今回でブログ記事200回となります!想定外に続いております(笑)これからもよろしくお願いしますm(_ _)m。100回はもともとの私のゴールであった、Danny Dewが作ったPaul Foxカップを紹介しました。100回記念にはそれだろう!と決めていたのですが、正直200回は全く考えていませんでした(笑)。ちょっと前に、「あれ?あと数回で200回だ」と思い、考えました…。まだ紹介していないPaul Foxのような自分にとって思い出深いカップなどもありませんし、手順で最も影響を受けているバーノン氏やアマ―氏も既に紹介済み…。どうしようか考えた末、私が手順を演じていないこと(演じられないこと(;^ω^))や、うまくまとめる自信がなく、避けていたトミー・ワンダー氏を紹介させて頂くことにしました。つたない内容になるかもしれませんが、よろしくお願いします。
Tommy Wonder氏(本名はJoseph Bemelman?)はオランダのプロマジシャンで1953年に生まれ、2006年に肺がんで亡くなっています。52歳という若さでした。亡くなる1年前(2005年)に日本でレクチャーをされています。その以前にも来日されているので、生の氏の演技を観た幸せな方もある程度いらっしゃるのではないでしょうか。私も観たかったです…(T_T)。4歳の時見たテレビのマジシャンに影響を受け、10歳からマジックの練習をはじめ18歳でクロースアップ・ステージのプロマジシャンとなります。"Tommy Wonder"は1979年からの芸名(?)でそれ以前は"Jos Bema"(1973-78)でした。1979 FISM 大会で2位(close-up)、1988 FISM 大会で2位(general magic)を受賞しています。代表作は、数多くあり、発明品的なものも多いです。"Ring Watch & Wallet"や"Vanishing Bird Cage"、"Flying Birdcage"、"Diminishing Cards(Squeeze)"、アンビシャスカートの最後に使うRing Boxも有名ですよね。
幸せなことに、氏のマジックの代表作は映像と本で学べます。ビデオはいくつか出ていますが、L&Lから出た3巻セットの「ビジョンズ・オブ・ワンダー(Visions of Wonder)」の字幕付きがお勧めです。カップの手順が収録されているVol.1の商品URLを示します。
ビジョンズ・オブ・ワンダー 第1巻 – スクリプト・マヌーヴァ
本は2冊セットである「The Books of Wonder by Tommy Wonder」に氏のマジックのほとんどが書かれていると思います。氏の集大成といえる本です。一時廃盤になっていましたが、権利が移動し再販されました。カップ&ボールの手順はVol.2に書かれています。日本のお店でも購入できるところがありますが、PVがついている海外のお店の商品ページを紹介します。いつか日本語訳本が出てくれるといいですね(誰かその偉業に立ち向かってください(笑))
カップ&ボールの話に入ります(;^ω^)。氏の有名な手順の演技映像を示します。
日本のテレビ番組で放送されたときの映像もありました
素晴らしい手順ですね。ロードするタイミングを知ってても、何回も騙されるのは私だけでしょうか(;^ω^)?なかなかそんなマジックは珍しいと思います。手順は2つのカップを使ったもので、バッグに付いている大きなポンポンやバッグ自体が出てくるところが非常に特徴的です。2つのカップを使った手順はトミーワンダー氏が初めてではなく、以前紹介したJohn Ramsay氏の手順が1940年代に本となっています
John Ramsay氏はミスディレクションの名手であり、Tommy Wonder氏も恐らくその影響を受けているでしょうから、本人はそのような事は言ってませんが何らかの影響はあったかもしれません。本によると、Tommy wonder氏は2カップについて、3つのカップは観客にとって現象を追うのが難しい、また、2カップで3カップの技法のほとんどはできると考え、2カップにしたと述べています。また、ポンポンを使う発想に至ったのは氏がプロとして活躍し始めた70年代は体にぴったりした服装が流行っており、大きなボールをポケットなどに入れておくことが難しいという環境のためだとのことです。そこから袋からのロードを思いつき、ポンポンそして袋自体へと考えを進めたと考えられます。
Tommy Wonder氏の手順を通常のカップ&ボールとの最大の特徴がはやはり目の前にあったポンポンや袋がカップの下に移動することだと思いますが、プロの演者として価値がある点として後に紹介する「TOMMY WONDER ENTERTAINS」では以下を挙げています。①立ったまま行えるので演技の環境はそれほど重要ではない。②「ポケットワーク」が無い。マジシャンがポケットに手を入れて取り出したり、しまったりすることがない。ボールがカップからポケット(とその逆)の移動もない。③大きくて目立つボールを使っていて(1.5インチ)、観客にとてみやすい④クライマックスの為に大きなボールを3個から4個身に着ける必要がない。膨らんだポケットでマジックを演じる必要がない。⑤終わったらリセットされているので、準備の必要なく、余分な道具も必要ないので、特にテーブルホッパーには便利である。
このような特長を多く持つ手順ですが、1976年にポンポンや袋をロードするというアイディアで手順が作られた後、時間と共に少しずつ手順は変化しています。この手順を記した3つの文献を紹介します。
1.JOS BEMA - LECTURE
1977にトミー・ワンダー氏自身が出したレクチャーノートです。10以上のマジックが解説されており、カップ&ボールが最後に記載されています。タイトルはシンプルに「CUPS AND BALLS」です。このレクチャーノートには有名な氏のDiminishing Cards(Squeezeではないです)や、前田知洋さんもテレビでよくされてたCARD-PUZZLEなどが解説されてます。16ページの冊子に10以上のマジックですので、一つ一つはコンパクトに説明されています。挿絵はトミー・ワンダー氏自身が描いています。カップ&ボールはp13-p16にわたり、14の図を使って説明されており、この冊子の中では多くのエリアを使い詳細に説明されているマジックなのですが、正直この文章だけでどんなマジックが行われているかを理解(再現)するのは厳しいと思います(;^ω^)。
この初期手順では、後の最終手順といくつか違う点があります。導入部分ではカップ・スルー・カップは行わず、ボールがカップを貫通する現象を行っており、さらにチャーリーミラームーブなども行っています。最も驚いたのは、ポンポンがネジではなくクリップで留められていたことです。あの不思議そうな顔をしながらゆっくりネジを絞める演出は笑いを得る非常に良いパフォーマンスですが、初期ではなかったんですね。ちなみに、この冊子はインターネット上で「Original Magic from Holland Lecture」と書かれていることも多いのですが、そんなタイトルどこにもないじゃないかと思っていたら鍵穴に連続して書かれてました...(;^ω^)
2.Tommy Wonder Entertains
1983年に、Jeff Busby Magicから出版された冊子で著者はDr. Gene Akira Matsuuraと書かれていますので日系のお医者さんか博士号を持たれている方でしょうか...。サブタイトルに「Three Novel Routines Based on the Cups and Balls by JOS BEMA」と書かれていること、目次の2つのセクションが「1.Novelty Routines (pp1-12)」「2.The Jos Bema Cups and Balls(pp15-40)」となっていること、表紙にポンポンが描かれていることなどから、この冊子は明らかに氏のカップ&ボールがメインであることがわかります。1つめとしてレクチャーノートと大きく異なり、約20ページをかけて、道具に関して(ポンポンの作り方も含め)と手順を非常に丁寧に解説しています。図も40あり、動きや状態がわかり易く描かれています(挿絵はJohn Elferink)。手順の解説の後は、Tommy Wonder氏によるファイナルロードのコメントや、練習の時に役に立つようにアウトライン、その他バリエーションが書かれています。この手順を学ぼうとする人を考えた、かなり力の入ったカップ&ボールの解説書です!
また、この冊子には、このTwoカップの手順のほかに「CANNED CRAZIESS」と「COUGH COUGH」というマジックが解説されています。「COUGH COUGH」おそらくVisions of Wonder - Vol.2の「Cough Drop」と同じだと思います。
しかし、「CANNED CRAZIESS」は他では解説されておらず、実演動画を探せていない作品です。是非実演を見てみたいこの作品は以前ブログで紹介したいわゆる缶タイプのソリッドカップの手順です。
この記事でも少し述べましたが、当時、ポール・ハリスやマイケル・アマ―などがこのタイプのワンカップルティーンを発表しています。トミー・ワンダーの作品は氏らしく、笑いがあり、特有の道具があります。この手順では、スープ缶を開けるとなぜかミートボールが出てきて、そのミートボールがカップへの移動、それから貫通をします。貫通の途中の半分埋まった状態を見せるのも面白いです。ミートボールはさらに大きくなりますが、実は缶は空いていなかったという手順です。アマ―の手順では、缶についているキャップを開け、それと同時に玉が出てくるというシンプルな演出ですが、トミーワンダーの手順では缶切りで缶を開けるという手の凝った演出です。是非実演を見てみたいですね。
3.The Books of Wonder 1 & 2
Tommy WonderとStephen Minchが著者でイラストはKelly Lylesです。カップ&ボールに関しては2巻の「Acetabula Et Calculi」という章にあります。このブログにして今更ですが、この言葉はラテン語でカップ&ボールの現象を意味します。「カップ(容器)を使うもの」という意味の言葉「acetabularii」と「小石を使うもの」という意味の言葉calculariusからなり、共にマジシャンを表す言葉として使われていた言葉のようです(カップ&ボール=マジシャン(o^―^o))。
この章では、いくつかのことが書かれていますが、特にロードに関しての内容が詳細に書かれています。氏のTwo-cup Routineでもポンポンや袋のロードが特長ですし、氏がそこに様々な考察を行っていたことがわかります。どこかで聞いた(読んだ)のか忘れましたが、今のカップ&ボール演者はバーノンの手順に慣れ過ぎていて、ポケットに手を持って行き過ぎだと...理由を作り自然にポケットに手を持って行くのもいいが、最もいいのは全くポケットに手を持っていかず、大きなボールが出てくることだ...という言葉に少しハッとした記憶があります。
Two-cup Routineの解説では先に紹介した冊子の解説よりさらに詳しく、微妙にアップデートされた最新版(最終版)の道具やルティーンが説明されています。先の冊子ではこの手順を学ぶ人のために、どのような現象か、どう実演するのかが詳しく書かれており、ビデオが一般的でなかった時代にこのルティーンを学ぶのに非常に役立ったとも思われます。この本は氏自身が書かれているため、それらに加え、さらに、なぜそれを行うのか?という見えていないところまで深く書かれています。この手順を本当にマスターしたいのであれば、演技・解説映像と合わせてこの文章での解説も読まれた方がよいかと思います。
再度氏の手順を振り返りますと、これだけ、方法がわかっていても引っかかってしまう手順はそうそうないと思います。観客が気を抜くタイミングを作るには、逆の緊張するタイミングを作ればよいとビデオで言われてます。他でも聞いたことがあるフレーズですが、それが非常によく実現された手順だと思います。
最後にカップについてですが、本では、クラシックな形でも、丸みを帯びたポールフォックスタイプでもどちらでもいいと書かれています。トミーワンダー氏は後者が好みだそうです。この手順では多くのカップ&ボールの手順と異なり、カップのトップに複数のボールを置くことがありません。ですので、トップの領域は広い必要はありません。また、前半のカップの上からボールを引き出すような動きや、後半の観客の手からカップを持ち上げる動きなどを考えると、トップが狭くスリムなAuke Van Dokkum氏やRaphael氏がデザインしたカップの計上は合理的な気がします。ボールとカップの大きさに関しては必要な関係がありますので、大小のポンポンは使うカップに合わせた大きさにする必要はあります。