
幕末の水戸藩の中で、天狗党と諸生党という2つの派閥による凄惨な争いがあって、天狗党の妻子が受けた過酷な仕打ちに驚き・・・。その後、数年で政情が変わり、今度は逆の立場にと・・。
この小説で私が一番衝撃的で印象に残ったのが、この部分と投獄されたシーンでした。ほんの150年前の事なんですよね・・。
実は、前半の恋愛部分と嫁に行けたものの、夫はほぼ留守で、夫の妹が意地悪する処までは、そんなに熱中して読めてなかったのですが、牢に入れられてからは、ぐぐっと引き込まれて行きました。(いやー実際、読むの結構辛かったです。遠藤周作の「沈黙」でキリシタンが酷い目に遭うシーンを読んだ時と似た気持ちに・・)
恥ずかしながら、歴史に疎いので、徳川慶喜が水戸徳川家出身ということさえも知らなかったです。
藩内の争いで自滅してしまった水戸藩・・・。
明治になって落ち着いた後、貞芳院と歌子が話すシーンで、薩長と水戸の違いは、薩長や加賀藩はお金に余裕があり、薩長は温暖な気候もあったが、水戸藩は貧しく、質素にきりつめた生活から、人の気を狭くさせ、内政に意識が行き・・・って語っていました。そういうのはあるかも・・・。
そして、この小説が凄かったのは、最後に、おおっ!という部分があった事でした。
★以下ネタバレ★
市川の一人だけ行方が分からない娘で、同じ名前のトセが、まさかの歌子のすぐ側に長年いた澄さんだった。
若い頃から長年勤め続けている、有能だけどクールな澄さんが、実は天狗党を弾圧した首謀者である市川三左衛門の娘だったとは。実は、澄さんは相当な復讐心を秘めたまま、長年一緒に過ごしていたのですが、歌子の人知れぬ寂しさなどをかいま見る内に、段々気持ちは変わって行ったのでした。
途中で歌子先生も、彼女が落とした袱紗から、それに気がつくのだけれど、だからと言ってどうこうしなかった。
そもそも、歌子がこの文書を残したのは、澄さんへのメッセージでした。
遺言には、赤沼牢獄の酷い経験があったにもかかわらず、復讐の連鎖を終わらせることを望んで、澄さんの子供を養子にしたい、と書かれていたのでした。
素晴らしいですね。
それにしても、現在ずーっと先祖代々から住み続けていらっしゃる元水戸藩のあたりの人々は、つい150年前の事とか、引きずってる人が多くいらっしゃるのではないでしょうか・・・
ちょっと、そのあたりが心配になりました。
あと、恋焦がれていた人と両想いになって、良かったねー!って思ったのですが、色っぽいシーンがバッサリ何も無かったですね。いや、私はそういうシーンは、どっちかっていうと、あんまり好きってわけではないので、無くても良いのですが、でもな、ゼロっていうのも、ちと淋しいような気もしました(珍しく) だって、そこ、読んでいて、凄く盛り上がるというか良かったねえー!!って処だから 以上
読み終わった後、まかてさんのインタビューがあって、いつもイケメンばかり登場するって言
われるので、本作は美男にしたくなかった、って。笑いました。
たまたまなのね。そして、それを気にされていたとは。
まかて作品で、ルックス以外から人を好きになるお話も読んでみたいです。
と、思っていたら、次に読んだ「先生のお庭番」の主役の熊吉は特に美男ではなかったようで、良かったです^^
内容・あらすじ
樋口一葉の師・中島歌子は、知られざる過去を抱えていた。幕末の江戸で商家の娘として育った歌子は、一途な恋を成就させ水戸の藩士に嫁ぐ。しかし、夫は尊王攘夷の急先鋒・天狗党の志士。やがて内乱が勃発すると、歌子ら妻子も逆賊として投獄される。幕末から明治へと駆け抜けた歌人を描く直木賞受賞作。
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先生のお庭番

シーボルトに仕えた庭師の熊吉目線で、ずっと物語が進むので、凄く読みやすかったです。
熊吉の人間性が、勤勉で控え目な処とか、とても好感が持てたし。
先に読んだ「恋歌」は登場人物がとても多く、当時の政情や、色々な時代の流れもあわせて読まなくてはならないので、歴史にうとい私にとっては、かなり読むのが大変でしたが、こちらは、終始余裕を持って、楽しんで読めた感じです。
去年長崎や出島に旅行に行ったのもあって、あそこで暮らしていたんだなあーとか、稲佐山に登ったのかーとか、反応出来たのも嬉しかったし、長崎の方言や口調がとても可愛らしくて耳に気持ち良かったです。
それと、水色のアジサイ、あれってオタクサっていう名前だったのね。その由来が、シーボルトが妻を呼ぶあだ名から来ていたとは。
ところで、オルソンは、どうなっちゃったんだろう・・・。この人好きだったなー。
オランダには行けないから、途中の「ばたぴあ」で別の主人にまた買われたんだろうか・・泣
ところで、ばたぴあって、どこなのかなーと思ってたら、インドネシアだったのね。
:バタヴィア (Batavia) はインドネシアの首都ジャカルタのオランダ植民地時代の名
シーボルトに関しては、善人で立派な人ってだけじゃなくて、秘密な動きをしていたっぽいことや、色々嘘をついてた事も発覚する。(彼のせいで、処刑されたり投獄されたりした人が多くいたのが辛いよー)
あと、彼の考え方が、日本人的思想と、ちょっと違っていましたよね。多い植物が長期移動中死んでしまっても、熊吉の様に落ち込むこともなく、また虫に対しての考えとかも。
本を読み終えた後、その後のシーボルトや周りの人がどうなったのか?を調べてびっくり。
30年後に、再来日して、娘イネと再会し、また交流を密にしていたんですね。
シーボルトはヨーロッパに戻った後48歳で結婚し、子供を授かり、その長男、次男を伴って日本に再来日。
次男は日本人女性と結婚し、長い間日本でずっと暮らし、イネの生活を助けていたそうで、シーボルト一家、日本びいきだったのねー。
ところで、数年前、松本零士さんのメーテルのモデルになったという、イネの娘さんの楠本高子さんですが、なんと・・イネの産科医としての師匠であった石井宗謙から強姦されて出来た子供だったそうで・・・しかも、高子も母と同じに、医師・片桐重明に強姦されてしまい、子を身ごもったそうです・・・。
のちに医師・山脇泰助と再婚。一男二女をもうけるが、またも夫に先立たれ、以後は母・イネとともに暮らしていたそうな・・・。
先生のお庭番 2012/8/11 朝井まかて
単行本の装丁よりも文庫本の方が素敵ですね。
こういった、実際に実在した著名な人物と時代背景に、フィクションを入れこんだ作品って面白いのだけれど、フィクション部分さえも、事実に錯覚して行ってしまいそうな危険性?も含んでいますよね。
朝井まかて
「実さえ花さえ」感想
どちらの作品も、背筋が伸びるような凛とした読み心地があり、とても素晴らしい作品でしたね!
『恋歌』の歌子の苛烈な人生、『先生の~』の熊吉の植物への情熱、シーボルトの真実、読んでいて色々考えさせられました。
朝井さんの作品は、歴史背景がしっかり読み込まれたうえで作られているので、読むのはちょっと大変だったりしますよね(笑)。
『恋歌』:https://mina-r.at.webry.info/201501/article_3.html
『先生のお庭番』:https://mina-r.at.webry.info/201404/article_1.html
両方とも、それぞれの味わいがあって、素晴らしい作品でしたね。
>歴史背景がしっかり読み込まれたうえで作られているので
そうなんですよね、本の終わりの方に、参考にした書籍の名前が沢山並んでいて、
もちろん、それだけじゃなくて、一杯取材や勉強もされてから、書かれているんでしょうね。
だから、フィクションなのに、ついうっかりノンフィクションの気持ちで読んでしまったりします。
本当に幅広い作家さんですね。
まだ3冊しか読んでいないので、力強い小説や、コメディ、ファンタジーものもあるのには驚きます。
ちょっと3冊続けて読んだので、暫くは、溜まっている他の本にとりかかりますが、暫くしたら、また、まかてさんの他の本も読んでみようと思っています。
シーボルトのその後は私も調べましたが、latifaさんほどまでじゃなくて驚きました。
シーボルトは日本史で習った知識位しかなかったけれど、思った以上にクリーンなお人ではなく、すこぶるグレーゾーンに属する敏腕家とイメージが変わりました。
>メーテルのモデルになったという、イネの娘さんの楠本高子さん
>師匠であった石井宗謙から強姦されて出来た子供だったそうで・・・しかも、高子も母と同じに、医師・片桐重明に強姦されてしまい、子を身ごもったそうです・・・。
酷い、パワハラ、セクハラどころじゃないですよね!
>実際に実在した著名な人物と時代背景に、フィクションを入れこんだ作品って面白いのだけれど、フィクション部分さえも、事実に錯覚して行ってしまいそうな危険性?も含んでいますよね
私も肝に銘じて歴史小説は読んでいます。
入り口を作ってもらえて、読後に検証する作業も楽しいですよね。
長崎銘菓 おたくさん
これ、本を読んだ後画像検索しました。知らなかったのですが、この前、長崎に行った時に試食してみればよかったなあー 後悔。
昔働いていた会社に長崎出身の人が多くて、お土産は色々もらったものの、おたくさんは頂いたことが一度もなかったんです。
>「恋歌」は賞を貰っているようですが、私は好きじゃなかったので敢えてレビューは書きませんでした。
まかてさん特有の明るさが引いているように
そうだったんですねー。
だからあえて、外していたとは^^
確かに明るさはなかったかも・・・
私も好きか?と言えば、辛くてもう読みたくはない本です・・・。
それにしても昔の日本も酷かったんですね。立派な医師ともあろうものが、そんな事をしたなんて、酷いわ・・・。
きのう、何食べた? ご覧になられたかなー。