ひとつ屋根の下・金木犀or蟻地獄の後、もうひとつ別の結末になるストーリーを思いついたのでupします。
しつこくてすみません。
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私:森田友梨花
母:茶倉宏子
その夫:茶倉譲二
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ひとつ屋根の下・もう一つの結末~その1
〈友梨花〉
スタッフ「式場内に入るタイミングは合図を出しますので、少々お待ちください」
譲二さんがとても愛しい目でウエディングドレス姿の私を見つめる。
譲二「友梨花ちゃん…とてもきれいだよ…」
友梨花「惚れ直した?」
ちょっと意地悪な質問だったかもしれない。
譲二さんは少し悲しそうに微笑んだ。
譲二「ああ…。だから…ちゃんと友梨花ちゃんを花婿のところに届けないとね」
スタッフ「どうぞお入りください」
譲二「さあ、どうぞお嬢さん」
譲二さんが腕を出してくれる。
私はその腕に掴まった。
式場のドアが開き、大きな祝福の拍手が起こる。
私は譲二さんと一緒にバージンロードを歩いていく…。
その先に待っていたのは、誇らしげに頬を染めて立つ竜蔵さんだ。
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譲二さんと結ばれた後…。
譲二「こうなった以上、きちんとケジメをつけるようにする」
譲二さんはそういってくれたけど…。お母さんとの離婚の話し合いは上手くいっていないみたいだ…。
むしろ、前より二人は仲良くなっているように見える。
私たちの間のことを隠すため? とも思ったけど、二人でいるときのお母さんも譲二さんも本当に楽しそう。
もちろん、私と二人だけで過ごす時間には、譲二さんは甘く優しく私を扱ってくれる。
そして…、ベッドの中でも…。
思い出しただけで真っ赤になってしまう。
それは週に一度だけのことだけど…、譲二さんに少しずついろんなことを教えてもらってる。
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それから3年が経った。
大学卒業後、私は養護教諭として働くようになった。今年は地元の高校に通っている。
その高校は普通科で、ほとんどの教諭は男性だ。女性はほんの数人で私以外はみんな既婚者だ。
だからなのか男性教諭みんなから優しくされている気がする。特に保健体育の八田先生は私のひとつ上なんだけど、何かと言っては保健室に現れる。
そんな八田先生のことは嫌いではない。
嫌いではないけど…。
私は今、譲二さんとのことで悩んでいて、八田先生のことを考える余裕はなかった。
譲二さんとは、この頃あまり話せていない。
もちろん一緒に住んでいるのだから毎日顔を合わせている。
挨拶や通り一遍の話はいつもしているけど、恋人らしいことはほとんどできていない。
これはお母さんの職場に人が足りて、お母さんが夜勤をしなくなったためだ。
朝は私が一番早く出るし、譲二さんも仕事が忙しいみたいで、夜は帰って来るのが遅い。
土日はお母さんが出勤の日もあるけど、譲二さんも忙しくて土日に休めないことの方が多い。
だから今は一緒に暮らしているのに、メールでの愛の囁きが唯一のつながりになっている。
今も譲二さんからのメールが入った。
『大好きな友梨花ちゃん
来週の月曜日は学校行事の振替で休みだって言ってたね?
俺も休みがなんとか取れそうだから、久しぶりにデートしない?
外で待ち合わせて、夕方、いや夜まで二人でゆっくり過ごそう。
譲二』
譲二さんとのデート。一月半ぶりだ。
私は喜々としてOKの返信を送った。
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譲二さんと一緒に映画を観て、食事をして、今はホテルのベッドの上だ。
譲二「友梨花ちゃんのこと、ずっと相手にしてあげられてなくてごめんね」
友梨花「ちょっと寂しかった」
私は譲二さんの胸にしがみついた。
譲二「こら…。そんなことしたら、また欲しくなっちゃうだろ? 帰る時間がまた遅くなってしまう…」
譲二さんは深く何度もキスしてくれた。
譲二「だけど…、本当に俺たち、このままじゃだめだな」
友梨花「どういうこと?」
譲二「ロコと離婚しない限り、友梨花ちゃんと本当の恋人になることはできない…」
友梨花「お母さんには…切り出せないの?」
譲二「ああ…。というより、ごめん。ロコは俺たちのことを薄々知っている」
友梨花「うそ! だって、そんなそぶりは…」
譲二「最初に離婚を切り出そうとした時に言われた…『あなたたちのことなんて、全てお見通しよ!』って…」
友梨花「それじゃあ、お母さんは私たちのことを知ってるくせに知らんぷりしてるってこと?」
譲二「ああ。そして、俺の話もまともに聞いてはもらえてない…。
俺は以前ロコに『一生君を守る』って誓ってしまってるからね…。
いつもそこを突かれて何も言えなくなってしまう…」
友梨花「そんな…。それじゃ絶対にお母さんとは離婚できないんじゃ」
譲二「ごめん…。ちょっ…、友梨花ちゃん泣かないで…」
譲二さんが私を抱きしめて慰めてくれる…。
ここ最近ずっと苛まれて来た不安もあって、涙は後から後から溢れてくる…。
優しい譲二さんの腕に抱かれながら、私は激しく泣きじゃくった。
その2へ続く
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吉恋の結婚式の場合、新郎としての譲二さんとメンバーを祝う客としての譲二さん、二つのパターンがありますよね。
でも、この「もしもの話」のルートを考えてたら、もう一つの譲二さんのストーリーが浮かんで来たんです。
すなわち、新婦の父親としての譲二さん。もちろん義理で、ヒロインの恋人なんだけど、悲しい気持ちを抑えたまま、新郎にヒロインを手渡す父親役としての譲二さんというのがありうるな…と。
だから、時計の針を戻して、ヒロインと結ばれた後にヒロインに求婚する相手が現れたら…というところから話を作りました。
なぜ、リュウ兄かというと、他のメンバーだとヒロインと譲二さんが恋人同士だってことを遅かれ早かれ気づくと思うんですよね。
それをふまえてのストーリーでもよかったんですが、今回は二人が恋人同士というのはバレないままの展開にしてみました。
リュウ兄なら茶倉家の事情なんかお構いなしにガンガンヒロインに迫ってもらえると思うんですよね。
『ハートを守れ! 大作戦』の八田刑事をイメージしてみました。
愚直でおっちょこちょいだけど、ヒロインへの好意をストレートに出してくる男性というような。
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私:森田友梨花
母:茶倉宏子
その夫:茶倉譲二
私の同僚:八田竜蔵
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ひとつ屋根の下・もう一つの結末~その2
〈友梨花〉
文化祭の準備に学校全体が謀殺されている。
浮かれた生徒が羽目を外さないように先生方は気を配っている。
準備中思わぬ怪我をする生徒もいるので、私も帰るのが遅くなってしまう。
竜蔵「森田先生。送っていくよ」
友梨花「大丈夫ですよ、八田先生。慣れていますから」
竜蔵「その…、なんだ。暗い夜道は危険だからな。俺にまかせとけ」
夏場だから暗い夜道とは程遠いのに、ちょっと強引な八田先生に送られて家に帰る。
八田先生は気取りがなくて一緒にいると落ち着ける。
並んで歩くと、とても背が高いので上から声がふってくる。
(そう言えば、八田先生って譲二さんと同じくらいの身長だよね)
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結局、玄関先まで送ってもらうことになった。
友梨花「ありがとうございました」
竜蔵「おう。大した手間じゃないから…。その…森田先生…、よかったら俺と…」
宏子「あら、友梨花。男の人と一緒なんて珍しいわね」
友梨花「お母さん…」
私は八田先生を紹介した。
宏子「あらまあ、わざわざ送ってくださるなんてありがとうございます。
よかったらお茶でも飲んでいきません? 」
竜蔵「いや、俺は…その…」
お母さんは恐縮する八田先生を強引に家の中に引き入れた。
譲二「おかえり、ロコ。遅かったね。ご飯はもうできてるよ。すぐに用意するから待ってて…。
あ、友梨花ちゃんもお帰り…。ってその人は…」
譲二さんは八田先生を訝しげな表情でみた。
宏子「友梨花の同僚の八田先生。保健体育の先生なんですって…。
仕事が遅くなったからって、わざわざ友梨花を送ってくださったの…」
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結局、4人で晩ご飯を食べることになった。
いったいお母さんはどういうつもりなんだろう?
困惑しながらもそつなく会話をこなす譲二さん。
戸惑いながらも豪快に料理を平らげていく八田先生。
八田先生を調子に乗せて色々と先生のことを聞き出している上機嫌なお母さん。
私は、そんな三人を観察しながら黙々とご飯を食べた。
その日から、私を送るという名目で八田先生はうちを訪れて、週に2、3回は晩ご飯を一緒に食べるようになった。
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今日は土曜日。珍しくお母さんだけが仕事で、私と譲二さんは休みで家にいる。
二人で朝食の後片付けをしながらおしゃべりをしている。
こんな風に過ごすのも久しぶりだ。
譲二「友梨花ちゃん、コーヒーを入れるから座って待ってて」
友梨花「それじゃ、マグカップを用意するね」
譲二さんの入れたコーヒーを前に二人で座る。どちらからともなくキスを求め合った。
譲二「ねぇ…、あの八田先生のことなんだけど…」
意を決したように譲二さんが話を切り出した。
友梨花「気になる?」
譲二「うん…。彼は…友梨花ちゃんのことが大好きみたいだから…」
友梨花「…そうみたいだね」
譲二「…友梨花ちゃんも彼のことが好きなの?」
友梨花「嫌いじゃないよ…。元気で明るくて…。気を使わなくてもいいし。
時々意表をつくようなことを言ったりしたりして、びっくりするけど…」
譲二「…そっかぁ…。とうとう現れたか…」
友梨花「何?」
譲二「俺のライバル…」
友梨花「彼は譲二さんのライバルになんかならないよ…。だって譲二さんは特別なんだもの」
譲二「ありがとう…。でも俺は表立っては友梨花ちゃんの恋人にはなってあげられない…」
友梨花「だって…、だって譲二さんはお母さんと別れて私と一緒になってくれるんじゃ…」
譲二「ごめん。そのことだけど…」
譲二さんは苦しそうに、また言い訳を始める。
譲二さんは優しすぎるのだ。
私のことが一番好きといいながら、お母さんに冷たくすることはできない。
お母さんが私たちのことに気づいていると聞いて分かったのだけど、私の前で二人がいちゃいちゃするのもお母さんが譲二さんをうまく操って私に見せつけているんだろう。
女としての経験ではお母さんにはとても勝てない。
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俺:茶倉譲二
その妻:茶倉宏子
その娘:森田友梨花
友梨花の同僚:八田竜蔵
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ひとつ屋根の下・もう一つの結末~その3
〈譲二〉
譲二「ただいま」
玄関を開けると男物の靴が一足脱いであった。
奥からは楽しそうなロコの笑い声が聞こえる。
またあの男が来てるんだな…。
俺は暗い気持ちでリビングに顔を出した。
あの男というのは、友梨花の勤め先の学校の先生で八田竜蔵とかいう男だ。
友梨花を送ると言う名目で我が家に入り浸っている。
あの男のことは友梨花が、というよりロコがたいそう気に入っていて、「リュウくん、リュウくん」と可愛がっている。
そりゃ気にいるよな。
初めて友梨花にできた男友達で、友梨花のことを恋人にしようとしている男なんだから…。
あいつが友梨花と付き合うようになれば、俺から友梨花を引きはがすことができる。
宏子「そうなんだ。今は体育祭の準備で大変なのね」
竜蔵「はい。特にうちのクラスは張り切ってるんで、怪我も多くって…。
それで友梨花さんにも随分とお世話になってます」
(おいおい、もう友梨花のこと、下の名前で呼んでるのかよ)
友梨花「今回は、運営のほとんどが竜蔵さんにまかされているから大変なのよね」
(えーっ、友梨花まであいつのことを名前で呼ぶようになったのか…)
黙って突っ立っている俺に気づいたロコがニコニコしながら近づいてくる。
宏子「ジョージ、お帰りなさい」
友梨花「お帰りなさい」
竜蔵「お父さん、お邪魔しています」
(その『お父さん』というの止めてくれないかな…。急に老けた気がする)
譲二「やぁ、いらっしゃい。ゆっくりして行ってね。俺はちょっと着替えてくるね」
最後の言葉はロコに言う。
ロコはしゃべりながら寝室まで付いて来た。
宏子「あのね、リュウくんの実家は八百屋さんなんですって。
それで、今日はたくさんお野菜を持って来てくれたのよ。
野菜の保存方法とか、料理方法とか、お野菜のことにすごく詳しいの」
譲二「そう…」
宏子「ねぇねぇ…。何怒ってるの?」
下から覗き込んでくるロコの顔があまりにも可愛らしくて、微笑んでしまう。
譲二「怒ってなんか無いさ…。ちょっと疲れてるだけだよ…」
宏子「大丈夫? ご飯の前にお風呂にでも入ってくる?」
譲二「いや…。お腹も空いてるし、ご飯でいいよ。それより…」
ロコを抱きしめてキスをする。
ロコは恋人時代から16歳下の俺と付き合うために若作りしていたが、ここ数ヶ月以前より若返った気がする。
ハツラツとしてるというか…。
肌の張りも色つやも実際のところよくなってるんだよな…。
時々抱いている俺にはわかる。
ロコは今年51歳になるんだけど…、とてもそうは見えない。
40代前半といっても通るだろう…。
20代の娘と競い合っているから? …まさかね。
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家では差し障りのないことしか話せないから、デートの誘いはもっぱらメールですることになる。
『今度の日曜日、久しぶりに休みがとれそうなんだ。
ロコも休みだけど、それぞれ別に外出して外でデートしない?
譲二』
『ごめんなさい。
その日はお母さんと八田先生と一緒に午後から狂言の公演に行く約束になってるの。
お母さんが招待券を三枚もらってきて、八田先生にもあげたみたいで…。
もう約束してしまったので、ごめんなさい。
友梨花』
返信メールを見てため息をついた。
ロコとあの男と三人か…。一応、保護者付きではあるけど…。
以前なら、俺の誘いにはスケジュールをキャンセルしてでも付き合ってくれたのに…。
その4へ続く