受付窓口の担当女性から、「これに記入して下さい」と、B5サイズの紙を渡された。
「はい」と答えて、その紙に眼を落とす。〈診察申込書〉と上部に書いてあり、紙の下に厚い台紙と、側面にボールペンが止めてあった。
〈診察申込書〉を書くスペースの壁際に移り、ポシェットからマイ・ボールペンを出して、個人情報や受診理由などを紙に記入した。
ふたたび受付窓口へ行き、担当女性に、
「はい、書きました」
と、〈診察申込書〉の紙を、カウンターの上に置いた。
健康保険証を求められて渡すと、担当女性が椅子から立ち上がって、
「体温、測ります」
と言い、手にした非接触型体温計を、私の首の右横に近づけた。
(非接触型体温計って、初めてじゃないわ、経験したわ)
内心、そう呟く。
非接触型体温計は、肌に触れさせず、近づけるだけで検温できるのである。
(体温計の進化ね!)
と、この時も、つくづく感じた。
検温時間も、ほんの数秒である。
「36度6分です。そちらで、お待ち下さい」
と、比較的感じの良い受付窓口の担当女性が、待合室ロビーを手で示した。
コロナ禍で発明されたのか知らないが、非接触型体温計で初めて検温されたのは、半年前、歯科医院で歯石除去のクリーニングを、3回に分けてした時だった。
毎回、歯科医院へ行くたびに、受付窓口にいる歯科助手の女性が検温した。
1回目は、36度4分。その翌週は、36度5分。その翌週も36度5分。
1回目の時、
「私の平熱、36度5分です。1分、低いわ」
そう言うと、
「今日は寒いから、気候も関係しますから」
と言われて、納得。2回目と3回目は平熱で安堵した。
病院で非接触型体温計で測ったら、平熱より1分高いのは、痛みのせいに違いないと思った。
「私の平熱、36度5分です。1分、高いわ」
と、言ってみたかったが、
(病院は受付窓口で、お喋りしちゃいけないのかも)
そう気づいた。歯科医院の窓口では数言だが、毎回、歯科助手の女性と言葉を交わした。もちろん互いにマスクをしてだった。医療機関に勤務する人と言葉を交わす機会は滅多にないが、病院はそんな雰囲気はなかった。業務も、歯科医院より多く、忙しいのかもしれない。
検温の直後の違いにも、気づいた。
歯科医院の時は、検温直後、歯科助手の女性に毎回、「何度?」と聞いた。
すると歯科助手さんは、その時の体温を口にしながら、結果が表示される体温計の液晶画面を私に見せてくれた。
けれど、病院の受付窓口の担当女性は、「36度6分です」と言っただけで、結果が表示される体温計の液晶画面は見せてくれなかった。
医療機関それぞれのマニュアルがあるのだと思うし、ミスとか見間違いとか疑っているわけではないが、結果が表示された体温計の液晶画面を見せて欲しかったと、チラッと思った。
待合室の椅子に座って順番を待っている受診者たちは、コロナ禍だからか、誰もお喋りしていない。しーんとしている。
私はコロナ禍だからというのではなく、待合室の椅子にはあまり座りたくないので、そのロビーを出て、廊下をゆっくり歩いた。
左手が玄関に通じるスペースで、ドアの外に椅子がいくつか並べられ、3人が無言で座っていた。
(車で送迎する家族の人たちかもしれない)
と、ちょっぴり羨ましくなった。
右手に、低いボードで遮られて入れなくしてあるスペースがあり、
――コロナ対策で利用中止です。――
と書かれた貼り紙があった。
奥を覗くと、椅子とテーブルが何組か置かれているのが見えた。小さなスペースで、〈密〉になるから利用不可ということのようだった。
コロナ対策という貼り紙で、コロナ・ワクチンのことを連想した。
先日、テレビのワイドショーで、ある女性コメンテイターが、「ワクチンを打つのは国民の義務ですよね」と言っていて、耳を疑うほど驚愕した。コロナ・ワクチンの大規模接種の話題で、みんなでワクチン打とう打とうの大合唱で盛り上がっている時だった。
コロナ・ワクチンを打つのは国民の義務というそのコメントは、聞き捨てならないというより、憤りを感じた。接種するかしないかは自由に決められるはずである。
(そんなこと言う人がいるなら、私は打ちませんからね)
天の邪鬼(あまのじゃく)な一面のある私は、そう言いたくなった。
「はい」と答えて、その紙に眼を落とす。〈診察申込書〉と上部に書いてあり、紙の下に厚い台紙と、側面にボールペンが止めてあった。
〈診察申込書〉を書くスペースの壁際に移り、ポシェットからマイ・ボールペンを出して、個人情報や受診理由などを紙に記入した。
ふたたび受付窓口へ行き、担当女性に、
「はい、書きました」
と、〈診察申込書〉の紙を、カウンターの上に置いた。
健康保険証を求められて渡すと、担当女性が椅子から立ち上がって、
「体温、測ります」
と言い、手にした非接触型体温計を、私の首の右横に近づけた。
(非接触型体温計って、初めてじゃないわ、経験したわ)
内心、そう呟く。
非接触型体温計は、肌に触れさせず、近づけるだけで検温できるのである。
(体温計の進化ね!)
と、この時も、つくづく感じた。
検温時間も、ほんの数秒である。
「36度6分です。そちらで、お待ち下さい」
と、比較的感じの良い受付窓口の担当女性が、待合室ロビーを手で示した。
コロナ禍で発明されたのか知らないが、非接触型体温計で初めて検温されたのは、半年前、歯科医院で歯石除去のクリーニングを、3回に分けてした時だった。
毎回、歯科医院へ行くたびに、受付窓口にいる歯科助手の女性が検温した。
1回目は、36度4分。その翌週は、36度5分。その翌週も36度5分。
1回目の時、
「私の平熱、36度5分です。1分、低いわ」
そう言うと、
「今日は寒いから、気候も関係しますから」
と言われて、納得。2回目と3回目は平熱で安堵した。
病院で非接触型体温計で測ったら、平熱より1分高いのは、痛みのせいに違いないと思った。
「私の平熱、36度5分です。1分、高いわ」
と、言ってみたかったが、
(病院は受付窓口で、お喋りしちゃいけないのかも)
そう気づいた。歯科医院の窓口では数言だが、毎回、歯科助手の女性と言葉を交わした。もちろん互いにマスクをしてだった。医療機関に勤務する人と言葉を交わす機会は滅多にないが、病院はそんな雰囲気はなかった。業務も、歯科医院より多く、忙しいのかもしれない。
検温の直後の違いにも、気づいた。
歯科医院の時は、検温直後、歯科助手の女性に毎回、「何度?」と聞いた。
すると歯科助手さんは、その時の体温を口にしながら、結果が表示される体温計の液晶画面を私に見せてくれた。
けれど、病院の受付窓口の担当女性は、「36度6分です」と言っただけで、結果が表示される体温計の液晶画面は見せてくれなかった。
医療機関それぞれのマニュアルがあるのだと思うし、ミスとか見間違いとか疑っているわけではないが、結果が表示された体温計の液晶画面を見せて欲しかったと、チラッと思った。
待合室の椅子に座って順番を待っている受診者たちは、コロナ禍だからか、誰もお喋りしていない。しーんとしている。
私はコロナ禍だからというのではなく、待合室の椅子にはあまり座りたくないので、そのロビーを出て、廊下をゆっくり歩いた。
左手が玄関に通じるスペースで、ドアの外に椅子がいくつか並べられ、3人が無言で座っていた。
(車で送迎する家族の人たちかもしれない)
と、ちょっぴり羨ましくなった。
右手に、低いボードで遮られて入れなくしてあるスペースがあり、
――コロナ対策で利用中止です。――
と書かれた貼り紙があった。
奥を覗くと、椅子とテーブルが何組か置かれているのが見えた。小さなスペースで、〈密〉になるから利用不可ということのようだった。
コロナ対策という貼り紙で、コロナ・ワクチンのことを連想した。
先日、テレビのワイドショーで、ある女性コメンテイターが、「ワクチンを打つのは国民の義務ですよね」と言っていて、耳を疑うほど驚愕した。コロナ・ワクチンの大規模接種の話題で、みんなでワクチン打とう打とうの大合唱で盛り上がっている時だった。
コロナ・ワクチンを打つのは国民の義務というそのコメントは、聞き捨てならないというより、憤りを感じた。接種するかしないかは自由に決められるはずである。
(そんなこと言う人がいるなら、私は打ちませんからね)
天の邪鬼(あまのじゃく)な一面のある私は、そう言いたくなった。