アマラ深界第4カルパのB2Fへ。
ここは短いL字の通路を通って、
すぐ見える十字路を右に曲がれば、
閉ざされていた扉のところに到着。
今は開いているので先を進むと、
覗き穴のある安全地帯に入れる。
短い距離なのだが、運が悪いと
第2カルパの呪いの空間で出現した、
高レベルの悪魔と遭遇し戦闘だ。
今回は見事に遭遇。
魔王アバドン、夜魔ニュクス、
堕天使フラロウスの猛者揃い。
先制されなかったのが幸いだった。
絶対零度やプロミネンスなどで
魔法攻撃のゴリ押し。
最後に残った魔王アバドンを
吸血して戦闘終了できた。
経験値が2000近く入るのだが、
こいつら相手に経験値稼ぎは
正直まだしたくない。
妖精ティターニアにMP供給係を
してもらっているが、
『チャクラの具足』による回復は
物足りなくなってきた感じだ。
というか、
『吸血』+『マカトラ』
だけで間に合うと思う。
『吸血』は万能属性なので、
相手を選ばないから大丈夫だろう。
十字路にいる思念体に声を掛けると
台詞が変わっていた。
思念体
「どうやら仕掛を解除出来たようだね。
これで先に進めるだろう、頑張るんだね。」
こんなところにいる思念体なだけに、
悪魔崇拝者(ガイア教徒)なのかも。
悪魔の隼人を応援しているようだ。
先にある扉を開けて進むと
覗き穴の部屋。
覗き穴の奥から、
不思議な気配を感じる…
隼人は覗いてみた。
いつも以上に
拍手と歓声が大きい気がした。
舞台の緞帳が上がり、
車椅子の老人と喪服の淑女が現れる。
喪服の淑女
「ついに全てのメノラーを集め、
ここまで来ましたか。
以前約束しましたね…
あなたに全てを教える、と。
お話ししましょう…
もう気付いているかもしれませんが、
メノラーは盗まれた訳ではありません。
訳あって我が主が、それに見合うであろう
者達に手渡した印なのです。
だましていた事はお詫びしましょう。
しかし、これには理由があるのです。
これから話すことを聞いていただければ、
その理由もわかっていただけましょう…
時の流れを超え、世界、宇宙では
光と闇の勢力が争ってきました。
その戦いはあらゆる者に影響を与え…
悪魔や人間たちも、
いずれかの勢力の支配下に組み込まれ、
戦い続けてきました。
…そしてその戦いは、
終わる事なく続いているのです。
しかし、あの御方は
この無限の戦いを終わらせることを
その名に誓いました。
今までにない、己が意を継ぐ
混沌の悪魔を創り出し…
光の勢力との終の決戦に
挑む決意をなされたのです。
その悪魔を生み出すために用意されたのが
死を司る魔人たちでした。
死に挑み、死を超えることで
悪魔の、滅ぼし、滅ぶ力の
結晶となることができる。
それが我らに許される、
初めての黒い希望になるであろう、と。
そう、それが全て
我が主とあの御方の間で定められた、
新たな悪魔を創る計画でした。
多くの魔人たち、そしてこのアマラ深界、
全てはあなたを試すための試練だったのです。
ある魔人は何も知らず
あなたに戦いを挑み、
またある魔人は全てを知りつつ、
混沌の未来を夢見てあなたに討たれました。
そう、全ては
終の決戦の時を迎えんがために…
そして今、あなたは期待通り
全ての魔人を退け、ここにきました。
あの御方の望んだ…
混沌の希望たる悪魔として生まれ変わるに
相応しい強い力を持って。
どうですか?隼人。
あなたのその力を、私たちのために…
深淵に潜む混沌の悪魔たちのために
役立ててはくれませんか?
強制はいたしません。
…あなたがボルテクス界で今まで通り、
人間の力の行く先を信じるのであれば、
もうこの地を踏む必要もありません。
しかし世の定め、逃れられぬ運命、
全てを支配する絶対的な存在…
もしそれらに疑問を持つ事があるならば…
あなたは深淵の底まで訪れるべきなのです。
その心まで、
悪魔として生まれ変わるために…
最後に…
あなたと関係のあった一人の人間。
運命に流され生かされている者について
あなたに語りましょう。
それを見て進むべき道を見定めることを…
我が主は望んでおります。」
車椅子の老人が杖を横に持って掲げると、
空中にヒジリの姿が映し出された。
喪服の淑女
「その者、かつてヒジリという名で
存在した一人の人間。
その者は、死してなお運命に糸引かれ…
ボルテクスの地に存在していました。
思い出してごらんなさい。
その者と初めて会った時の事…
東京受胎の起きた時の事を…
…そうです、この者は他の者と同じく
あの受胎でその身をうたれました。
あなたたちのいた病院へ向かう途中で
受胎が始まり…命を落としたのです。
理に適わぬ事だと思いませんか?
この者だけが変わらぬ姿で
ボルテクス界にいるなどとは…
それはこの者の背負った罪のため…
彼は死という安息すら奪われ、
運命に弄ばれる哀れな存在であったのです。
決して終わる事のない、
償いの苦しみを背負わされたままに。
この者に課されたのは、
世界に起こる全てを見届けねばならぬ罰。
あらゆる時代の中で、
世界の天秤を…その傾きを見届け、
記すことを使命づけられました。
その大海の水をコップで掻き出すような
償いは、彼に永劫の時の中を
さ迷うことを強いたのです。
人の身であれば、
その霊に良いにしろ、悪いにしろ業を積み、
次なる転生の先を変えうるもの…
しかし、彼からはこの権利が奪われました。
ゆえに、その身が滅んでも、
魂は救済される事なく、
その役目を続けなくてはいけない。
あたかも救われぬ魂を持つ悪魔の如く、
呪われた永遠の命で過ごすしかないのです。
見よ、そして記すのだ。
世界の流れを…法と混沌の
終わり無き戦いを余さず記すために…
それが、許されぬ大罪を
犯したオマエへの罰なのだ…
解りますか?
彼はアマラの摂理に呼ばれ、
罪業の呪いに再び不幸な生を受け…
一度死した身に気づくことなく、
ボルテクス界に立ったのです。
そうして彼は、あなたと再会しました。
それは、あなたがこの世界の行く末に
大きな影響を与える可能性があるからでしょう。
あなたと共にいることで、彼は
世界を見守りつづけていたのです。
彼の不幸は、あの者自身が
その呪われし記憶を持たない事。
彼は、己は人として
助かり生き延びたと信じ行動しました。
その行動の結果がどうなったかは…
あなたも知っているでしょう。
人ならざるマネカタという物体にされた彼は、
創世を目論む者たちに挑み…
…そして再び肉体を失ったのです。
あの者は、また
苦しみの地へ旅立ちました。
封じられた意思と、
減ることのない罪業を抱えて…」
ヒジリの映像が消えた。
喪服の淑女
「この様に運命に定められたまま生きるのか…
自分の行動を自分で決めるのか…
定めに背く意思があるなら…
深淵の底に生きる悪魔と共に、
新たな運命を切り拓く意思があるなら…
我が主の下を訪れて下さい。
この先の扉…そこはあなたに初めに渡した
メノラーで開けることが出来ます。
我が主の下まで来て…頂けますね?」
隼人
「はい」
千晶も勇も、神を降ろして
もはや人ならざる者と化してしまった。
今後の展開で氷川もそうなるのだろう。
祐子先生に至ってはコトワリも啓かれぬまま
アラディアとボルテクス界を放浪している…
残された人たちにまともなのが一人もいない
という現状では、人間の力の行く先を信じる
なんて、もはや不可能だ。
であれば、悪魔と同族となり共に生きる方が、
よっぽどマシ…
ボルテクス界に来て、最初に生き残る力を
与えてくれた恩もある。
選択肢に『いいえ』など、
あってないようなものだ。
喪服の淑女は最初から全てを見透かして、
隼人を迎え入れるつもりだったのだろう。
喪服の淑女
「では、最下層で待っています。
最下層への道を開けておきますので、
あなたに初めに渡したメノラーを使い
最後の場所を抜けて来て下さい。
お待ちしております。
それでは、またお会いしましょう。」
拍手と歓声の中、緞帳はゆっくりと下りた。
1つだけ分からなかったのは、
ヒジリの大罪の中身。
何をどうやらかして、
そんな罪になってしまったのか。
新たな謎が残った感じで幕が下りたようだ。
(ヒジリがマネカタだったという事実が、
一番驚いた気がするよ…)
そして扉の開いた先には、
第5カルパへと続く穴があった。