前編
山寺では、お正月の行事や、お勉めも終わって、松も明けたころのことです。
夕暮れどきになって、和尚さんに、町までのお使いを頼まれました、
「せっかく行くのだから、ついでに般若湯を買ってきてくれ」
小坊主は、どちらがついでかは、分かっているので、和尚の顔を横目で見て、ニヤリと笑いました、和尚はすまし顔で「頼んだぞ”」
背中にしょい篭、帰りのための提灯を渡され、町までくだって行きました、
用事を済まして、帰るころには、すっかり陽は落ちていました。
重いとっくりをさげて、細い道を急ぎます、寺まで、もう少しの所での事です、ウーン ウーンと、苦しそうな、うめき声と子供の泣き声が聞こえてきます、提灯の火も消え、月明かりだけの中、辺りを見渡すと、大きなクスノキの下からでした、
若い女が、木の根株にもたれかかり、横で小さな子が泣いています、小坊主が近づいて声をかけると、女は絞り出すように「赤ちゃんが・・・」
小坊主は「産気”づいている」、とっさにきづきます、山あいの村では医者などおらず、昔から、寺がそんな役割も担っていたからです。
親子をそのままにして、急いで寺に帰り、荷車をひき、和尚とともに迎えに行きました。
荷車が山門をくぐるとき、「エッ””」と、和尚の大声””
常夜灯の明かりで、二人が見たものは・・・
・・・角が”・・・鬼の母子だったのです。
つづく