リートリンの覚書

古事記 上つ巻 現代語訳 三十九 須勢理毘売命の歌


古事記 上つ巻 現代語訳 三十九


古事記 上つ巻

須勢理毘売命の歌


書き下し文


 尓して其の后、大御酒坏を取り、立ち依り指挙げて、歌ひ曰く、

八千矛の 神の命や
吾が大国主
汝こそは 男にいませば
うち廻る 嶋の埼埼
かき廻る 磯の埼落ちず
若草の 妻持たせらめ
我はもよ 女にしあれば
汝を除て 男は無し
汝を除て 夫は無し
綾垣の ふはやが下に
帔被 にこやが下に
栲衾 さやぐが下に
沫雪の わかやる胸を
栲綱の 白き臂
そだたき たたきまながり
真玉手 玉手さし纏き
股長に 寝をし寝せ
豊御酒 たてまつらせ

 如此歌ふ。宇伎由比為て、宇那賀気理弖、今に至るまで鎮まり坐す。此れを神語と謂ふ。


現代語訳


 しかして其の后、大御酒坏を取り、立ち依り指挙(ささ)げて、歌い言うことには、

八千矛(やちほこ)の 神の命(みこと)
吾が大国主(おほくにぬし)
汝こそは 男にいませば
うち廻る 嶋の埼埼
かき廻る 磯の埼落ちず
若草の 妻をお持ちでしょう
我は 女ですから
汝を除て 男は無し
汝を除て 夫は無し
綾垣(あやがき)の ふはやが下に
苧衾(むしぶすま)   にこやが下に
栲衾(たくぶすま) さやぐが下に
沫雪(あわゆき)の わかやる胸を
栲綱の(たくづのの)  白き臂(ただむき)
そだたき たたきまながり
真玉手 玉手さし纏き
股長に 寝をし寝せ
豊御酒(とよみき)を たてまつらせ

 かく歌いました。宇伎由比(うきゆひ)為て、宇那賀気理弖(うながけりて)、今に至るまで鎮まり坐す。これを神語(かむがたり)と言います。



・若草の
若草が柔らかくみずみずしいところから、「つま(妻・夫)」に「新(にひ)」にかかる枕詞
・綾垣(あやがき)
布帛(ふはく)で作った帳(とばり)。殿内、室内のへだてにしたもの。きぬがき
・苧衾(むしぶすま)
楮(こうぞ)などの繊維から作った夜具
・栲衾(たくぶすま)
コウゾなどの繊維から作った夜具
・沫雪(あわゆき)の
沫雪がやわらかいところから「若やる」にかかる枕詞
・栲綱の(たくづのの)
コウゾで作った綱が白いところから、「しろ」「しら」にかかる枕詞 
・臂(ただむき)
1・うで。かいな2・ひじ
・豊御酒(とよみき)
「とよ」は美称) 酒をたたえていう語。おおみき
・宇伎由比(うきゆひ)
さかずきをとりかわして心の変わらないことを誓約すること


現代語訳(ゆる~っと訳)


 これを受けて、
その后は、

大きな盃(さかずき)を持って、
八千矛(やちほこ)の傍に立ち寄り捧げて、
歌い言うことには、

八千矛の 神の命(みこと)よ
我が大国主(おほくにぬし)よ

あなたは 男でいらっしゃるから
うち廻る 島の岬・岬に
かき廻る 磯の崎 どこまでも
若草の 妻をお持ちでしょう

私は 女ですから
あなたの他に 男はいません
あなたの他に 夫はいません

綾垣の帳(とばり)の
ふわふわと揺れる下で

苧衾(むしぶすま)の夜具の
柔らかい下で

栲衾(たくぶすま)の夜具の
ざわざわと鳴る下で

沫雪のような
若々しく見える私の胸を

栲綱のような
白い私の腕を

愛撫し、
しっかりと抱擁して

玉のように美しい貴方の手と
私の手をからみ合せて

足を伸ばし
体を横たえ休みましょう

この美酒を
お召し上がりくださいませ

と歌いました。

さかずきをとりかわし、

心の変わらないことを誓約して、

もう大和には行かないと約束し、

互いの首に腕を回して、
今に至るまで鎮座なさっています。

これを神語(かむがたり)と言います。



続きます。

読んでいただき
ありがとうございました。







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