新・日常も沖雅也よ永遠に

お引越ししました。

「さぼてんとマシュマロ」その13

2013-08-03 00:13:00 | 沖雅也
先日の建長寺のイベントの話の続き。

水沢有美さんのファンの方のお計らいで、私たちは打ち上げに参加させていただくことが出来た。
その時うかがった貴重なお話は、もちろん沖雅也さんと共演された「さぼてんとマシュマロ」についてだが、その前に以前、水沢さんが元サイト「沖雅也よ 永遠に」に寄せて下さった沖ファンへの温かいメッセージをここに残しておく。

まずは私のメッセージへの水沢さんからのお返事。
「私もサボテンとマシュマロの出演は…鎌田敏夫先生のちょっと大人の世界のご本になっていて(このとき私も、まだ20才そこそこだったと思うので)…私の中でも大好きで思い出深い作品です。
そんなにご存知だったなんて…びっくりです。
沖雅也さんとは、撮影中よくお昼をご一緒しました。とても明るくて…まさかあんな事になるなんて…今生きていらしたら、渋い役もいい味を出されたでしょうね…本当に残念です…」

そして、あらためて掲示板にも直接メッセージをいただいた。
沖雅也ファンにとって、共演された方からの言葉が、どれだけ嬉しかったことか。

「 こんばんは!はじめまして水沢有美です。
みなさまの暖かいお声を拝見し、今も尚、沖さんがどれほどみなさまから愛されていらっしゃるかが伝わって… 胸が熱くなりました。
もしFaceBookをされている方がいらっしゃいましたら、水沢有美を検索頂くと、丁度沖雅也さんとご一緒のシーン写真を上げてくださった方がいらしたので、ご覧頂けるかと思います…。
素晴らしい才能と輝き、そして憂いを持った、魅力的な沖雅也さん…
改めましてご冥福をお祈り申し上げます。
そして…こうして、沖さんを愛しつづけてくださるみなさまのお幸せを、きっと誰より祈ってくださっていることでしょう。
まわりの方へ、いつもお優しいお気遣いを、さりげなくされる方でした。
この場をお借りして、私からも、こちらのサイトへ来られる素敵なみなさまのご健康とお幸せを、心からお祈り申し上げます。 水沢有美」

これだけでも水沢有美さんのお人柄が伝わる。
テレビへ出始めたばかりの沖さんは、同年代ながらテレビの世界では先輩だった水沢さんと、どんな話をされたのだろう。

さて、「さぼてんとマシュマロ」。
水沢さんは沖さん演じる伊藤仁の出版社のライバル誌「プレイガール」の敏腕記者として三回ゲスト出演されている。
一度目は人気プロボウラーへのインタビュー記事をめぐる話。
二度目のご出演時は、仁がやけ酒を飲んでいる時に付き合って一緒に飲んでいるので、いつの間にか少し親しくなったらしい。
酔いつぶれた仁を送って行くという水沢さんを心配する同僚に、宣言するように「大丈夫!ちゃんと送って行くから」と笑顔を見せる彼女は、実はちょっと仁を好きなのかも知れないという含みを持たせる。
そして、1972年のクリスマス当日に放送された第13話が、メッセージの中にある『鎌田敏夫先生のちょっと大人の世界のご本』であり、鎌田先生が自ら「傑作選の中にある」とおっしゃっていた名作だ。
実は水沢さんは、当時鎌田先生の脚本だとは知らずに演じていたらしいが、鎌田先生から「僕の傑作選の中に有美ちゃんが出てるんだよ」と教えられたとのこと。
鎌田先生の傑作選に「さぼてんとマシュマロ」が入っているなんて感激だ。


クリスマスの夜、沖さん演じるカメラマンの伊藤仁が、偶然出会った男の子と母親探しをする物語で、水沢さん演じる女性記者やブティックの店員二人、さらにタクシーの運転手、大学生、お米屋さん、おでん屋さん、店員の恋人のよっちゃんまで登場するてんやわんやな母親探しになるのだが、よくこれが30分枠のドラマに入りきったと思うほどてんこ盛りの内容なのだ。

私が一番好きなのは、母親探しが空振りに終わって一足先にアパートに戻った仁と男の子の会話。
自分の母親は自分を捨てたと言う男の子に、仁が
「でも、ボクはママに会いたいんだろ?それがママってもんさ」と微笑むシーン。
沖さんも両親が家庭を捨て、たった一人アパートに残されて生活していた経験があることを知っていると、このセリフをどんな気持ちで言っていたのかと、ますます胸に迫る。

次に、これまた空振りで戻った水沢さんとインスタントラーメンをすするシーンもいい。
クリスマスにインスタントラーメン。これが効いている。
せっかくのクリスマスに申し訳ないと仁が言うと
「いいのよ。別に恋人もいなことだし。あなたは恋人いないの?」と、少し寂しげな表情の水沢さんは、後ろ姿ながらちょっとだけ挑発的。
そこへちょうどドアをノックする音があるのがニクい。19時台のドラマの限界か。
はっきり返事をしない仁くんも、今観るとなかなかに罪作りな男だ。

「一年に一度くらいいいことをしたっていいじゃない」と、協力を申し出たブティックの店員の一人も空振りで戻り、もうひとりの店員はあまり気乗りしていなかったし、今日は恋人とパーティに行く予定だったから、途中で逃げちゃったかも知れないという。
「恋人がいないのとお母さんがいないのが集まって、ラーメンでクリスマス・パーティか」
と笑う水沢さんだが、そこへもうひとりの店員が戻って来る。
「入ってよ」と外に呼びかける彼女に
「ええっ?!」と、立ち上がる4人。
登場したのは、事情を話したら一緒に回ってくれたタクシーの運転手、道を訊いたら一緒に探してくれた大学生、お米屋さん、おでん屋さん、そして彼女の恋人のよっちゃんまで入って来る。
ラーメンが足りないとあせる水沢さんと、恋人に会いに行ってたのかと怒り出す女性店員。
「だって今日はクリスマスだもん」と、ケロっとした笑顔の彼女だが、そこから物語は急展開する。
やる気がないかと思われた彼女が、ちゃんと母親を連れて来たのだった。
感動の再会に立ちすくす善意の者たち。

仁がいきなり「行ってくるよ」と宣言する。
「ケーキ買って来るんだ。ここに集まってくれた人みんなでクリスマス・パーティだ!」

だいたいドラマというものは子供と動物には勝てないと言われていて、この話も子供が出て来てお涙ちょうだいになるのかと思いきや、大人の善意で一気に持ってくる脚本が、鎌田先生の真骨頂だ。
30分という短い枠の中で、ゲストで出て来た人たち一人一人の動きが生き生きと描かれている。
さらに、この回はピロローグとエピローグがあり、ピロローグでは吉沢京子さん演じる真理子が、亡くなったレーサーを偲んでいる恋人を容赦なくカメラに収めることに腹を立てる。
人の不幸を記事にすることに対する嫌悪感。
そしてエピローグでは、仁が書いたこの母親探しの記事が来週号のトップを飾ることになり、キャップが「人の不幸ばかりを売り物にしないで、たまには幸せも売り物にしましょうって頑張ったんだ」と胸を張ったり、仁が自分にもクリスマスプレゼントをくれと言って真理子がそっと目をつぶるシーンもあったり(もちろん19時台のドラマなので未遂に終わる)する。

これは仁と真理子で母親探しをしたら平凡な物語になってしまったかも知れないので、たまたまそこで出会った人々が力を合わせるところがいいんだなあと思っていたら、水沢さん曰く、その時たまたま主演の三人(沖さん、吉沢京子さん、そして片岡五郎さん)のスケジュールが合わず、急遽水沢さんの登場となったらしい。
そう考ると、吉沢京子さんの出演シーンが少ないことも納得だ。

思えば沖さん19歳、水沢さん20歳。
沖さんの飲酒や喫煙シーンは今ならダメダメだ。
水沢さん曰く、自分は仁くんに対する気持ちを抑えて二人を見守る背伸びした女性の役だったというのだが、なるほど今観ると気丈な態度でありながら、少しだけ思いを伝えたそうな仕草をしている。
本放送当時は子供だった私には、とてもそこまで見通すことは出来なかったが、このクリスマスの物語は長く胸に残っており、クリスマスの過ごし方についても影響を受けた…つもりだった。

中学に入った時、6年後の自分へ手紙を書いてタイムカプセルに入れるという行事が学校であったのだが、高校卒業時にその自分が書いた手紙を見て、唖然とした。
「彼とクリスマスを過ごせるようになりましたか」と書いてあり、彼とはもちろん沖雅也さんのことである。
全然影響を受けていなかったではないか。

それはともかく、人の不幸ばかりを売り物にしないで、たまには幸せを売り物にしましょうというキャップのセリフは爽やかだ。
今の出版業界も全然影響を受けていないようで。