読書とかいろいろ日記

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『絵画鑑定家』 マルティン・ズーター

2010年11月05日 | 読書日記
絵画鑑定家 (ランダムハウス講談社文庫)
マルティン・ズーター(シドラ房子・訳)
武田ランダムハウスジャパン

¥860+税 ランダムハウス講談社 2010/1/10発行
ISBN978-4-270-10335-7

心理スリラーの傑作。
と、裏表紙にあるけれど、え、そうかな。
むしろキャラものだよな。アドリアン、ものすごく魅力的なキャラですよ。大金持ちで名門で絵画鑑定家として名を馳せていて性格温和で金離れがよい。ほーらすてき。…あれ?


> アドリアンはシャワーを浴びてパジャマを着た。同じのを二晩着ることはない。十四枚のオーダーメードのパジャマはモノグラム入りで、偶数日のためのライトブルーのが六枚、奇数日のための青と白の縞のが六枚、日曜のための白のが二枚だ。それは、生活にちょっとした贅沢と規則性を与えてくれるささやかな奇行だった。彼は、規則性が人生を長くすると信棒していたのである。(19頁)

「ささやかな奇行」と自分の行動を認識できているところが常識的で、かつ、その奇行を実践できる行動力と経済力があることをささやかに主張しているとともに、その奇行を思いつくという点で、ささやかに変わり者であることを読者に伝える。
ささやかに奇人。
いいですねえ。


> 他の日だったらこうした出来事が彼の気分に影響を与えただろう。といっても、機嫌が悪くなるということではない。育ちがよいので、不機嫌を表に出すことはまずなかった。口数が減って動きがゆっくりになるくらいのものである。
 そう、ゆっくりになる。そういう日々を、彼はスローモーションの日々と呼んでいた。暗礁に乗り上げたような気分の日だ。それが、他の人々にとっては憂鬱というものであるらしいと気づいたのは、そう前のことではない。(117頁)

育ちがよいので不機嫌を表に出さない。
私は育ちが悪いので感情が露です。
感情が安定している人っていいなあ。


アドリアン・ヴァインフェルト。
バーで出会った女性ロレーナが、昔愛した女性ダフネに似ていて心魅かれる。酔ったロレーナを家に連れて帰ったところ、翌朝ロレーナが自殺しようとするのを止めて、アドリアンは彼女の人生に責任を持つ。…

アドリアン、これだけ性格のいい人なんだから、いままで言い寄る女もいただろうになあ。

読みながら、この優しい人を傷つけないで、だまされないで、悪いことに手を出さないで、と祈るような思いに囚われた。
賢い人だからだいじょうぶ、だけど恋をした男は往々にして自ら墓穴を掘る。
どきどきした。
あ、そうか、だから心理スリラーなのか。

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