ブダとペストの表情

ホステルの宿泊者同士の会話に、何度となく「ブダが・・・」という単語を聞いた。ブダペストで仏陀関係の展覧会でも開催されているのかと訝しく思っていたのだが、ドナウ川を挟んだ「ブダ側」「ペスト側」のことを言っているのだと最近になってわかった。
世界遺産に指定されているドナウ川両岸と旧ブルジョアジーマンション街の周辺は、豊富な水量のドナウ川と豊かな資金を注ぎ込んだ重厚な建造物のどっしりとした風景は「ドナウ川の真珠」の名にふさわしい景観を醸し出している。
街を歩くだけで「歴史」を体感する都市は、大きな財産を過去からもらっているのだなとつくづく感じる。「アメリカと欧州を欧米と総称するが、欧州にあってアメリカにないもの、それは『歴史』」と誰かが言った。
しかし、歴史ある街の景観を、鑑賞に堪えうるよう整備、保全、維持するコストと住民理解の多大さは想像に難くない。地下鉄駅構内や寂れた建造物の影にはホームレスの人々の姿が目立ち、貧富の差から生まれる歪みが、賑やかな通りから外れた建造物への大きな落書きや壊れたガラス窓に滲み出る。

「世界を回りながら、入国ビザはどうやって取得しているのですか」と旅行代理店の女性に聞かれた。日本人は、欧米諸国を始め多くの国の短期滞在にビザは必要ないと答えると、彼女は目を丸くして羨ましがり、そして言った。
「私たちハンガリー人は、米国や豪州を始め、多くの国で入国ビザが必要です。それに、申請しても下りないことも。特に、米国の入国ビザを取得するのは容易じゃないんですよ」

民主化されて２０年に満たないハンガリーは、欧州連合に加盟したものの、ユーロ通貨に参加できる社会資本整備にはまだ時間がかかると言われている。世界に誇る歴史的・文化的を財産を維持しながら、同時に経済的に先進国の仲間入りを目指すハンガリー。多くの旧社会主義国と同様、様々なハードルに臨むエネルギーを未来に託す希望から得ているのだろうか。会話する多くのハンガリー人の表情は明るく優しい。


↑ブダペストには、１００年以上前から地下鉄が走る（世界最古のロンドン地下鉄に継ぐ古さ）


↑地下鉄車内のしなやかな「吊り革」。車内には中吊り広告が一枚もない。


↑８０以上の源泉があるブダペスト。共同浴場は５０以上あり、トルコ人が造ったゴシック建築の浴場も多数。どれも水着を着て、屋内外の大きな風呂に男女一緒にゆったり入って楽しむ。


↑日用品、食品に全て値段を付けて店先のウインドウに並べている店。


↑ドナウ川の西岸「ブダ」は、丘の上のブダ城がランドマーク的存在。


↑中心部には落書きされ閉じたままの建造物も点在し、ホームレスの溜まり場となっている。