見果てぬ夢

様々な土地をゆっくりと歩き、そこに暮らす人たちに出会い、風景の中に立てば、何か見えてくるものがあるかもしれない。

「道を歩く権利」という発想

2008-10-09 23:44:50 | 北海道の風景
昨年、英国のウインチェスターに滞在していたとき、周辺の住宅地と街の中心地を結ぶ自然風景の中の歩道をよく利用した。
中心街に近づいても、両脇の緑地や木々や小川の風景は変わらず、ジョギングや散歩や読書を楽しむ市民の憩いの道になっていることに驚かされた。
道は、牧場に進入し、民家の脇をすり抜け、大学の構内を入っていった。
「道を歩く権利」を、土地所有者と共有した英国の「Foot Path」の精神がそこにあった。

         ウインチェスターのフットパス

根室地域に、「フットパス」があると聞いた。
フットパスを活用したエコツーリズムを開発・普及したいという人たちの動きが始まっているという。
家から車で30分ほど走った根室市の厚床(あっとこ)に、その一つが整備されているらしい。
歩いてみることにした。



根室本線の厚床駅には、小さな駅舎の4分の1スペースを独占し、フットパスの広報コーナーが設置されていた。
簡単な展示だが、わかりやすく整理・整頓されている。
若い牧場主の伊藤さんが発起人となり、根室の牧場主たち数人で2001年にスタートした「根室フットパス」は厚床を含めて3ルートが整備されていた。





広報スペースに置いてあった資料類を一通りいただき、駅前から始まるという厚床パスのルート地図を購入した。
200円。駅舎で一人勤務する駅員さんが、販売事務の担当だ。
スタート地点を駅員さんに訊ねると、わざわざ駅舎から外に出て来て、構内脇にあるルートの入り口まで案内してくれた。
思い掛けない親切な対応だった。
JRの協力を得るまでに築いた伊藤さんたちチームの努力が頼もしく思える。



フットパスは、厚床駅の脇から、明治乳業工場に進入し、工場の裏手を通りながら牧場方面に伸びていた。
途中、明治開拓期の歴史の跡や樫の木の群生地などを通り抜けるルートだ。





「もの思いにふける丘」と命名された広い牧場内の丘は、周囲360度を見渡すことのできる小高い丘だった。
周囲に高い山はなく、地平線まで様々な牧場と森林が波打つように広がっている。
牧草を撫ぜる風が、柔らかく吹き上がった。
もの思いにふけっているうちに、寝転んで、心地よい眠りに陥りそうなほど、心地よい場所だ。
「『フットパス』は後に出てきた言葉で、最初は『まきばの散歩道』としてルートを作ったんです」という伊藤さんの言葉をそのまま表す場所だった。



厚床パス全長約10キロのちょうど中間地点に、酪農喫茶店があった。
ハロウイン祭りにかけて、カボチャのスープが特別メニューに並んでいる。
牧場チーズの盛り合わせとベーグルとスープで、久しぶりにちょっと贅沢なランチになった。



ところで、
実は、昼食後に歩き始めた牧場内で迷子になった。
進入した牧場はあまりに広く、どこを見ても同じ風景で、どこにも人影はなく、家もなく、ついでに道もなく、方向を失ってしまった。
何事かと集まってきた牛たちに聞いても、誰も答えてくれない。

仕方ないので、もと来た方向へ戻ることにした。

「厚床パス」は、フットパスというより、簡易トレッキングコースといったルートだった。いや、牧場探検コースと言ってもいいかもしれない。
そういえば、厚床駅でもらったリーフレットには、「あると楽しい7つ道具」として、コンパスや弁当・おやつ・水筒が入っていた。

英国のフットパスのように、地域の人が生活や憩いに使っている道ではなく、観光客や旅行客用の非日常的な道、「北海道版フットパス」であった。
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