リートリンの覚書

古事記 上つ巻 現代語訳 四十六 国譲り 雉の頓使


古事記 上つ巻 現代語訳 四十六


古事記 上つ巻

国譲り
雉の頓使


書き下し文


 故尓して鳴女、天より降り到り、天若日子の門の湯津楓の上に居て、委曲に言ふこと天つ神の詔命の如し。尓して天佐具売、此の鳥の言を聞きて、天若日子に語りて言はく、「此の鳥は、其の鳴く音甚悪し。故、射殺すべし」と云ひ進むるすなはち、天若日子、天つ神の賜へりし天之波士弓・天之加久矢を持ちて、其の雉を射殺しつ。

尓して其の矢、雉の胸より通りて、逆に射上がり、天安河の河原に坐す天照大御神・高木神の御所に逮りぬ。是の高木神は、高御産巣日神の別の名ぞ。故、高木神、其の矢を取りて見たまへば、血、其の矢の羽に著けり。

是に高木神告りたまはく、「此の矢は、天若日子に賜へる矢ぞ」と告りたまふ。諸神等に示して詔りたまはく、「もし天若日子、命を誤たず、悪ぶる神を射つる矢の至れるならば、天若日子に中らず、もし邪き心有らば、天若日子此の矢に麻賀礼」と云りたまひて、其の矢を取り、其の矢の穴より衝き返し下したまへば、天若日子が朝床に寝たる高胸坂に中りて死ぬ。

此還矢の本なり。

また其の雉還らず。故今に諺に、「雉の頓使」と曰ふ本是なり。


現代語訳


 故に、しかして、鳴女は、天より降り到り、天若日子(あめわかひこ)の門の湯津楓(ゆづかつら)の上に居て、委曲(つまびらか)に言うことは、天つ神の詔命の如し。しかして、天佐具売(あめのさぐめ)が、この鳥の言を聞いて、天若日子に語って言うことには、「この鳥、その鳴く音、甚だ悪し。故に、射殺すべきです」と云ひ進めました。すなはち、天若日子は、天つ神の賜りし天之波士弓・天之加久矢をもって、その雉を射殺しました。

しかして、その矢は、雉の胸より通って、逆に射上がり、天安河の河原に坐す天照大御神(あまてらすおおみかみ)・高木神(たかぎのかみ)の御所にいたりました。この高木神は、高御産巣日神(たかみむすびのかみ)の別の名です。故に、高木神は、その矢を取って見たところ、血が、その矢の羽に着いていました。

ここに、高木神は告げ仰せになり、「この矢は、天若日子に賜りし矢だ」と告げられました。諸神等に示して、詔りされて、「もし天若日子が、命を誤らず、悪ぶる神を射った矢が至ったのならば、天若日子にあたらず、もし邪き心有らば、天若日子は、この矢に麻賀礼(まがれ)」と仰せになられ、その矢を取り、その矢の穴より衝き返し下しになられたところ、天若日子が朝床(あさどこ)で、寝ている高胸坂(たかむなさか)にあたって死にました。

これ還矢(かえりや)の本です。

また、その雉還らず。故に、今でも諺(ことわざ)に、「雉(きぎし)の頓使(ひたづか)い」と言う本(もと)が、これです。



・湯津楓(ゆづかつら)
枝葉の茂った木犀
・委曲(つまびらか)
事情や状態などが、詳しく細かなこと
・朝床(あさどこ)
朝、まだ寝ている床(とこ)。また、朝になってまだ床の中にいること
・高胸坂(たかむなさか)
上を向いて寝ている胸を坂にたとえていう語
・雉の頓使(ひたづか)い
行ったきり帰って来ない使者


現代語訳(ゆる~っと訳)


 こういうわけで、
鳴女は、天より降り、地上に到着すると、
天若日子の家の門の湯津楓の上に
とまりました。

・湯津楓(ゆづかつら)
枝葉の茂った木犀

そして、
詳しく細かに
天津神の詔命の通りに伝えました。

すると、
天佐具売が、
この鳥の言葉を聞いて、
天若日子に語って言いました。

「この鳥の鳴く声は、
とても不吉です。

ですから、射殺すべきです」
と進言しました。

すぐに、天若日子は、
天津神からいただいた
天之波士弓と天之加久矢を手にもって、
そのキジを射殺しました。

すると、その矢は、
キジの胸を貫通して、
逆に射上がり、

天安河の河原にいらっしゃる
天照大御神と高木神の御所にとどきました。

この高木神は、
高御産巣日神の別の名です。

こういうわけで、
高木神が、
その矢を手に取って見たところ、

血がその矢の羽に付いていました。

ここで、高木神は告げになられて、
「この矢は、天若日子に授けた矢だ」
といいました。

そして、
その矢を諸神等に見せて、
詔りされて、

「もし天若日子が、
命令を誤つことなく、
悪ぶる神を射った矢が
天まで来たのならば、
天若日子には当たらない。

もし邪な心があるのなら、
天若日子は、
この矢に当たって死ぬ」
といい、

その矢を手に持ち、
その矢が来た穴から
衝き返し下しになられたところ、

天若日子が、
朝の寝床で上を向いて寝ている胸に
あたって死にました。

これが還矢の本です。

また、
そのキジも天に帰って来ませんでした。

こういうわけで、今でもことわざに、
「雉(きぎし)の頓使(ひたづか)い」
という起源がこの話からです。

・雉の頓使(ひたづか)い
行ったきり帰って来ない使者



続きます。

読んでいただき
ありがとうございました。







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