番外編『ひとつ屋根の下ストーリー』で思いついた譲二さんの危ないストーリー。
>>お母さんが10何歳下の男性と再婚して、その義父が譲二さんとか。
これを『ひとつ屋根の下・母の夫』・『ひとつ屋根の下・妻の娘』として妄想した、その後の話です。
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私:森田友梨花
母:茶倉宏子
その夫:茶倉譲二…母より16歳下、私より10歳上
せい‐そう〔‐サウ〕【星霜】
(星は1年に天を1周し、霜は毎年降るところから。)としつき。歳月。「―ここに幾十年」「幾―を経る」
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ひとつ屋根の下・星霜(せいそう)~その1
お母さんの葬儀が終わった。
葬儀にはお母さんの元同僚の人たちも何人か来てくれたが、参列者のほとんどが譲二さんの仕事関係の人達だった。
覚悟はしていたが、事前の予想よりも遥かに多くの参列者が来てくれて、斎場の中だけでは収まらず、ロビーに臨時の椅子を並べる騒ぎとなった。
元気な頃のお母さんなら、この様子を見てきっと面白がったに違いない。
『あら、ほとんどの人達は私のことなんか知らないのにね』
とでも、言っただろうか。
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暗くなってから、お母さんの遺骨と一緒に家路についた…。
私たちのマンションはいつもと同じはずなのに、なぜだか部屋は広々と感じられ、寂しかった。
自分も疲れているだろうに、譲二さんは優しく声をかけてくれる。
譲二「今日は疲れたろ。お風呂に入ってもうお休み」
私がお風呂から出ても、譲二さんは喪服のまま祭壇の前に座ったきりだった。
友梨花「お先に…。譲二さんもお風呂に入ってきたら? 疲れがとれるよ」
譲二「ああ…。そうだね」
ぼーっとしている譲二さんが心配で、顔を覗き込む。
友梨花「大丈夫?」
そんな私を優しく抱きしめてくれる。
そして、そっと額にキスを落とすと、
譲二「友梨花ちゃんはもう休むといいよ…」
友梨花「譲二さんは?」
譲二「俺は…もう少し、ここでロコと話をしてるよ」
友梨花「じゃあ…おやすみなさい」
譲二「おやすみ」
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夜中にふと目覚めると譲二さんはまだ寝室に来ていなかった。
起き上がって、そっと居間をのぞく。
そこには、祭壇の遺影の前で嗚咽をもらす譲二さんの姿があった。
譲二「……ロコ………………」
男の人が…あんなに悲しそうに泣くのを初めて見た…。
私は譲二さんに話しかけることもできず、その場を立ち去った。
私と譲二さんには二人だけの時間や思い出がある。
だから、お母さんと譲二さんにもきっと二人だけの大切な思いがあるのだろう。
どんなに愛しい人でも、そこに私は入っては行けない。
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ひとつ屋根の下・星霜(せいそう)~その2
翌朝、目が覚めると譲二さんは朝食の支度をしていた。
友梨花「おはようございます」
譲二「おはよう。もうそろそろ食べれるからテーブルについて」
友梨花「譲二さん、ちゃんと眠った?」
譲二「ああ、少しだけどぐっすり眠ったよ…。
今朝はなんだか早く目が覚めてね」
目が少し赤いが、いつもと同じ穏やかな表情の譲二さんだ。
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食後のコーヒーを飲みながら譲二さんが言った。
譲二「ロコの四十九日が終わったら、入籍だけでも済ませよう」
友梨花「え? そんなに早く?
譲二さん、またみんなに色々と言われるんじゃ…」
譲二さんはにっこり微笑んだ。
譲二「女房が死んだばかりなのに、直ぐに若い子と結婚したって?」
友梨花「うん…」
譲二「そういうことを言う人は、俺と友梨花ちゃんが一緒に暮らしているだけでも色々言うさ。
だから、世間のことは考えずに自分たちがどうしたいかを優先させよう」
譲二さんはきっぱりと言った。
そこには昨夜あんなにお母さんの死を哀しんでいた人の姿はなかった。
譲二「それで…、一周忌が終わったら、二人だけで結婚式をあげよう」
友梨花「いいの?」
譲二「俺が見たいからさ…。友梨花ちゃんの花嫁姿」
私は思わず譲二さんに抱きついてしまい、しばらくは長いキスが続いた。
譲二「俺が不甲斐ないばっかりに…。
こんなに友梨花ちゃんを待たせてしまってごめんね…」
友梨花「ううん…。私はずっと譲二さんの側にいられて幸せだったよ…」
譲二「ありがとう…。
言い訳になるけど…。
ロコには何度も離婚しようと話を持ちかけたんだ…。
だけど、俺たちの間のことを話すことすら許してもらえなかった…」
譲二さんは思い出すように考え込んだ。
譲二「ロコには『私がいない間、あなたたちが何をしようと勝手だけど、私の前ではいい夫と娘でいてちょうだい』と言われたんだ。
取り付く島もなかった…」
私は譲二さんを抱きしめる手に力を入れた。
譲二「『私を一生守ってくれるんじゃなかったの?』とも…。
そう言われると俺には何も言い返せなかった。
そうこうするうちにロコは認知症になって…。
離婚できる状態じゃなくなった。
…ほんとにごめんね…。
こんな俺に付き合わせて」
友梨花「譲二さんが悪いわけじゃない。
譲二さんのせいじゃないよ…」
そのまま…私たちはお互いの温もりを感じながら抱き合っていた。
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それから一年と少し経った頃。
私と譲二さんは二人だけの結婚式をあげた。
譲二さんは「新しくウエディングドレスを作ればいい」と言ってくれたけど…。
私は敢えてお母さんのウエディングドレスを着た。
お母さんにも私と譲二さんの結婚式を見守って欲しかったから…。
今はもう…祝ってくれるよね、私たちのこと。
だって今、お母さんは、お父さんと手に手をとって幸せに暮らしているはずだもの。
譲二「友梨花ちゃん…。とっても奇麗だ…。惚れ直したよ」
譲二さんが優しい目で見つめてくれる。
お母さんにも同じことを言ってたよね…って思ったけど…それは口にしなかった。
ただ、頬を染めて譲二さんを見つめ返した。
やっと…愛しい人に花嫁姿を見てもらえたのだから。
奇しくも…、私はお母さんが譲二さんと結婚した時と同じ歳になっていた。
『ひとつ屋根の下・星霜(せいそう)』おわり
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どの場面でも口さがない人達は色々と言うでしょうね。
16歳上の女性と結婚した時も言われたろうし、認知症になって施設に預けたら預けたで、年取った妻を放り出して若い娘とくっついているとか、お葬式でも遺族の席で二人が並んでいたら、色々噂する人達はいるだろう。
でも、譲二さんはそれらに一々言い訳することなく、甘んじて受け入れるような気がするんですよね。
結果は全て引き受けるというか…。私の中では、譲二さんはそういう男らしさのある人だと思っています。
ラスト、譲二さんは54歳になってるわけですが…。
54歳の譲二さんもダンディで素敵なおじさまなんだろうな♪って想像するとニヤケが止まりません。
中学生から54歳のおじさままで…どの年代の譲二さんも大好き。