日本鉄道技術協会の会報誌JREAの2023年8月号を購入したので読書感想文を書きます。
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☆11ページ「丸の内線CBTCシステム走行試験」
近年話題の無線通信による次世代の信号システムCBTCですが、2024度に予定されている東京メトロ丸の内線での導入についての概要から実際の走行試験について述べられています。
CBTCのメリットとして大都市通勤路線では移動閉塞化による柔軟な運行や遅延回復力の強化が特徴的ですが、軌道回路が不必要になることでのコストダウンや軌道回路に起因する輸送障害がなくなるメリットも大きそうです。
CBTCはIEEE(米国電気電子学会)により標準化された規格とのことで、機器調達等からシステム導入まで量産効果などでコスト削減が図られそうですね
また従来のシステムに較べて双方向運転が可能など、輸送障害や工事の際に柔軟な折り返し運転や単線運転が可能になる点もポイントかなと思います。
また実際の導入に向けての走行試験、特に終電後に保守作業の合間を縫って営業運転に支障を出さないように行うための課題や社内調整に関して、本論文では短く触れられている程度ですが、この部分もかなりのキモであることが推測させられます
☆19ページ「御殿場線・身延線における運行管理システム更新」
この記事の為に本誌を手に入れたようなものでして・・
2022年に実施した御殿場線と身延線の運行管理システム更新を紹介。
現行のシステムが身延線で使用開始から18年経過したことで保守部品の入手などが困難になり更新を実施。御殿場線は16年でまだ取り換え年数には達していないが、この期に統合してコストダウンを図ることに。
2014年の名古屋地区東海道線の更新以降に付加している強風等の運行規制をPRC(自動進路制御装置)に連動させる機能の付加など。またセンターの運行表示盤を汎用液晶ディスプレイ化することで従来マグネット板(ピタネット)で表示していた情報を画面表示できるようになった等。
御殿場線と身延線を統合することで共用可能な設備を統合しイニシャルコスト、ランニングコストの低減をはかったこと。
実際の切替作業の際の工夫や、2022年6月に一度仮設指令に切り替え、旧設備の撤去及び本指令設備の設置を行い2022年10月に本指令への切り替えを行う。切り替え作業では列車運行に影響を与えることなく無事故で完了した点など。
ちなみに私は平成3年のあさぎり特急化直前の時期に当時沼津駅の5・6番線端にあった御殿場線指令所を見学する機会を得ました。当時パソコンのモニター数台で指令業務を行い、一般的にイメージする指令所の風景とはだいぶ異なる姿に驚いたものです。
当時は東海道線根府川真鶴間白糸川橋梁での強風規制などで、時々寝台特急や大垣夜行の御殿場線迂回が行われており、その件で「有効長を超える長編成の行き違いは短い列車を先に入れれば可能」という話や、「御殿場線内での天候規制の際は国鉄時代は長区間で運休させていたが、JR化され輸送を確保する観点で途中駅での折返しを積極的に行っている」(平成初期の頃は駿河小山駅や足柄駅での折返しも行っていた)という説明を覚えています
本誌の写真を見る限り、現在(2004年頃導入と思われる切替前設備も含め)はパソコンのモニターではなく、大型パネルに運行状況等を表示させる、イメージする指令所に近い姿で指令業務を行っているようです
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表紙画像は御殿場線・身延線指令所。左側は御殿場線、右側が身延線
☆47ページ「気仙沼線BRTにおける自動運転レベル4認証取得に向けた取り組み」
気仙沼線や大船渡線のBRT化に関しては思うところや賛否ありますが、巷では連接バスを導入すればBRTというとらえ方がありますが、三陸地区BRTでは新しい交通システムたる技術開発がおこなわれているようです
この項では単線鉄道の軌道敷をBRT専用道としているため、柳津~陸前横山間で両端含めて11か所のすれ違い箇所がある。ここでは自動運転バスと手動運転バスが混在する中で無線通信で位置情報を管理しクラウド上で単線区間の優先権を判断して有人運転車の運転席でタブレットに表示を行う車内信号が導入されている点が興味深いです。
☆55ページ「北海道新幹線青函共用走行区間における速度向上」
狭軌の貨物列車と標準軌の新幹線が三線軌条を共用する青函トンネルとその前後区間において、新幹線列車を最高260㎞/hで運行するための取り組むに関する内容。
開業時点では140㎞/h運転による運行なものの、その後各種改修、試験を行い2019年3月から三線分岐器のないトンネル内新幹線の160㎞/h化を実現し4分短縮。
さらに貨物列車との時間帯区分による速度向上として260km/hでの試験を行い営業運転に支障がないことを確認し、2020年12月31日からトンネル内210㎞/h営業運転を行い3分短縮。以後貨物列車への影響の少ないゴールデンウィーク、お盆、年末年始に時間帯区分での210km/h運転を行っている。現在では2024年度中の260㎞/h運転を目指し改修作業などに取り組み更に3分短縮を目指しているとのこと。
140km/h→260km/hの速度向上で10分短縮と、高速域では最高速度を引き上げても時間短縮効果が薄くなってきますが、実現するためのコストと苦労と短縮時分を思うと気が遠くなる地道な作業という印象です。
もっとも報道等では青函トンネルの新幹線専用化や第二青函トンネル構想なども出ていますが、現行の青函トンネルで貨物列車と共用した上での高速化を目指す方が必要な社会的コストを含めて実現性が高そうなのは一安心と言えます。
以上、特に興味深かった掲載論文に関して感想を記しました。
巻末に日本鉄道技術協会の入会申込書が付いていて、正会員会費は年間6600円、年度途中の入会は月額550円、他に入会金1000円だそうです。入会は鉄道業界関係者に限る。とは書いてないので誰でも入会できるのカナ?と。月額600円でこの論文集が買えると考えるとありかもですね??
2023年6月時点の正会員数4616名とのことで鉄道友の会よりも会員数多いですね。
ちなみに今回は書泉グランデで購入して1冊900円でした。
2024/2/10 18:45(JST)