟年女性に、つい、
「こちらのトイレって狭いんですね」
とだけ言えば良かったのだが、続けて、
「メタボ体型の女性だと、身体のあちこちが壁にぶつかりそう」
と言った瞬間、しまったと激しく後悔した。返答に窮した顔つきでチラッと私を見て無言の受付担当熟年女性は、明らかにメタボ体型なのである。後悔しながらも内心、クスクスクスクス笑い出しそうになってしまった。決して、からかうとか軽蔑してとか不快にさせるつもりでは、なかった。
口は災いの元。気をつけなくちゃと反省した。
(でも、医療機関で働く女性がメタボ体型だなんて、最初見た時、驚いたから、メタボという言葉が脳にインプットされちゃってたせいで無理もないわ)
内心、そう呟いた。
やがて診療時間になり、待合室に入って来た看護師さんに、名前を呼ばれた。
「はい」
と、椅子から立ち上がりながら看護師さんの顔を見た瞬間、
(あっ、あの時の……!)
愕然となって声をあげそうになった。8年前の血液検査で私の腕に、何と30分間以上!!――と感じられるくらい長時間、私の嫌いな恐怖の採血の注射針を無残にも冷酷にも非情にも残酷にも突き刺し続けた看護師さんだったのである! 久しぶりに見たら、もうすっかり中年の容貌で、こんなに老けてたかしらと思うほどだった。けれど、「こちらへどうぞ」とか「ここに掌を乗せて下さい」など、言葉遣いは相変わらず、やさしい。素っ気なさも冷たさもない。でも、2度とこの看護師さんに恐怖の注射針を突き刺されるなんて嫌だわと思った。決して誇張ではなく本当に、30分か40分!!――と感じられるくらい長時間、私の腕に恐怖の採血の注射針を無残にも冷酷にも非情にも残酷にも突き刺され続けた悲惨な体験がトラウマになって健康診断に行けなくなった――ということはなくもないということもないけれど、採血注射針に対する恐怖は今も消えていない。
「あら、この骨密度測定器、前の時と違うみたい」
検査室に入り、測定器の前に立って、そう呟いた。
「はい、新しいのを導入したんです」
と、看護師さんが言った。
な~んだ、早く言ってよ!! と言いたい気持ちだったが、仕方なくガラス板に掌を押しつけた。
(8年前の測定器と同じじゃないなら、検査の意味がないわ!)
激しく落胆した。2つの体重計で、同じ時に測って誤差が生じたことを、経験している。
(コスト削減で安いリース料の測定器に変えたのかも……でも、これのほうが新しい測定器?……ううん、新しく見えるけど安くて古い測定器なのかも……)
いろいろ推測した。レントゲンで撮影され、結果がすぐ出るので、待合室で待っていた。他に、患者や受診者が1人もいない。また、壁に貼られた医療PRのポスターなど見ていると、看護師さんが待合室に来て、
「すみません、レントゲン撮れてなかったので、もう1度お願いします」
と言うので、また検査室へ行った。前のと同じ測定器じゃないと意味がないからやめます、と言う代わりに、
「測定器の故障?」
歩きながら看護師さんに聞いた。
「はい、すみません」
「この測定器、いつ導入したんですか?」
そう聞くと、
「えーと、去年です」
看護師さんが答えた。
(やっぱり! すぐ故障するくらいだから、やっぱり前のより古い測定器なんだわ! コスト削減で、安いリース料金の測定器に変えたんだわ!)
謎が解けた。
レントゲンで撮影され、結果が出るまで待合室で待っていた。他に、患者や受診者が、1人もいない。また、壁に貼られた医療PRのポスターなど見ていると、看護師さんが待合室に来て私の名前を呼んだ。
検査結果に、私は期待していなかったし、古い測定器に信頼もなかったから、ワクワク気分は味わえなかった。
診察室に入ると、以前と違う男性医師で、年齢不詳。中高年か熟年か不明。骨密度の検査結果は正常と告げられた。
――(同年齢と比較)97.17% (YAM)80.58% 正常――
そうプリントされた記録紙も見せられた。昨年、導入したという古い測定器だから、以前より低い数値でも全然ショックではなかった。
(新しい体重計と古い体重計で測って、違う数値だったもの。骨密度が下がったわけじゃないわ。同じ測定器でなくちゃ、測定の意味がないのよ)
内心、そう呟いた後、
「また今度、骨密度検査を受けるほうがいいでしょうか?」
一応、礼儀で聞く。
「そうですね。毎年受けるといいですよ」
医師が答えた。
「えええええっ!! 毎年、ですか!!」
驚愕の声をあげた私に、医師は目をパチクリ、ではなく、パチパチ瞬(まばた)きして、
「まあ、2、3年に、1度ぐらいは……」
と、言い直した。
2、3年に1度ということは、5年に1度で充分ということだわと思い、
「はい、わかりました」
と、診察室を出て、待合室へ。患者や受診者は1人もいないが、製薬会社の営業マンみたいな中年男性が何か事務的なことを話していた。
やがて、受付担当熟年女性から名前を呼ばれ、請求された金額が、1420円だった。クリニックを出て歩きながら、骨密度検査の結果が正常だったという安堵も何もなく、
(あの受付女性、電話では初診料含めて1200円て言ったのに、220円高く請求したわ)
頭の中に、その疑問が湧き、
――「メタボ体型の女性だと、身体のあちこちが壁にぶつかりそう」――
つい、そう言ってしまった言葉が、思い出された。
(やっぱり、メタボ体型って言葉に傷ついたんだわ)
その言葉を私が口にした時、チラッと私を見て無言だった表情も、思い出された。メタボを気にしている女性が、メタボという言葉にナーバスになっていて傷つきやすいことは容易に想像できる。
(でも、そんなことで220円高く支払わせるなんてセコイことするかしら)
(ううん、あり得ない)
(でも……)
あり得るかも、ううん思い過ごしかもと、頭の中がクエスチョン・マークでいっぱいになり、帰宅後、1時間近くネット記事を読みまくって調べたところ、何と、土曜日の午後は『夜間・早朝等加算』で請求金額がプラスされる、ということを知って、ようやく謎が解けた。ホッとした。
後日、知人女性と会った。骨折というから普通ではない歩き方を想像していたら、いつもと全く変わらなかった。
詳しく聞くと、怪我の原因は圧迫骨折ではなかった、と言うのである。レントゲンではそう診断されたが、MRI検査では違うとわかったらしい。
「じゃ、何ていう怪我なの?」
そう聞くと、
「急性……腰痛……何とか……先生の話って、難しくってよくわからないのよね」
と答えたのである。わからなければ聞けばいいのにと思ったが、そう言わなかった。患者への医師の説明が難しいというのは何かで聞いたか読んだかしたことがあるし、概して、医師は想像力が欠如しているため、患者の表情から、自分の説明を理解しているかどうか、わからないのだと思う。
「でも、とにかく、病気じゃなく怪我のほうがマシよ」
そう言うと、
「この年齢で初めての入院が、ガンとかだったら落ち込んじゃうものね」
彼女もニッコリ答えた。私は骨密度検査を受けたことを話した。彼女も入院中に検査したら、結果は年齢相応だったらしい。
翌日、ネットで、急性と腰痛をキーワード検索したら、ギックリ腰という記事が多くあった。
(じゃ、ギックリ腰? 骨折なんてオーバーなこと言うから。でも、急性腰痛ナントカなんて難しい専門用語で説明しないで、ギックリ腰って言えばいいのに)
医療機関へ行くと、いくつもの謎に振り回されるのは私だけではないかもと、そう思えるようなできごとだった。
自宅のキッチンで料理の皿と飲み物を左右の手に持って、急いで廊下へ出ようとした時、その日に限って隅に置いてある段ボールの箱に躓(つまず)き、尻餅をついて転んだらしい。倒れかかりながら瞬間的に右手のグラスの飲み物をこぼさないようにしたため、重心を失ったらしかった。翌日から腰が痛くて、ついに起き上がれなくなり、救急車を呼んで近くの病院へ。医師から2週間の入院と告げられたが、病院の規則の夜9時消灯では、とても眠れず、朝は眠いのに起こされて充分な睡眠が取れないため、血圧測定ではいつもの130前後から20も30も上がってしまうので、
「このまま入院してると、病気になってしまうから、退院したいんですけど、駄目でしょうか?」
医師にそう聞くと、
「歩けるようになったから大丈夫でしょう」
と、許可が出て、1週間で退院したということだった。
「大変だったわね。でも、病気で入院より、怪我で入院のほうが、マシじゃない」
そう慰めたが、人生最大の不幸なできごとのような、彼女の口ぶりだった。
メールを読んだ後も電話の後も、初めて聞いた圧迫骨折について、ネットで調べてみた。骨粗鬆症が原因とあり、中高年女性に多く、骨密度の検査を受けるほうがいいと、どのサイトの記事にも同じようなことが書かれている。
そこで、ヤフー・サイトのセルフチェックをしてみると――。
『骨の健康度チェック診断結果』
骨の健康度:丈夫で良好!
という結果が出た。
ついでに、他のチェックもしてみた。
『背骨のゆがみ度』
ゆがみはなさそう
『骨盤のゆがみ度』
骨盤健康タイプ 理想的! 骨盤が自然な位置にある良い状態です。
という結果に。そのチェックは目安と思ったが、予想どおりでホッとした。
(そう言えば、骨密度測定の検査、受けたことがあるわ)
ブログ記事で調べてみたら、2010年に無料の検査、2008年に特定健診のオプションで受けていた。
5年経っているので、検査を受けることに決めた。何も症状はないし、ヤフーのセルフチェックも問題なく、検査を受けても正常の数値に決まっていると予想できたので、医療機関に行く必要はないと思った。
区の保健所で、無料の骨密度測定をしてくれる情報を読んだことがあるのを思い出し、サイトを見たら申し込みが必要なので、さっそく電話した。久しぶりの検査にワクワクし、カレンダーを見ては楽しみな気分になった。
けれど、当日、他の予定が入ったため、保健所にキャンセルの電話をした。また3か月後に無料の骨密度測定を行うと、担当者が親切にも教えてくれたので、
「その時に、また申し込みます」
と言っておいた。
日にちが経つうち、
(でも、午前から保健所へ行くなんて……)
と、気乗りしなくなり、近所の医療機関で検査を受けようと決めた。もっと時期が早ければ、2008年の時のように特定健診のついでにオプションで受けられたのに、有効期限は過ぎてしまっている。
近所の内科クリニックに、電話で問い合わせた。
(1)症状がなくても検査だけを受けることができるか。
(2)健康保険3割負担で、検査費用は、いくらか。
その2つの質問に対する受付女性の回答は、症状がなくても検査だけを受けられるということと、検査の費用は、初診料含めて1200円ということだった。
その日は午前中にマンションの理事会があり、近所のレストランでランチをすませてから、骨密度測定の検査を受けに行った。
毎年、特定健診に行こうと決心しながら今週こそ来週こそと延ばしては有効期限切れになっていた内科クリニックで、最後に来たのが2009年8月。昨年のその日で6年ぶり。午後の診療時間より15分早く着いたが、待合室には誰もいなかった。受付担当女性が、以前と違う熟年女性に変わっていた。壁に貼られた医療PRのポスターを見たりしていたが、コーヒーのお代わりサービスのレストランで2杯飲んで来たため、トイレに行った。健康診断の尿検査の時に知っていたが、このクリニックのトイレは超小空間、超狭い。待合室に戻って、さっき二言三言の会話をした受付担当熟年女性に、つい、
「こちらのトイレって狭いんですね」
とだけ言えば良かったのだが、続けて、
「メタボ体型の女性だと、身体のあちこちが壁にぶつかりそう」
と言った瞬間、しまったと激しく後悔した。返答に窮した顔つきでチラッと私を見て無言の受付担当熟年女性は、明らかにメタボ体型なのである。後悔しながらも内心、クスクスクスクス笑い出しそうになってしまった。決して、からかうとか軽蔑してとか不快にさせるつもりでは、なかった。
口は災いの元。気をつけなくちゃと反省した。
(でも、医療機関で働く女性がメタボ体型だなんて、最初見た時、驚いたから、メタボという言葉が脳にインプットされちゃってたせいで無理もないわ)
内心、そう呟いた。
やがて診療時間になり、待合室に入って来た看護師さんに、名前を呼ばれた。
「はい」
と、椅子から立ち上がりながら看護師さんの顔を見た瞬間、
(あっ、あの時の……!)
愕然となって声をあげそうになった。8年前の血液検査で私の腕に、何と30分間以上!!――と感じられるくらい長時間、私の嫌いな恐怖の採血の注射針を無残にも冷酷にも非情にも残酷にも突き刺し続けた看護師さんだったのである! 久しぶりに見たら、もうすっかり中年の容貌で、こんなに老けてたかしらと思うほどだった。けれど、「こちらへどうぞ」とか「ここに掌を乗せて下さい」など、言葉遣いは相変わらず、やさしい。素っ気なさも冷たさもない。でも、2度とこの看護師さんに恐怖の注射針を突き刺されるなんて嫌だわと思った。決して誇張ではなく本当に、30分か40分!!――と感じられるくらい長時間、私の腕に恐怖の採血の注射針を無残にも冷酷にも非情にも残酷にも突き刺され続けた悲惨な体験がトラウマになって健康診断に行けなくなった――ということはなくもないということもないけれど、採血注射針に対する恐怖は今も消えていない。
「あら、この骨密度測定器、前の時と違うみたい」
検査室に入り、測定器の前に立って、そう呟いた。
「はい、新しいのを導入したんです」
と、看護師さんが言った。
な~んだ、早く言ってよ!! と言いたい気持ちだったが、仕方なくガラス板に掌を押しつけた。
(8年前の測定器と同じじゃないなら、検査の意味がないわ!)
激しく落胆した。2つの体重計で、同じ時に測って誤差が生じたことを、経験している。
(コスト削減で安いリース料の測定器に変えたのかも……でも、これのほうが新しい測定器?……ううん、新しく見えるけど安くて古い測定器なのかも……)
いろいろ推測した。レントゲンで撮影され、結果がすぐ出るので、待合室で待っていた。他に、患者や受診者が1人もいない。また、壁に貼られた医療PRのポスターなど見ていると、看護師さんが待合室に来て、
「すみません、レントゲン撮れてなかったので、もう1度お願いします」
と言うので、また検査室へ行った。前のと同じ測定器じゃないと意味がないからやめます、と言う代わりに、
「測定器の故障?」
歩きながら看護師さんに聞いた。
「はい、すみません」
「この測定器、いつ導入したんですか?」
そう聞くと、
「えーと、去年です」
看護師さんが答えた。
(やっぱり! すぐ故障するくらいだから、やっぱり前のより古い測定器なんだわ! コスト削減で、安いリース料金の測定器に変えたんだわ!)
謎が解けた。
レントゲンで撮影され、結果が出るまで待合室で待っていた。他に、患者や受診者が、1人もいない。また、壁に貼られた医療PRのポスターなど見ていると、看護師さんが待合室に来て私の名前を呼んだ。
検査結果に、私は期待していなかったし、古い測定器に信頼もなかったから、ワクワク気分は味わえなかった。
診察室に入ると、以前と違う男性医師で、年齢不詳。中高年か熟年か不明。骨密度の検査結果は正常と告げられた。
――(同年齢と比較)97.17% (YAM)80.58% 正常――
そうプリントされた記録紙も見せられた。昨年、導入したという古い測定器だから、以前より低い数値でも全然ショックではなかった。
(新しい体重計と古い体重計で測って、違う数値だったもの。骨密度が下がったわけじゃないわ。同じ測定器でなくちゃ、測定の意味がないのよ)
内心、そう呟いた後、
「また今度、骨密度検査を受けるほうがいいでしょうか?」
一応、礼儀で聞く。
「そうですね。毎年受けるといいですよ」
医師が答えた。
「えええええっ!! 毎年、ですか!!」
驚愕の声をあげた私に、医師は目をパチクリ、ではなく、パチパチ瞬(まばた)きして、
「まあ、2、3年に、1度ぐらいは……」
と、言い直した。
2、3年に1度ということは、5年に1度で充分ということだわと思い、
「はい、わかりました」
と、診察室を出て、待合室へ。患者や受診者は1人もいないが、製薬会社の営業マンみたいな中年男性が何か事務的なことを話していた。
やがて、受付担当熟年女性から名前を呼ばれ、請求された金額が、1420円だった。クリニックを出て歩きながら、骨密度検査の結果が正常だったという安堵も何もなく、
(あの受付女性、電話では初診料含めて1200円て言ったのに、220円高く請求したわ)
頭の中に、その疑問が湧き、
――「メタボ体型の女性だと、身体のあちこちが壁にぶつかりそう」――
つい、そう言ってしまった言葉が、思い出された。
(やっぱり、メタボ体型って言葉に傷ついたんだわ)
その言葉を私が口にした時、チラッと私を見て無言だった表情も、思い出された。メタボを気にしている女性が、メタボという言葉にナーバスになっていて傷つきやすいことは容易に想像できる。
(でも、そんなことで220円高く支払わせるなんてセコイことするかしら)
(ううん、あり得ない)
(でも……)
あり得るかも、ううん思い過ごしかもと、頭の中がクエスチョン・マークでいっぱいになり、帰宅後、1時間近くネット記事を読みまくって調べたところ、何と、土曜日の午後は『夜間・早朝等加算』で請求金額がプラスされる、ということを知って、ようやく謎が解けた。ホッとした。
後日、知人女性と会った。骨折というから普通ではない歩き方を想像していたら、いつもと全く変わらなかった。
詳しく聞くと、怪我の原因は圧迫骨折ではなかった、と言うのである。レントゲンではそう診断されたが、MRI検査では違うとわかったらしい。
「じゃ、何ていう怪我なの?」
そう聞くと、
「急性……腰痛……何とか……先生の話って、難しくってよくわからないのよね」
と答えたのである。わからなければ聞けばいいのにと思ったが、そう言わなかった。患者への医師の説明が難しいというのは何かで聞いたか読んだかしたことがあるし、概して、医師は想像力が欠如しているため、患者の表情から、自分の説明を理解しているかどうか、わからないのだと思う。
「でも、とにかく、病気じゃなく怪我のほうがマシよ」
そう言うと、
「この年齢で初めての入院が、ガンとかだったら落ち込んじゃうものね」
彼女もニッコリ答えた。私は骨密度検査を受けたことを話した。彼女も入院中に検査したら、結果は年齢相応だったらしい。
翌日、ネットで、急性と腰痛をキーワード検索したら、ギックリ腰という記事が多くあった。
(じゃ、ギックリ腰? 骨折なんてオーバーなこと言うから。でも、急性腰痛ナントカなんて難しい専門用語で説明しないで、ギックリ腰って言えばいいのに)
医療機関へ行くと、いくつもの謎に振り回されるのは私だけではないかもと、そう思えるようなできごとだった。