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その日は晴天だった・・・
下手なスキーで転び骨折して入院している以外は普段と変わらない
平凡で暇な1日のはじまりだ。
平日という事もあり、見舞い客も少ない個人病院
右足骨折、大たい骨にはヒビ、痛みは薬で和らいでいた
退屈な時間・・・・
骨折とヒビ以外は健康な身体、暇を持て余す
4人部屋に1人という寂しさ
仕事中の友人に携帯でメールしまくってる私
そんな1人の静寂な時間を慌ただしい看護士さん達のドタバタで、急に病室がざわめく
ベットの準備の見事な連携プレーに見とれていた
やっと1人ぼっちから開放されて話し相手が出来る
そんな気持ちがほのかに芽生えて暇な時間は過ぎて行った
夕方になっても準備万端のベットには誰もこない
夕食時間に『はい、みゆきさん今日もしっかり食べてね~』
『は~い!所で隣のベットの人はまだ入院しないの?』
『あぁ~総合病院から転院してくるのよ、そろそろ着く頃だわ』
転院してくるのか~
総合病院から個人病院に転院してくるって事は状態が良くなったからだな
と、勝手に決めてた私
隣のベットにようやく転院してきた女性は40代前半に見える
しかも超が付くほどに痩せてて、1人じゃ歩けない状態の人だった
本当は、もっと若いのかもしれない
病気をすると、どんなに美人でも人相が変わってしまう
痩せこけた分、老けてもしまうし
車椅子で登場した彼女は抱きかかえられてベットに横になった
とても話しかけられる状態ではなかった
その日は付き添いで来てた人と挨拶を交わした程度で終わった
彼女のベットの回りのカーテンは閉じられ、かすかな寝息だけが聞こえる。
しかし蛍光灯の明かりは点けたまま
ずっと点けっ放しにしてるのかな?
転院してきたばかりで疲れてるのか、蛍光灯の明かりに映る彼女のシルエットは全く動かない
寝付けずに居た私は動かないシルエットを見つめてたが、その内に彼女の寝息につられて寝入った
次の日、看護士さん達の手厚い介護の洗顔してくれる、背中を拭いてくれる、朝食は持ってきてくれるの据え膳上げ膳の1日の始まり、なにせ松葉杖でも使って歩きたいのだが
先生の2週間は絶対に足に負担をかけちゃ駄目命令があるので、尿管は入ってるし、足は吊るされ固定され、ベットからは一歩も出れない歯がゆい自分
2度とスキーなんかするものかと固く自分に誓ってた
それにしても、となりの彼女のカーテンは締めっきり
話しかけるタイミングを狙っていたが、転院してきて4日目、最初に見た時以来、彼女の顔は見ていない
夜の蛍光灯に映るシルエットだけが彼女が居ると分かる程度
仕方ない、自分の都合で彼女に無理させる訳にもいかない
明日は、いよいよレントゲン撮って、オーケーが出たら尿管も外れ松葉杖の許可が出る
そんな楽しみを少しの励みにして、その日も眠りに付いた
とうとう松葉杖の許可の出る日だ、両親の見舞いに笑顔の私
無事に松葉杖の許可も降り、少しは自由に行動する範囲も増え残り2週間の暇を乗り切れば退院だ
隣のベットの彼女は相変わらずカーテンを閉め切ったまま
たまに付き添いの人が様子を見にくる程度
話し声さえしない
個人病院だが、病状の重い人も受け入れるのだろう、きっと彼女は総合病院の治療は終わり、個人病院の治療でも良いかも?状態で来たに違いない・・・
またまた勝手な想像と思い込みで、なるべく彼女が安静に出来るように病室内では静かにしていたが、松葉杖で移動出来る今となっては、病室内に閉じこもっていることなど無理
さっそく待合室など院内を松葉杖の歩行訓練とばかりに、ぎこちない足裁きでウロウロ・・・・
個人病院の本を読み漁り、退院まで後2日となった晩の事だ
相変わらず夜になると蛍光灯を点けにくる看護士
朝まで点ける理由が聞きたかったが全く動かないシルエットが重症を物語っていた
なるべく気にしないように反対方向に備え付けのテレビをイヤホンをして静かに見ていたら、
それまで会話も無かった隣のベットの彼女が、急にカーテン越しに
『テレビ・・・何か面白いのやってますか?』
カーテンに映るシルエットは彼女が起き上がり座っている姿だ
あまりに急だったのでビックリした私だったが
『あっ、今の時間はニュース見てました、何も面白いのやってないです』
『そうですかスミマセン急に、いつもは薬が強くて眠ってばかりで話も出来なくて』
そうだったのか~薬のせいで?ひたすら眠っていたのか
彼女が転院してきてから始めての会話だった
しかし、カーテンに映るシルエットには沢山の点滴の影もぶら下がっているのが分かる
いったい何の病気なのだろう?
心拍数の装置やら、テレビで見るような装置の音だって聞こえる
『今日は何曜日ですか?』
『水曜日ですよ』
眠ってばっかりの彼女だ・・・曜日の感覚も無くなるのは当然だ
『まだ水曜日なんですか~』
まだって・・・彼女が転院してきてから10日以上も経っているのに
しかし、それも仕方ない
『体調は大丈夫なんですか?』
『お陰さまで今日は何だかスッキリしてて調子が良いみたい・・・うふふふっ転院してきた日に日曜日には退院出来るって言ってたのに、まだ水曜日ですもんね、あと4日か~』
あれっ?何か勘違いしてる
でも、ここは黙ってた方がいいかも
『日曜日に退院ですか、良かったですね~私は明後日、退院しちゃうから、この病室に1人で2日は我慢しなくっちゃならないかもよ~』
『大丈夫ですよ~慣れてますから~』
そっかぁ~慣れっこだったのか
『アッ消灯時間が、とっくに過ぎてたのね、スミマセン急に話しかけたりして』
『いいえ、いいんですよ、この続きは明日ですね、お休みなさい』
『おやすみなさい』
そう言った彼女のシルエットはカーテンの向こうで横になった
チラッと時計を見た
時間は夜の9時半
彼女が横になった直後に看護士さんがドタバタ走って病室に入ってきた
『山村さん、聞こえますか?』
『先生呼んで』
なんだ?
『ご家族に連絡してっ』
なんなんだ?
ドタバタドタバタの看護士さんたち!!
なんだっての?
たった今、会話して、おやすみなさい明日ねって挨拶したばっかりよ!!
なんなのよ~
『そっちいい?』
『いいよ』
ガラガラガラ・・・・・
ベットを移動して行った
カーテンは閉じたままだが
何があったのか聞けるような雰囲気ではなかった
ベットと共に移動してしまった彼女
つかの間の会話
もんもんとした気持ちの中で寝付けない
彼女はどうしたのだろう?
妙に静かな院内
やがてドアの開け閉めが頻繁になった
再び静寂が訪れた。
明け方、やっとウトウトできたが殆ど眠っていない
気になってしょうがないのだ
やがて朝食を看護士さんが運んできてくれた
『隣の人、どうしたんですか?』
聞いてみた・・・
『退院されましたよ』
淡々と答える看護士さん
朝食を置いたついでにカーテンを開けた
空っぽのベットがあった
自分の退院は明日
退院の前の日に・・・・また一人ぼっちか
朝食を済ませた頃に掃除のオバサンが来て掃除しながら
『昨日は大変だったでしょ~』
『隣に居た人の事?』
『そうそう、急だったものね~』
『やっぱり亡くなったの?』
『ありゃ~隣に居て分からなかったの?』
『だって、寝る前に話しをしたんだよ』
『そんな訳ないよ看護士さんが駆けつけた時は亡くなってたんだよ』
『えっ~おやすみって言ったカーテン越し彼女のシルエットは動いていたよ、その直後にバタバタしてたけど』
『私が聞いた話しでは意識が戻る事無く亡くなったって看護士さん達が言ってたし、心電図は9時18分で止まってたってよ』
『うっ・・・・9時18分?やっだ~その頃はテレビで何か面白いのやってる?とかって話ししてた時間だよ・・今日は何曜日?とかって聞いたりして、急に話しかけたりしてスミマセンって言ってカーテン越しに彼女の姿も動いていたし時計見たら9時半だったよ』自分で口走っているのがチンプンカンプンだってのは分かっているが・・・
説明がつかないのだ
『その時計、進んでるんじゃないの?って言うよりも、あんた夢でも見たんじゃないの?』
そんな
話しをしても無駄だと思ったが病名を聞きたかった
『何の病気だったの?』
『それがさ~悪性脳腫瘍だとかの末期って聞いたよ』
『意識がずっと無かったの?』
『ここに転院してきた時は少しはあったかもね~』
『昨日の9時過ぎに話しをしたんだけどなぁ~』
『まだ言ってんの?今月一杯は大丈夫だって思ってたらしいけど、病気が病気だもんね~』
意識がなかったのが、最後の時に急に少しだけ元気になって話しをしたんだって思いたい
亡くなった時間が問題だ9時18分か・・・・・お休みなさい~してから時計を見た時は携帯時間で9時30分だ。
心停止の時間が9時18分
私は本当に夢を見てたのだろうか?
夢じゃなきゃ、死者と会話した事になる
退院するのは明日だ
隣の空のベットは今晩は空っぽ
何となく病室を変えて欲しかった
夜中に浅い眠りで目が覚めた
寝る前はカーテンは開いていたのに
閉じている
ほんの少しだが、カーテンが揺れて寝息が聞こえてきた
蛍光灯の明かりも点いている
恐る恐るチラッとだけ隣のベットを見てみた
蛍光灯に彼女の座ったシルエットが浮かびあがっていた
気のせいだ・・・・絶対に気のせいだ
しばらくしたら、カーテンの中から声が
『昨日はごめんなさいね、自分の身体がとっても軽くなったものだから、つい声かけちゃって・・・』
『いいえ・・・・』声がかすれて、しっかり出ない
『また遊びにきていいかな?』
その瞬間・・・・気を失った
次の日の午前中に退院したが
隣のベットに、あれほど恐怖を感じた事はない
たまに彼女は遊びに行ってるのだろうか?
絶対に俺ん所に来て欲しくない幽霊だよ
*:・'゜☆。.:*:・'゜★゜'・:*:.。.:*:・'゜:*
私の本当にあった怖い体験談です
こんな経験はしたくないよね
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