NINAの物語 Ⅱ

思いついたままに物語を書いています

季節の花も載せていきたいと思っています。

寂しい部屋(5)

2012-02-14 22:22:00 | 寂しい部屋
 正代は、いつも自分の方に向いている健吾の目がうっとうしく、見張られているようで窮屈に感じていた。
夫が勤めていた頃のような自由が欲しいと思う。
最近は夫から声をかけられるとつい、つれない言葉しか口から出てこない彼女だ。
俳句・俳画の講座では殆どが彼女より年上の男女だが、それなりに遊び仲間としては楽しい。
仲間との旅行も、これまで家にいた時には経験しなかったような、ときめきや嬉しさがある。
時には年上の男性に誘われ、お茶をしたり、古寺や庭園を観賞したりすることもある。
それだけのことではあるが、夫と違う男性と遊ぶことに後ろめたさもあって、夫にはそれを話すことが出来なかった。

 健吾が定年退職して2年後、リホームした部屋で【花道・茶道教室】が始まった。
花道は水曜日の夜、茶道は土曜日の午後昼間に週一回ずつ教えることにした。
花道教室が始まると、その材料の花が必要になって、正代も健吾と一緒に畑を耕したり花の苗を植え替えたりして、花作りに精を出さざるを得なくなってきた。
「奥さん、珍しいわね。ご主人と一緒に畑の仕事なんて。
最近は滅多に花の手入れをされているのを見なかったので、もう畑仕事はに嫌になられたのかと思っていました。」
近所の主婦が興味深そうな顔をして正代に話しかけた。
「ええ、主人が生け花を教えるとなると、お花もたくさん必要ですから。」
そう答えながら、正代はその主婦の意味ありげな顔が気になる。
近所で、何か自分の噂をされているのでは、と憶測してしまう。
狭い町の中、夫以外の男性と遊ぶことに尾ひれを付けた噂が流れては、これまでのように遊ぶわけにもいかない。
今後は行動に気を付けなくては・・・
目的のある花作りは、健吾にとっても正代にとっても意欲が出る。
庭の花の多くは、低い草丈のグランドカバー用の花であったり、生け花に向かない一日花であったが、切り花用の花に徐々に変わっていく。
元来、正代は植物を育てることが好きな女性なので、また花作りに喜びが持てるようになってきた。
「ねえ、赤いお花が多すぎるんじゃないかしら。青いお花もあった方ががいいわね。」
「そうだね。また苗を買って来るとするか。次は種から育てないと費用が高くつくね。」
二人で作業する畑では会話が弾む。
正代は健吾がやる気を出して活き活きといている姿が頼もしく、彼にに対してまた元の笑顔が戻ってきた。
若い娘たちの集まるこの家は華やいだ声と雰囲気に包まれ、若い娘たちとお喋りをしている正代自身も、若返ったような錯覚を覚えて心が浮き立つ。
健吾は教師をしていた頃と同じように、花道・茶道教室の弟子から、「先生、先生。」と慕われ、この弟子たちが本当の娘のように可愛く思える。
花道教室の前日は、次の日の準備のために部屋を整えたり花の準備で忙しい。
何種類かの花を一束づつに揃える作業が終わって、健吾が夜遅くに寝室に入ると、正代は大きな口を開け、いびきをかいて既に寝ている。
眉間や額に皺が目立ってきた彼女の顔をしげしげと見る。
「正代も歳とったなぁ。」


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4 コメント

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w(°o°)w おおっ!!大臣(°°)\(-O-;) ッテナンデヤネン (おお大臣)
2012-02-16 16:32:48
(°ー°)(。_。)ウンウン どうやら軌道修正されて怪しい方向には行かなくなったかしら?

年をとったな~........

あなた~それはお互い様でしょう~!と夢の中で叫んでいる正代であった~(°°)\(-O-;) ッテナンデヤネン
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Unknown (nina)
2012-02-16 20:52:36
大臣様
正代の歳では それほど軌道を外れた道を歩めなかったかもしれません。
でも分かりませんよ。これから・・・

男性は自分が歳をとっていても、気付いていない人が多いかもしれませんね。
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Unknown (nasa)
2012-02-18 13:50:13
>正代はその主婦の意味ありげな顔が気になる
何かの伏線になるのでしょうか・・・・何か気になる
>男性は自分が歳をとっていても、気付いていない・・・
そうです、自分もまだまだ若いと思っています、
それに気付いたときはもう男としては終わりですね。
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Unknown (nina)
2012-02-18 14:38:04
nasaさん
ご指摘ありがとうございました。
文章を書き落としていました。

>正代はその主婦の意味ありげな顔が気になる
ここからもっと発展すればいいのですが、これも読者の方の期待はずれになっています

そう、男性は何時までも若い女性を追い求めます
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