炎天下、蝉時雨はやんでも、剪定バサミ、剪定バリカンの音は途切れない。最高気温が38度の予報が出ていた真夏のある日、依頼主の老婆が一休み中のメンバーに冷たい麦茶を出しながら言った。「申し訳ないね、火あぶりみたいで…」と。
しかし皆は、ふふっ…と口元をクールに緩めるだけだった。
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(樹の上は「火あぶり」だ)
当方の剪定チームは計9人(うち2人が非常勤)で、筆者を除けば全員が元はブルーカラーの仕事に就いていた。ブルーカラー、ホワイトカラーという言葉は近年あまり使われないようだが、妻の実家にあった広辞苑(第3版、昭和58年発行)によると、ブルーカラーは「(青色の作業衣を着るからいう)筋肉労働者。現場で働く労働者」とあった。「筋肉労働者」という言葉に時代を感じる。その後の広辞苑では「肉体労働者」という言い方に改められている。
当方のメンバーの大半は現役時代、建設・土木関係の仕事に従事していたという。現場作業員の方が通りがいい。学歴はみなさん高卒で、大卒は小生だけらしい。
仕事体験の違いは、雑談でも感じる。皆さん、読書習慣がなく、図書館にもまず行かないらしい。新聞も地元紙しか知らない人が多い。
それゆえに映画、音楽、アート系の話題は出たことがない。江戸・明治時代に、北前船でそこそこ栄えたこの町にも美術館があるのだが、行ったことがある人はいない。
休憩時間帯に最も出る話題は、新型コロナウイルス、スマホの扱い方、野菜づくりの方法、家族のことなどである。
それだからか、含みのある微妙な言い回し、ユーモア、ジョークといったものはここには聞かない。仕事中の言葉は短く発せられる。ほとんどが一文だ。「はよせんか!」「シート、使い終わったら片片付けろ」…などなど。ショート、明確さが大事なのだ。皆さん、動きが実に早いこととも相通じる点があるようだ。
これはまた別の個所で改めて触れたいが、時間イコール労賃であることとも深く関係している。
今夏は全国どこも猛暑だった。この地においても気温が35度を越える日が続いた。しかし、樹上で聞こえる剪定ハサミのカチッ、…カチッ音のテンポが遅くなることは決してなかった。
剪定バリカン(ガーデントリマーなどともいう)のググワッ、グワッ、グワッ、バリッ、バリッ…小枝を切る音が途切れて、「暑いなあ…、もう」「いやんなっちゃうよな…」などのため息が聞こえることもまず、決してないのだ。
炎天下、蝉時雨はやんでも、剪定バサミ、剪定バリカンの音は途切れない。最高気温が38度の予報が出ていた真夏のある日、依頼主の老婆が一休み中のメンバーに冷たい麦茶を出しながら言った。「申し訳ないね、火あぶりみたいで…」と。
しかし皆は、ふふっ…と口元をクールに緩めるだけだった。
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