無償の愛が無性に恋しい

沖雅也というビッグすぎる初恋の相手を持ってしまった私は、
普通の恋愛なら考えられる告白やラブレター、
デートだって夢のまた夢としてあきらめなくてはならなかった。
結ばれることを期待する方が無理となれば、
無償の愛という形を作り上げるしかない。
別に意識してそうしたわけではないが、
いつしか私は沖雅也の幸せが
自分の幸せだと思うようになっていた。

「忘れじの面影」という古い映画がある。
ジョーン・フォンテーンとルイ・ジュールダンの白黒映画で、
原作はツヴァイクの「見知らぬ女性からの手紙」。
ある日覚えのない女性から手紙をもらったピアニストの男性は、
それが幼い頃から自分に憧れ、
一夜の関係を持った女性からだと知る。
女性は男との間に出来た息子を一人で育て上げたが、
その最愛の息子を病で失い、
自分もまたその病で絶命する寸前に
男に手紙を送るというストーリーなのだが、
その女性のように無償の愛を貫きたいと会社の後輩に話すと
「じゃあ、どうして最後に手紙を出したんですか？
　そのまま黙っていた方が無償の愛なんじゃないですか？」

う～ん、確かにそう言われれば一言もない。
相手に知ってもらいたいと願った時点で、
有償を願うことになってしまうわけか。