『ひとつ屋根の下ストーリー』 ~アブナイ兄弟編・春樹~で思いついた譲二さんの危ないストーリー。
>>お母さんが10何歳下の男性と再婚して、その義父が譲二さんとか。
これをまたまた懲りずに妄想しちゃいました。(*⌒∇⌒*)
結構切ないストーリーになりましたけど、upいたします。
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私:森田友梨花…大学二年生
母:茶倉宏子
母の夫:茶倉譲二
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ひとつ屋根の下~その1
譲二「ロコ、朝食の支度ができたよ。そろそろ降りておいで」
私がトーストの耳をかじっていると、譲二さんが二階に呼びかけた。
「はーい、もう少しで降りまーす」というお母さんの声。
譲二「ロコにも困ったもんだね。朝が弱くて…」
そういいながら、譲二さんは私のマグカップにコーヒーを注いでくれた。
譲二「ミルクと砂糖もいれとこうか?」
友梨花「ううん。自分で入れるからいいよ」
私は慌てて言う。
うれしいけど、譲二さんにそこまでしてもらうのは申し訳ない。朝食の支度だって、今日こそは私が作ろうと思ったのに譲二さんに先をこされてしまった。
階段を駆け下りる音がして、お母さんが現れた。
宏子「ジョージ、ごめんなさい。何もかも全部してもらって…」
譲二「大したことはしてないよ…」
2人は軽く抱きしめ合って、譲二さんはお母さんの頬に軽いキスを落とした。
こういう時、私としては身の置き所がない。
2人が結婚して2年。そろそろ新婚ではないのだし、娘の前くらいもう少し抑えた愛情表現にして欲しいものだ。
譲二「それより、急がないといけないんじゃないか? 今日はいつもより早く出勤しないといけないって言ってたろ?」
宏子「そうだった! もう行かないと…。あ、トーストはいらないわ。コーヒーとスープだけ飲んででかけるから」
譲二「サラダとヨーグルトは?」
宏子「帰ってから食べるから…ラップをかけて冷蔵庫にしまっといて」
慌ただしくコーヒーとスープを飲み干すとお母さんは「いってきます」と言って出かけて行った。
あとには譲二さんと私が残された。
譲二「友梨花ちゃんは今日は急がなくていいの?」
友梨花「うん。今日の講義は一限目が休みだから…」
譲二「俺も今日は時間に余裕があるから…、そうだ、久しぶりに車で送ってあげようか?」
友梨花「いいの?」
譲二「ああ、今日は天気もいいし、ドライブしたい気分だから友梨花ちゃんの大学まで送ってくよ」
譲二さんはニッコリ笑った。
いつもは大人の男性だなと思うけど、こんな風に笑うとまるで少年みたいに見える。そして、その笑顔はなんだか懐かしい気がして私の胸はキュンとなる。
譲二さんはお母さんの旦那さんなのに…。こんな気持ちを持っちゃいけないのに…。
☆☆☆☆☆
譲二さんの車に乗ってしばらく走った時だった。私にメールが入った。
友梨花「今日の二限目の講義も休みだって…。せっかく送ってもらっているのにごめんなさい」
譲二「それじゃあ、午後まで時間が空いたの?」
友梨花「うん。次は一時からかな」
譲二「そっか…。それならこのままデートしようか?」
友梨花「え? デート?」
譲二「いやいや、デートというかドライブしよう。お昼もどこかで一緒に食べて一時までに大学に送るよ」
友梨花「譲二さんはいいの? お仕事があるんじゃ…」
譲二「今日は事務処理ばかりでね。午後からの出勤でも別に構わないんだ…。その分帰りは遅くなると思うけど…」
譲二さんの実家は茶堂院グループという大企業だ。
仕事もそのうちの一つの会社の経営をやっている。重役だから、特に出勤時間というのはなく、人と会う仕事がなければ、家で一日仕事をしていることもある。
友梨花「いいの? 後で大変になったりしない?」
譲二「うん。そこら辺はちゃんと調整するから大丈夫だよ」
うれしい。
大好きな譲二さんと午前中一杯2人だけで過ごせるなんて…。
私の気持ちを読み取ったのか、譲二さんが言った。
譲二「よかった」
友梨花「え?」
譲二「この頃、友梨花ちゃんちょっと元気がなかったでしょ? 何かあったのかなって心配してたんだ…」
ちゃんと私のこと見ていてくれたんだ…。
車で送ると言ってくれたのも、私を元気づけようとしてのことだったんだ。
うれしい…。
もちろん、それは大事な妻の一人娘のことだからなんだろうけど…。
それでも、大好きな人に思っていてもらえるのは単純にうれしい。
☆☆☆☆☆
今から10年前、私が10歳の時にお父さんが事故で亡くなった。それからお母さんは私を女手一つで育ててくれた。
それから8年、私の18歳の誕生日にお母さんに再婚を勧めてみた。
友梨花「今まで私のために頑張ってくれたんだもん。好きな人ができたら結婚してもいいよ」
と。
それから間もなく、お母さんは譲二さんを私に会わせた。
知らない間に恋人を作っていたというのにも驚いたけど、譲二さんはお母さんより16歳も年下で、私とは10歳しか違わないというのが一番の驚きだった。
譲二さんの第一印象は、とても素敵で優しそうな人。
そして、お父さんというよりお兄さんみたい。
譲二さんも「親戚のお兄さんくらいに思ってくれたらいいから」と言ってくれた。
2人が結婚して、一緒に暮らし始めると、私自身が譲二さんのことを好きになるのにそう時間はかからなかった。
譲二さんは「優しそうな人」ではなく、本当に優しい人だった。
お母さんをとても大切にしてくれる。
そして、私のことも…。もちろん、私は愛する人の娘だから大切にしてもらっているのだろうけど…。
時々、譲二さんは私のことを好きだから大切にしてくれているのだと、錯覚してしまうことがある。
譲二さんと顔を見合わせて笑ったり、おしゃべりしたり、一緒の家で過ごすのはとても楽しく…そして、胸がドキドキして苦しい。
今までも恋をしたことはあったけど、こんなに人を好きになったのは初めてだ。
その2へつづく
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ひとつ屋根の下~その2
譲二さんと結婚して、お母さんは茶倉宏子になったけど、私は森田友梨花のままだ。
一度、譲二さんと養子縁組をするか聞かれたが、私は断った。
譲二さんと同じ姓にはなりたいけど、親子にはなりたくはない。
養子縁組なんかしたら、もう絶対譲二さんとは結婚できなくなる…。
もちろん、今だって譲二さんはお母さんの夫で私と結婚できるわけじゃない。でも、もしかしたらという小さな望みを絶ってしまいたくはなかった。
2人は単に私がお父さんの姓を捨てたくないのだろうと思ってくれたみたいだけど…。
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2人が結婚して間もない頃、三者面談にお母さんが仕事で来れないことがあった。
譲二さんが代わりに出席してくれたけど、若くてかっこいいお父さんが来てるということで、学校中がちょっとした騒ぎになった。
私は恥ずかしかったけど、ちょっと得意でもあった。譲二さんみたいに素敵なお父さんを持っている子なんて誰もいなかったから。
でも、本当のことを言うと、先生の前で2人で並んで座りながら、『若くてかっこいいお父さん』ではなくて、『年上の大人の恋人』だったらいいのにと思った。
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あれから2年が経ち、私は大学二年生になった。
私の譲二さんへの思いは日を増すごとに募っていた。
おやすみなさいを言って、譲二さんとお母さんが自分たちの部屋に引き取った後、私は独り寝の枕を何度濡らしたことだろう。
毎日顔を合わせ、毎日一緒に暮らしながら、譲二さんには決して手が届かない。
ううん。手を伸ばして触れてはいけない人なのだ。
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譲二さんはお母さんのことを『ロコ』と呼んでいる。
「ヒロコ」から「ヒ」をとって「ロコ」というわけ。
呼び名も可愛いけど、その『ロコ』という言葉を譲二さんはとても優しく愛おしそうに発音した。
私の名前もあんな風に呼んでもらえたらいいのに…。
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私たちは海の見える高台の公園のベンチに座っている。
友梨花「とっても気持ちがいいですね」
譲二「そうだね。ここは遠くまで見通せるスポットなんだ。前から友梨花ちゃんを連れて来てあげたいと思っていたんだ」
私は気になることを尋ねてみる。
友梨花「もちろん、お母さんとは何度も来てるんでしょう?」
譲二「うーん。そう言えば、ロコとは来たことがなかったかな…。連れて来てあげたいと思いながらお互いに忙しくてね」
お母さんとは来たことがないと聞いて、とても喜んでいる私がいる。
譲二さんを独り占めしたような気がしてとても嬉しい。
譲二「友梨花ちゃん。さっきも言ったけど…、この頃少し元気がないよね? 何か悩み事でもあるの? 」
私の悩み…。
本当のことを言ったら譲二さんはどう思うだろう。
譲二「実の親じゃない俺には言いにくいかも知れないけど…、俺たち、家族ではあるよね? それに、口に出したらちょっとは楽になると思うよ」
友梨花「私…。好きな人がいるの」
言ってしまった。
譲二「そっか…。友梨花ちゃんももう二十歳だものね。恋に悩むような年頃になっちゃったのか」
譲二さんは優しく微笑んだ。
ダメ…。そんな優しい目で見られたら、涙が溢れてしまう。
譲二「ちょっ…。友梨花ちゃん、どうしたの? 泣かないで…」
譲二さんがトントンと肩を叩いてくれた。
譲二「可愛いい友梨花ちゃんにこんなに思ってもらえるなんて、幸せな男だね」
そういいながら、譲二さんはハンカチで私の涙を拭いてくれた。
私が告白したら、譲二さんはどうするだろう。
私を避けるようになってしまうかな?
それとも私を女としてみてくれるようになる?
譲二「友梨花ちゃん、どうしたの?そんなに俺のことみつめて、顔に何かついてる?」
友梨花「…きです」
譲二「え?」
友梨花「好きです…。譲二さんのことが好き…」
譲二さんはにっこり微笑んで言う。
譲二「俺も友梨花ちゃんのことは大好きだよ」
え? うそ!
譲二「友梨花ちゃんは大切な一人娘だものね」
譲二さんの手が優しく私の髪の毛を撫でる。
そうじゃない。私の「好き」という意味はそんなんじゃない。
その3へつづく
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ひとつ屋根の下~その3
私は涙を飲み込むと呟いた。
友梨花「私は譲二さんのこと、男の人として好きなんです」
譲二「…ありがとう。
でもね、友梨花ちゃんは子供の頃にお父さんを亡くして、身近な大人の男は俺だけだから、そんな風に思ってるだけだと思うよ。
あこがれみたいな…」
友梨花「そんなことない。譲二さんのことは初めて会った時に一目で好きになった。そして、二年間一緒に暮らしてもっともっと大好きになった」
譲二さんはため息をつくと、私の顔を覗き込んだ。
とても優しい目。
譲二「うすうすそうじゃないかなとは思ってた」
また、うっすらと涙が滲んでくる。
友梨花「譲二さんはお母さんの夫だし、好きになっちゃいけないのはわかっているけど。でも、どうしてもこの気持ちは抑えられない…」
え? 譲二さん?
私、今、譲二さんに抱きしめられてる…。
譲二「ありがとう。そんな風に思ってもらえて、嬉しい」
それって、どういうこと?
譲二「…ダメだな、俺。ロコの夫としても、友梨花ちゃんの父親代わりとしても失格だな…」
友梨花「譲二さん?」
譲二「…俺も…。友梨花ちゃんと引き合わされて、大きくなった友梨花ちゃんを見た途端、恋に落ちた…」
友梨花「でも、譲二さんはお母さんの恋人だったんじゃ」
譲二「ああ、ロコのことは好きだよ…。
でも、その時ロコとは本当の恋愛じゃなかったんだなって気づいた。
でなきゃ他の人のことをこんなに好きになったりするはずない」
友梨花「本当に好きな人じゃないのにお母さんと結婚したの?」
譲二「今も言ったけど、ロコのことは好きだよ。ロコと付き合い出したのは君のお父さんが事故で亡くなってロコが苦しんでいた頃なんだ」
友梨花「そんな昔から?」
譲二「ああ、ロコは支えてくれる男性がいないと精神のバランスが取れない女性なんだ。
俺はそれまで、明るくて自信たっぷりな彼女しか知らなかったから、自暴自棄な彼女をみて戸惑った。そして何とか彼女を助けたいと思った。
彼女と男女の仲になって…、彼女のことは一生かけて支えて行こうと決心した。
だから、その人の娘のことを好きになっても自分の気持ちは後回しにしなくちゃいけないって思ったんだ」
友梨花「譲二さん…」
譲二「だけど、苦しかった…。友梨花ちゃんと一緒に暮らすようになって、ますます君のことが好きになった…。これじゃいけないって思えば思うほど…。
俺、なんでこんなこと話してるんだろうな?この気持ちだけは封印しておこうと思ったのに…」
譲二さんが私を抱きしめる手に力が入った。
友梨花「譲二さんに好きになってもらえて…嬉しい」
譲二「友梨花、ごめん」
譲二さんは私の顎を持って上向かせると優しくキスしてくれた。
何度も何度も。
嬉しい…まるで夢みたい…。
私は譲二さんの胸に顔を埋めた。
譲二「友梨花、本当にごめんね。君の気持ちに応えられないのにこんなことをして…」
友梨花「ううん。譲二さんが私を好きだって言ってくれて、キスまでしてもらえて…夢みたい」
譲二「友梨花…なんでそんな可愛いこと言うの?君を離せなくなるじゃないか」
譲二さんはまた私にキスをする。今度は舌が入ってきて…初めての感覚に私の頭の中は真っ白になった。
友梨花「お母さんより先に譲二さんに会いたかった。そしたら…お母さんなんかに渡さないのに…」
私の言葉に、譲二さんは何か言いたそうな複雑な表情をした。
でも、それもほんの少しの間で、にっこりと笑うと言った。
譲二「さあ、そろそろ食事に行こう。でないと午後からの授業に間に合わなくなるよ。何が食べたい?」
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車に戻る時、前から思っていたことを聞いてみた。
友梨花「ねえ、譲二さん。どうしてお母さんのことを『ロコ』って呼んでるの?」
譲二「それは、宏子だから、その『ヒ』をとって…」
私は苦笑した。
友梨花「それは知ってるよー。そうじゃなくてどうしてそう呼ぶようになったのか?」
譲二「『ロコ』って呼び方はね、君のお父さんが恋人時代にお母さんのことをそう呼んでいたらしい。
俺と付き合い出してすぐにそう呼んで欲しいって言われた。君のお父さんと俺の声は似ているらしくって、目を瞑って聞くとお父さんに言われているように思えるらしい」
友梨花「譲二さんは…それで平気だったの?
自分じゃなく前の夫の身代わりとしてしか付き合えないのに」
譲二「平気なわけないだろ?
でもロコがそれで心穏やかに過ごせるなら、俺はそれでもいいと思った。
天国に行った人と競い合っても、生きてる人間は絶対に勝てっこない」
寂しそうに笑う譲二さんが愛しくて…、できることなら彼を抱きしめたかった。
でも…、何も出来ないまま突っ立っている私に譲二さんは言った。
譲二「何してるの? ドアの鍵は開いてるからもう乗れるよ?」
その4へつづく
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ひとつ屋根の下~その4
譲二さんとお互いの気持ちを告白しあってから一週間が過ぎた。
あれから、何も変わったりはしていない。
譲二さんは以前と全く同じように私に接してくれる。
あんな風に私を抱きしめたり、キスをしてくれたとはとても信じられないくらい…。
譲二さんと目が合うことがあっても、その瞳の中に何かを見つけることはできなかった。
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いつものように1階に下りる。
譲二「おはよう、友梨花ちゃん」
友梨花「おはようございます。…あれ、今日はご飯と味噌汁なんだ」
譲二「ロコがね、たまには味噌汁が飲みたいっていうから…」
相変わらず、譲二さんにとっての最優先はお母さんなんだ…。少し寂しい。
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3人で朝食を囲んでいる。
宏子「ジョージ、来月から夜勤を入れようと思うの」
お母さんの突然の言葉に私は驚いて顔を上げた。
譲二「それは…。ロコが構わないのなら俺はいいけど…。でも、身体にキツいから、夜勤は入れないようにするって言ってたんじゃないのか?」
宏子「そうなんだけど、今度の職場にもだいぶ慣れて来たし、新しく入った子が一人辞めてね。やっぱり私もシフトに入れないと回せそうにないの」
譲二「辞めた子がいるとは聞いてたけど、そんなに大変なのか…」
宏子「それでも、私の夜勤は週一くらいで済むと思うから…。本当にごめんね」
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お母さんが初めての夜勤で2人だけになる夜。
私が帰宅すると譲二さんは既に帰って来ていた。
譲二「あ、友梨花ちゃんおかえり」
友梨花「いい匂い…。何作っているの?」
譲二「友梨花ちゃんの好きなハンバーグ、特製ソースかけ」
友梨花「うわぁ、すごい。何か手伝うことある?」
譲二「じゃあ、ザルで水切りしてるレタスをちぎって、お皿にもりつけてくれる?」
友梨花「了解。それじゃ、手を洗って来るね」
譲二さんはテーブルに小さな花を飾ってくれ、以前クリスマスで使ったグラス入りのキャンドルにも火をつけてくれた。
こんな風に2人で食事していると、まるで恋人同士みたい。
…お仕事をしてるだろうお母さんにちょっと申し訳ない。
譲二さんは私の大学や大学での友達のことを尋ねてくれて、私は思いつくまましゃべった。
譲二さんは仕事上でのちょっと面白い話をしてくれた。
ふと話がとぎれた…。
2人でだまって見つめ合う。
もしかして…また、キスしてもらえる?
譲二さんはふいに視線をそらすと時計をみた。
譲二「もう、こんな時間か。友梨花ちゃん、お風呂ができてるから先に入って来るといいよ。ここは俺が片付けるから」
私は譲二さんの手を掴んだ。
友梨花「この前みたいに…2人だけの時は恋人でいて欲しい…」
譲二さんは私の手を両手で優しく包んでくれた。
譲二「友梨花ちゃん…。この間はあんなことをしてしまってごめん。無責任なことをしてしまったって反省してる」
友梨花「譲二さんを困らせてしまうのはわかってる…。お母さんと別れられないのも分かってる…。でも、2人だけの時は私の恋人になって欲しい」
自分でもとんでもないことを言っているのはわかってる。
でも、2年間思い続けた気持ちを譲二さんには受けとめて欲しい。
譲二「友梨花…」
譲二さんは私を抱きしめた。そして、優しく…だんだん深く…キスしてくれた。
キスが途切れて、大きく息をつく私を見て、譲二さんは微笑んだ。
譲二「もしかして、息を止めてた?」
友梨花「だって、口が塞がれてたもん…」
譲二「そういうときは鼻で息をするんだよ」
友梨花「そうなんだ」
2人で顔を見合わせて笑った。
譲二「そうそう。友梨花ちゃんはそんな風に笑ってるのが一番可愛いよ…」
その5へつづく
☆☆☆☆☆
ひとつ屋根の下~その5
友梨花「譲二さんは…お母さんのことをどうして好きになったの?」
譲二「君のお父さんが事故で亡くなった後、ロコは荒れててね。あんなロコを見たのは初めてだった…。
今まで俺の悩みを優しく聞いてくれたり、温かいアドバイスをくれていた人があんな風になるなんて、少しショックだった。
大学生だった俺は、今までの恩返しにロコの役に立ちたいと思った。
あまりに危なっかかしくて一人にしておけないって思った。
ロコは俺に『やけ酒に付き合ってよ』と言って連れ回した…。
そして、なんとか慰めようとする俺に『それなら私を抱いてごらんなさい。あの人の代わりに一人の男として抱いてよ』って言われたんだ…」
譲二さんはそのまま口をつぐんだ。
まだ20歳そこそこの若者が16歳も年上の女性を支えようと必死になっていたなんて…。
友梨花「それで…。お母さんを抱いたの?」
譲二「ああ、でも俺は童貞だったから…どうすればいいか分からなかった。
君のお母さんは俺の初めての女(ひと)なんだ…。俺が知ってる男女のことはすべてロコに教えてもらったことだ…」
「こんなことも…」
そう言って譲二さんは私にキスすると舌を入れて来た。
甘いキスに私の頭はぼおーっとなった。
譲二「前に友梨花ちゃんは『お母さんより先に俺と会いたかった』って言ってたよね?」
友梨花「うん。だって、お母さんより先に譲二さんに会えていたら…。絶対お母さんになんか渡さないもん」
譲二さんはちょっと悲しそうに笑った。
譲二「友梨花ちゃんとは…ロコよりも先に出会ってるんだよ…」
友梨花「え? うそ」
譲二「友梨花ちゃんは…俺のお姫様だったんだよ」
譲二さんは私を抱きしめると頭をポンポンと叩いた。
譲二「ねぇ…思い出さない? 大きなタコの形の滑り台の中でさ…。外は雨が降っていて…、遠くで稲光と雷鳴が鳴ってた…」
譲二さんの胸に顔を埋めながらその光景を思い浮かべる。
友梨花「!」
思わず譲二さんの顔を見上げた。
譲二「雷の音も光もダメだからって…俺の体で塞いで抱きしめたよね?」
友梨花「じーじ?」
譲二「やっと…思い出してくれた?」
友梨花「うそ…。譲二さんはあのじーじなの?」
じーじは私が幼稚園の頃、公園で出会って懐いていた中学生のお兄さんだ。
持っていたサンドイッチを食べさせてくれたり、私のお話を聞いてくれたり…。
抱っこをせがめば抱っこしてくれて…。
でも一番の思い出はタコの滑り台の中で雷が怖いと泣いていた私を抱きしめて慰めてくれたこと。
温かいじーじの胸の中で「私はこの人のことが大好きだ」って思ったのだった。
そう、じーじは私の初恋の人だった。そのじーじが譲二さんだったなんて…。
友梨花「どうして…、今まで言ってくれなかったの?」
譲二「友梨花ちゃんは俺のこと覚えてないみたいだったし…。お母さんの若い恋人が昔なじみの『じーじ』だ…なんて、俺の口からはとても言い出せなかった…」
友梨花「だから懐かしかったんだ…。譲二さんと暮らし始めて…譲二さんの笑顔や仕草がとても懐かしくて…。
そう思う度、胸がキュンとしてた」
譲二「俺も友梨花ちゃんの笑顔を見る度に、あの頃のことを思い出して…。大きくなっても変わらないなぁって思ってた」
友梨花「それなら、もっと前にじーじだって教えてくれればよかったのに。」
譲二「そうだね…。」
譲二さんが口ごもる。
ごめんなさい。なんだか私、八つ当たりだよね。
友梨花「でも、あのじーじがどうしてお母さんと知り合うようになったの?」
譲二「俺がロコと出会うことになったのは、俺の失恋がきっかけなんだけど…」
譲二さんは言いにくそうに口ごもる。
その6へつづく
☆☆☆☆☆
ひとつ屋根の下~その6
友梨花「失恋?」
譲二「あのことは覚えていないの?」
友梨花「それって、やっぱりじーじが中学生だった頃のこと?」
譲二「そう…俺が失恋して公園で落ち込んでいる時、友梨花ちゃんとロコに会ったんだ」
頭の中に一つの光景が浮かんで来た。
降り続く雨の中、公園のベンチでびしょ濡れのままじっと座っていた少年。
友梨花「じーじは雨でびしょ濡れになってたね」
譲二「思い出した? あの時心配したロコに家に連れて行かれて、話を聞いてもらった。それで、メアドを交換してメル友になった」
友梨花「じーじが家に来たのは覚えてるけど…。メアドを交換してたのは知らなかった」
譲二「あれから俺は辛いことや悩みがあるたびにロコにメールで相談してた。その頃は、ロコのことは色々相談に乗ってもらえるおばさんくらいにしか思ってなかった。
でも、友梨花ちゃんのお父さんが亡くなって、心配した俺にロコは心の中を打ち明けてくれるようになった。
彼女は守ってくれる男性がいないと一人では立っていられない女性なんだ。
初めて男女の仲になって…、ロコは俺に男として彼女に接することを求めた。
俺はなんとか支えてあげたいと一生懸命やってきた。あんなに嫌だった茶堂院グループの仕事をやるようになったのも、早く一人前になってロコを支えられる男になりたかったからだ…」
友梨花「そんなこと全然気づかなかった。お父さんが亡くなって、お母さんは一人でがんばってるとずっと思ってた」
譲二「ロコは友梨花ちゃんを大切に思ってるからね。
お父さんを亡くしたばかりの母親が若い男と恋愛関係にあることを娘には知られたくなかったんだ。
友梨花ちゃんがそんなことでグレたりしないかと心配してたからね。
それで、俺は日陰の身のままだった」
譲二さんは自嘲気味に笑った。
譲二「だから、二年前、ロコからプロポーズされたときは驚いた。ロコと結婚なんてできないだろうと思っていたから…」
友梨花「私が…、お母さんに言ったの。好きな人がいるなら再婚してもいいよって…。でも、まさかその再婚相手を私が好きになるなんて思ってなかった」
譲二「友梨花ちゃんに手を出しておきながら、こんなことを言うのは卑怯なんだけど…。
君のお母さんと別れるわけにはいかない」
友梨花「どうして?」
譲二「ロコは一人では生きて行けない人なんだ…。彼女を守って支えてくれるパートナー無しには…。
俺はずっと前に彼女を守ると決めた。
今さら他に好きな人ができたから別れようとは彼女には言えない。
それに、そんなことを言ったら彼女がどんなになってしまうか…」
友梨花「でも…。でも、私は? 私にだって譲二さんは必要だよ」
譲二「ありがとう。でも、友梨花ちゃんはまだ若い。
俺なんかよりもっと若くて頼りがいのある男にこの先いくらでも出会えるさ…」
私は思わず譲二さんの胸にしがみついた。
友梨花「譲二さんより若い男の人なんていらない。
譲二さんより頼りがいのある人なんていない。
私には譲二さんしかいないのに…」
譲二「…友梨花ちゃん…。ごめん…。ごめんね…」
譲二さんが優しく抱きしめてくれる。
私こそ、ごめんね…。
こんなことを言っても譲二さんを困らせるだけなのに…。
私たちは…そのままいつまでも抱き合っていた。
☆☆☆☆☆
こうして、私と譲二さんの甘くて切ない恋は始まった。
私たちはお母さんのいない2人きりの時だけ、恋人のように過ごす。
そう、あくまでも恋人のように…。
譲二さんはキス以上のことは決してしなかった…。
それが彼のけじめらしかった。
私は…。
ううん。私もそれ以上のことは望んだりはしない。
ずっと、彼の側でいて…彼を見つめて…、そして、彼に触れていたいから…。
譲二さんを独り占めにすること…。
それはお母さんを苦しめ、悲しませることだから…。
私たち…私と譲二さんは、もう一人の大切な人を守るために今のままでいることを選んだのだ。
『ひとつ屋根の下』 おわり
☆☆☆☆☆
2人をくっつけるためには、お母さんを死亡させるしかないけど(-"-;A、それはしたくなかったので、こういう結末になりました。
本編の話のヒロインちゃん、よかったねー。お父さん元気でいてくれて…。と、つくづく思いマスタ。