ひとつ屋根の下・金木犀or蟻地獄の後、もうひとつ別の結末になるストーリーを思いついたのでupします。
しつこくてすみません。
☆☆☆☆☆
俺:茶倉譲二
その妻:茶倉宏子
その娘:森田友梨花
友梨花の同僚:八田竜蔵
☆☆☆☆☆
ひとつ屋根の下・もう一つの結末~その4
〈譲二〉
マナーモードにしてあった携帯を確かめる。
仕事の連絡事項ばかりか…。
この頃、友梨花からのメールはほとんど入らなくなった。
もちろん、俺がメールを出せば返信はくるのだが…。
彼女からの発信はほとんどない。
とうとう、愛想を尽かされたか…。
そりゃそうだよな。
ロコと離婚すると言いながらいつまでたっても離婚できないし、仕事が忙しくてほとんど恋人らしいことはできない。
それに…八田とかいうあの男の存在。
あいつとは職場が同じだから、友梨花は毎日顔を会わせている。
しかも友梨花のひとつ上で年も近い。
こんなんじゃ、あいつに勝てるわけはないな…。
ため息をついたとき、メールの着信音がした。友梨花からだ。
『今度の日曜日、できれば予定を空けてもらえませんか?
大切なお話があります
友梨花』
大切な話ってなんだろう? デートの誘い?
なわけないか…それならそうと書くだろう。
俺は予定を調べてOKの返信をした。
☆☆☆☆☆
夜、ロコと夕食後の片付けをしていた。
宏子「ねぇ、友梨花から日曜日を空けろってメールが来た?」
譲二「え?」
なんで、ロコがそのことを知っているんだろう?
宏子「ふふっ、私にも来たのよ。同じメールが」
ロコは嬉しそうだ。
譲二「なんでだか知っているの?」
宏子「聞きたい?」
譲二「もったいぶらないでよ」
宏子「あのね。多分なんだけど…リュウくんも一緒よ」
譲二「それって…」
宏子「友梨花、リュウくんにプロポーズされたんだと思うの」
その後はロコが何を言っているのかほとんど頭に入らなかった。
☆☆☆☆☆
次の日曜日、パリッとした背広姿のあの男が現れた。
いつもはジャージ姿だから、見違えるような男ぶりだ。
ニコニコと上機嫌なロコがアイツを家に上げた。
俺が入れたコーヒーは少し苦いものになってしまった。
ヤツはリビングのソファに友梨花と並んで座る。
恐縮しているのだろう…大きな身体が気の毒なくらい縮こまっている。
友梨花と年が近いだけあって並んだ姿はお似合いだったが、それは意地でも認めたくなかった。
宏子「リュウくん、そんなに緊張しないで…」
竜蔵「はあ、すみません。初めてなものですから…」
(プロポーズの挨拶に何度も来るヤツなんかいるわけないだろ)
友梨花「竜蔵さん?」
友梨花が目配せする。
竜蔵「お父さん! お母さん!」
突然の大声にロコが飛び上がる。
(だから、俺はお前の父親じゃないって)
竜蔵「ゆ、友梨花さんをオレ…じゃない…私にください!
一生幸せにします。お願いします」
アイツがぺこりと頭を下げる。
友梨花も真っ赤になりながら一緒に頭をさげた。
宏子「きっと、そうだろうと思ってたのよ。ジョージとも話していたんだけど」
ロコはますます上機嫌だ。
友梨花がそっと上目遣いに俺を見つめた。
譲二「…二人が決めたことなら…、俺が言うことは何も無いよ」
自分で言いながら、顔が強ばっているのがわかる。
二人の結婚話はトントン拍子に進んだ。式の日取りは三ヶ月後の吉日に決まった。
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俺:茶倉譲二
その妻:茶倉宏子
その娘:森田友梨花
友梨花の同僚:八田竜蔵
☆☆☆☆☆
ひとつ屋根の下・もう一つの結末~その5
〈譲二〉
今日は久しぶりに友梨花と二人だけで過ごす休日だ。
ロコを仕事に送り出した後、何となくまったり過ごしている。
譲二「友梨花ちゃん、今日はあの男とは会わないの?」
友梨花「竜蔵さん、今日は幼なじみの友達数人と遊びに行くんですって。独身最後だから色々連れ回されるみたい」
譲二「そっか…。こんな風に二人だけで過ごすのは久しぶりだね…」
友梨花「この頃お休みの日はいつも竜蔵さんと出かけていたから…」
最後に友梨花と二人だけで過ごしたのはいつだっただろう?
少なくともその時には友梨花を他の男に取られてしまうとは思ってなかった。
譲二「友梨花ちゃん…。その…あの男とはもう寝たのか?」
友梨花は頬を少し染めて頷いた。
友梨花「うん…。三回目のデートの時に…」
譲二「そっか…」
本当の父親もこんな気持ちなんだろうか?
あの野郎、一発殴ってやりたい。
友梨花「譲二さん…」
譲二「何?」
友梨花「怒ってる?」
譲二「…なんで?」
友梨花「だって…。私はずっと前に譲二さんのものだって約束したのに…」
譲二「そんなの…。俺は最初から友梨花ちゃんを守る資格はなかったんだから…」
二人で見つめ合う。
譲二「友梨花ちゃんが幸せになるのが一番大切だろ?」
友梨花「譲二さん…」
譲二「ん?」
友梨花が俺に抱きついた。
譲二「こらこら、婚約者のいる女の子が他の男にそんなことしちゃだめだろ?」
掠れた声で友梨花が呟く。
友梨花「…いて、」
譲二「え?」
友梨花「抱いて…。最後にもう一度だけ…」
俺は驚いて友梨花を見つめた。
譲二「そんなこと…。本気にしちゃうよ」
友梨花「本気だもん。譲二さんにもう一度だけ抱いて欲しい」
☆☆☆☆☆
彼女の全身、身体の一つ一つにキスをしていく。
それは友梨花の身体への別れのキス。丹念に…、優しく。
友梨花は潤んだ瞳で俺を見つめた。
友梨花「譲二さん…、お願い。あなたが欲しいの…」
俺はじらすように優しく彼女の腰に口づけをふらせた。
譲二「これが…最後だから…。ゆっくりと…楽しみたい」
友梨花は身悶えした。
友梨花「…譲二さんの意地悪」
友梨花は美しかった。
初めて彼女を抱いた時、他の男には絶対に渡すまいと誓ったことを悲しく思い出した。
(愛しているよ)
そう言いそうになっては、唇を噛み締める。
今更そんなことを言われても、友梨花が困るだけだろう。
☆☆☆☆☆
涙を浮かべて横たわる友梨花にそっとキスした。
友梨花「私、今日のことずっと忘れない…」
そう言ってもらえるのは嬉しいけど…。
譲二「そんなこと言っても、あの男と二人で暮らし始めたら俺のことなんか直ぐに忘れられるさ…。それに…それでいいんだ」
友梨花「譲二さん…」
二人でしっかりと抱き合った。
友梨花「譲二さんは…竜蔵さんのことを『あの男』としか呼ばないんだね」
譲二「憎い恋敵だからね」
ちょっとおどけたように言った。
譲二「俺から友梨花ちゃんを搔っ攫っていったヤツだから」
友梨花は俺の胸に顔を埋めた。その髪を優しく撫でる。
できることなら、いつまでもそうしていたかった。
☆☆☆☆☆
結婚式も披露宴もどんどん進んであっという間に終わった。
花嫁の両親というのは、しなければならないことがたくさんあって、悲しみに浸る余裕はなかった。
スーツに着替えた友梨花は俺たちに挨拶するとあの男と一緒に二次会に出かけた。
一日休んだ後は学校があるから、ハネムーンは春休みに行くことになるという。
☆☆☆☆☆
バスローブを着たロコが風呂上がりの髪を拭いている。
宏子「ジョージ、お先に。あなたもお風呂に入って来たら?」
譲二「ああ、ありがとう。でも、これを飲んでからね」
焼酎のお湯割りのグラスを持ち上げる。
宏子「わぁ、梅干し入り? 私ももらおうかな」
ロコは勝手に俺のグラスに口をつける。
譲二「おい、俺用だからきついぞ」
宏子「いいの、いいの。今夜は酔いたい気分だから…ジョージもでしょ?」
譲二「ああ…」
宏子「いい式だったわね…」
譲二「そうだね…」
宏子「…ジョージ、ごめんなさい」
譲二「なにが?」
宏子「最初にリュウくんがうちに来た時、家に上げたのはこうなって欲しかったからなんだ…」
譲二「そっか…」
宏子「他にも…、二人をくっつけるために色々した…」
譲二「うん…知ってるよ」
宏子「え? うそ?」
譲二「それぐらいわかるさ…」
ロコを抱き寄せ、耳元で囁いた。
譲二「俺たち夫婦なんだぜ」
宏子「私、あなたと友梨花の…」
譲二「ロコ!」
ロコの言葉を遮った。
譲二「それは言わない約束だったろ」
ロコは俺と友梨花の仲を知っている。だけど、それをはっきり口に出して言ったことはなかった。
譲二「友梨花ちゃんはもう…竜蔵くんの妻なんだ…」
宏子「それでいいの?」
譲二「いいもなにも…。俺は彼女の義理の父親でしかない」
宏子「ジョージ…」
譲二「ロコ…、泣くなよ…」
ロコの目から溢れる涙をそっと口づけで吸った。
☆☆☆☆☆
安らかな寝息をたてるロコの隣で、俺は目が冴えて眠れなかった。
寝返りをうって目をつむる。
さようなら、友梨花。
俺の永遠の恋人。
『ひとつ屋根の下・もう一つの結末』おわり
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