先日、久しぶりに従兄と会って、八重洲にあるホテルの日本料理レストランで食事を共にした。従兄は時々、仕事で都内へ来る用事があり、誘ってくれるが、私の都合がなかなかつかず、会ったのは約2年ぶり、と思ったら、そうではなかった。
「お久しぶり。何年ぶりかしら、2年ぐらい?」
そう言うと、
「3年だよ」
従兄が答えた。
「嘘。3年なんて経ってないでしょう」
「3年近くだ」
自信のある口ぶりで従兄が言うので、3年もと感慨深かった。携帯メールのやり取りをしているので、3年間も会っていないという感じはしなかった。従兄も同じらしかった。変わらないねという言葉が、互いの口から出るが、従兄は以前よりスリムになって若く見えた。スーツもネクタイも似合っていて、イケメン紳士ふうである。私を若いと言ってくれるので、お返しに従兄のスタイルを褒めてあげた。
互いの母のことが、話題になる。
「この間も電話したけど、伯母さんは元気だね。相変わらず、よく透る声で、よく喋るし」
私の母のことを、従兄が言った。
「叔母さんも元気でしょう?」
「声が小さくなったのが気になるんだ。食事も少ししか食べない」
「お母さんも同じよ。前みたいに、たくさん食べないわ。高齢だから自然なことで、心配ないと思うけど」
「うん」
従兄が時々、私の母に電話するのは、叔母と話させるためだった。従兄の母は、医療設備の整った介護付有料老人ホームで暮らしている。週末に従兄は母に会いに行き、私の母に電話をかけて、高齢の姉妹でお喋りさせる習慣である。
母は週に3日、デイ・サービスへ通っていて、叔母は寝たきりではないが、半分、それに近い。家族と暮らす母のほうが幸運と言えるかもしれない。きょうだいは2人だけになってしまった妹である叔母のことを話す時、母は、「お見舞いに行きたい」と、いつも涙声になる。
叔母は6年前、脳梗塞で3年間入院していた病院から、開設したばかりの施設に移った。新しくて広くてきれいな部屋だからと、お見舞いに行くたび、母は自分に言い聞かせるような口調で言うが、叔母の寂しさ、身体の不自由さを思うと、やはり胸が詰まるようだった。
話題が変わって、従兄の仕事の話になる。
「新しいポストとかプロジェクトとかのメール読むと、○○ちゃん(従兄のこと)、いきいきして、意欲も充実感も感じるわ。男性って、いくつになっても仕事が生き甲斐っていう一面があるのね」
「そうでもないんだ。会議の曜日とかは忙しいけど、他の日はあまり忙しくもない、ラクな仕事」
従兄はニヤリと笑った。
「なあんだ。だって、メールでは毎日あちらへ行き、こちらへ行きで多忙みたいな感じだから、頑張り過ぎて仕事ストレス溜めないようにって言おうと思ってたのよ」
メール文と、実際に会っての話とは微妙に違うものと、私は内心、おかしくなった。
「じゃ、ストレスないわね、健康そのものね」
従兄は以前、仕事のストレスから自律神経失調症になった経験があるから、忙しくないラクな仕事のほうがいいと思った。
「うーん、自覚的には健康だけど、あまり検査してないからね」
従兄の兄は長年、お酒も飲まず煙草も吸わず、健康には気をつかい、半年ごとに人間ドックを受けて健康体だったのに、60歳過ぎて肝臓ガンが見つかり、手術したり転院したりして1年経たないうちに亡くなった。従兄は対照的で、お酒を飲み、煙草を吸い、健康診断や人間ドックを信用していない。
「でも、会社の健康診断は?」
「人間ドックの費用が出るんだけど、血液検査だけ、年に1度受ける」
「血液検査受けてるなら、安心じゃないの」
健康診断や人間ドックを信用してないと、常々、言っているのに、な~んだという気持ちだった。本音とタテマエの違いかと思ったら、そうではなかった。
「血液検査って言ってもコレステロールとか中性脂肪とか、そういうんじゃなくて、女性は関係ないけど、男はさ、ほら、心配なことあるから、それの検査」
言いにくそうな、ちょっと照れたような表情が浮かんだ従兄の言葉に、
(えっ、男性機能の検査?)
一瞬、そう思い込んでしまった、アホな私。もちろん、すぐ理解した。前立腺ガンのことだった。
「それ以外は数値がどうのと言われたって気にしないし、信用してないもの」
従兄が言った。年に2回の人間ドックで健康を過信していた兄のことを従兄が、少しは意識している証拠に感じられた。
それから話題が、WOWOWで観た映画の話になり、私と従兄の好きな傾向やジャンルの違いを面白おかしく話したりした。従兄は学生時代、よく映画を観に行っていたと思い出す。私は映画より、ひたすら小説を読むのに夢中だったころ。
なつかしい思い出話も出て、クスクス笑い合っては時間が経つのを忘れるほど、楽しいお喋りが尽きなかった。
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「お久しぶり。何年ぶりかしら、2年ぐらい?」
そう言うと、
「3年だよ」
従兄が答えた。
「嘘。3年なんて経ってないでしょう」
「3年近くだ」
自信のある口ぶりで従兄が言うので、3年もと感慨深かった。携帯メールのやり取りをしているので、3年間も会っていないという感じはしなかった。従兄も同じらしかった。変わらないねという言葉が、互いの口から出るが、従兄は以前よりスリムになって若く見えた。スーツもネクタイも似合っていて、イケメン紳士ふうである。私を若いと言ってくれるので、お返しに従兄のスタイルを褒めてあげた。
互いの母のことが、話題になる。
「この間も電話したけど、伯母さんは元気だね。相変わらず、よく透る声で、よく喋るし」
私の母のことを、従兄が言った。
「叔母さんも元気でしょう?」
「声が小さくなったのが気になるんだ。食事も少ししか食べない」
「お母さんも同じよ。前みたいに、たくさん食べないわ。高齢だから自然なことで、心配ないと思うけど」
「うん」
従兄が時々、私の母に電話するのは、叔母と話させるためだった。従兄の母は、医療設備の整った介護付有料老人ホームで暮らしている。週末に従兄は母に会いに行き、私の母に電話をかけて、高齢の姉妹でお喋りさせる習慣である。
母は週に3日、デイ・サービスへ通っていて、叔母は寝たきりではないが、半分、それに近い。家族と暮らす母のほうが幸運と言えるかもしれない。きょうだいは2人だけになってしまった妹である叔母のことを話す時、母は、「お見舞いに行きたい」と、いつも涙声になる。
叔母は6年前、脳梗塞で3年間入院していた病院から、開設したばかりの施設に移った。新しくて広くてきれいな部屋だからと、お見舞いに行くたび、母は自分に言い聞かせるような口調で言うが、叔母の寂しさ、身体の不自由さを思うと、やはり胸が詰まるようだった。
話題が変わって、従兄の仕事の話になる。
「新しいポストとかプロジェクトとかのメール読むと、○○ちゃん(従兄のこと)、いきいきして、意欲も充実感も感じるわ。男性って、いくつになっても仕事が生き甲斐っていう一面があるのね」
「そうでもないんだ。会議の曜日とかは忙しいけど、他の日はあまり忙しくもない、ラクな仕事」
従兄はニヤリと笑った。
「なあんだ。だって、メールでは毎日あちらへ行き、こちらへ行きで多忙みたいな感じだから、頑張り過ぎて仕事ストレス溜めないようにって言おうと思ってたのよ」
メール文と、実際に会っての話とは微妙に違うものと、私は内心、おかしくなった。
「じゃ、ストレスないわね、健康そのものね」
従兄は以前、仕事のストレスから自律神経失調症になった経験があるから、忙しくないラクな仕事のほうがいいと思った。
「うーん、自覚的には健康だけど、あまり検査してないからね」
従兄の兄は長年、お酒も飲まず煙草も吸わず、健康には気をつかい、半年ごとに人間ドックを受けて健康体だったのに、60歳過ぎて肝臓ガンが見つかり、手術したり転院したりして1年経たないうちに亡くなった。従兄は対照的で、お酒を飲み、煙草を吸い、健康診断や人間ドックを信用していない。
「でも、会社の健康診断は?」
「人間ドックの費用が出るんだけど、血液検査だけ、年に1度受ける」
「血液検査受けてるなら、安心じゃないの」
健康診断や人間ドックを信用してないと、常々、言っているのに、な~んだという気持ちだった。本音とタテマエの違いかと思ったら、そうではなかった。
「血液検査って言ってもコレステロールとか中性脂肪とか、そういうんじゃなくて、女性は関係ないけど、男はさ、ほら、心配なことあるから、それの検査」
言いにくそうな、ちょっと照れたような表情が浮かんだ従兄の言葉に、
(えっ、男性機能の検査?)
一瞬、そう思い込んでしまった、アホな私。もちろん、すぐ理解した。前立腺ガンのことだった。
「それ以外は数値がどうのと言われたって気にしないし、信用してないもの」
従兄が言った。年に2回の人間ドックで健康を過信していた兄のことを従兄が、少しは意識している証拠に感じられた。
それから話題が、WOWOWで観た映画の話になり、私と従兄の好きな傾向やジャンルの違いを面白おかしく話したりした。従兄は学生時代、よく映画を観に行っていたと思い出す。私は映画より、ひたすら小説を読むのに夢中だったころ。
なつかしい思い出話も出て、クスクス笑い合っては時間が経つのを忘れるほど、楽しいお喋りが尽きなかった。
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