映画Bobby(ボビー)。Robert Kennedy(ロバート・ケネディ)が銃撃された1968年6月5日。その日に事件現場となったホテルに居合わせた人たちの群像劇。
こういう、いわゆる「グランドホテル」スタイルの映画は初めてでした。あの「有頂天~」も未見ですし。この映画の中でも、アンソニー・ホプキンスの台詞の中で「グランドホテル」という言葉が出てきて面白かったです。
先日のDreamgirlsといい、本当に今60年代が熱いですね。ロバート・ケネディに自分の夢を重ね合わせながら時代を生きた人たち。しかし、その夢は卑劣な凶弾によって、一瞬のうちに奪われてしまった。
惨劇の現場となったロスのアンバサダー・ホテル。
支配人のポールはリベラルな考えの持ち主で、人種差別主義者のキッチン・マネージャーティモンズに解雇を言い渡します。カリフォルニアや東海岸で、社会的な地位もある成功者であり、なおかつ「筋金入り(?)」のリベラルでもある…というのは、比較的類型的な人物像か。(日本の感覚では、ちょっと想像が難しいですが)彼の妻はホテル専属の美容師、ミリアム。(この役がシャロン・ストーンだったとは気づきませんでしたよ。60年代の大きな髪型とボリュームたっぷりの付けまつげのせいです!)世間では「身分違い」と見られることもあるのでしょうか…彼女はちょっとした客の一言が心に引っかかったりするのでした。ポールは高い理想とは裏腹に、人間的な弱さも持ち合わせていて、それが夫婦の危機を招きます。
リンジー・ローハン演じるダイアンは、この時代の洗礼を受けている女の子。おそらく、退役軍人で保守的な父に対する反抗心から、軍人であるウィリアムをベトナム行きから救う為に「偽装結婚」をしようとします。人間としての「情」よりも、自分なりの「大義」が化け物のように膨らんでしまって、どうしようもならなくなる…あの時代の若者ならではの、ちょっと危なっかしい心理状態が、淡々とではありますが、描かれていきます。最終的には、二人の間に愛情があることに気づき、深い結びつきを持つようになります。
この二人を見ていると、この時代の映画「ジョンとメリー」を思い出してしまいました。(シチュエーションは違いますが)それでも、「心の愛」って何?それって本当に存在するの?…と、みんなが手探りをしていた時代の空気が読めます。
インパク度抜群(!)のアンソニー・ホプキンスとハリー・ベラフォンテ演じる元ホテル従業員。人種を超えた揺るぎない友情で結ばれている二人の姿が、地味ではありますが、感動的でした。
ホテルには、当時のチェコスロバキアの女性ジャーナリストがロバート・ケネディへの取材を求めて、ロビーに陣取っていました。この頃のチェコスロバキアは独自の社会主義体制を確立しつつありました。ところが、この数ヵ月後、ソ連軍の激しい弾圧にあいます。ケネディーの選挙スタッフは、東側の人間との接触は候補者のイメージダウンにつながると(冷戦時代ですから、これは当然)彼女の取材を断り続けますが、一生懸命な彼女に次第に心を動かされて、記者室に入ることを認めます。
さて、キッチンではメキシコ系のホセとミゲルが人種差別主義者のマネージャーから無理なシフトを押し付けられてやりきれない思いでいました。副料理長で黒人のエドワードの待遇は、彼らほど酷くはありませんでした。キング牧師暗殺後の不穏な動きを恐れていた人たちは、黒人への接し方にはかなり神経質になっていました。片方を正せば、片方の綻びが大きくなる。差別の連鎖を生んでいるだけ…キッチンには独特の閉塞感が漂っていました。
明らかにキング牧師の「非暴力」の考えに影響されたと思われるエドワードはメキシコ系のふたりに「争おうとしてはいけない」と諭します。
キング牧師は、暴力に対して暴力でもって、憎悪に対して憎悪でもって相対することは救いのない暴力と憎悪の連鎖を生むだけ、「憎悪の力」には「愛の力」でもって、「物質的な力」には「精神的な力」でもって応じなければならない、暴力を振るう白人に対しては、暴力ではなく、道徳的な優位に立つべきなのだと主張しました。
ホセはMLBの試合を楽しみにして、チケットまで準備していたのですが、人種差別主義者のマネージャーから無理なシフトを強いられ、観戦ができなくなってしまいます。やりきれない思いのホセ…しかし、今、一時の激情に駆られてホテルを飛び出せば、確実に明日から路頭に迷うであろう現実の厳しさも分かっています。だから、今は従うしかないと…
この、MLB観戦にまつわるプロットは、結局は、誰も相手を憎むことがない、非常に爽やかで後味の良いものになっています。ほんの些細な日常の風景ではありますが、「非暴力」に貫かれた理想世界の縮図を見るようで、感動的でした。
ところが、その数時間後、多くに人を夢を一身に背負っていたロバート・ケネディー自身が、卑劣な凶弾に倒れてしまいました。
最後のシーン、なんか、最近の映画の中では一番泣けました。
理由はうまく言い表せないんですが…
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