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それでも、人はモノを求める。
昨年暮れにNYを訪れたのは、交通ストに突入するかどうか、緊迫した労使交渉の真っ只中でした。結局は交通ストライキに突入する前に帰国してしまったのですが、ホテルで報道番組を見ながら、この小説の中でCarrieの元愛人で、落ちぶれ果てたHurstwoodがBrooklynの電車のスト破りに雇われるシーンを思い出しました。あの場面も冬だったと思う。Dreiserはmuckraker(醜聞暴露者)のような筆致で描いています。
Sister Carrieは1900年の作品。アメリカにおける「都市小説」の先駆けとなった小説であると言われています。大都会のジャングルで、環境の力に左右されながら成功したり没落したりする人間の姿がさまざまなスタイルで描かれている。(この文体の統一のなさがDreiserの評価を困難にしているところでもあります。)
Theodore Dreiserがこの小説を発表したのは彼が29歳のときです。
「作家」という人たちは、私のような凡人にはどう逆立ちしても理解できない、まことにミステリアスな存在だと言わざるを得ないのですが、若干29歳で、人間が生きることのすべてを抉り出したような、こんな作品が書けるような人って…それまでにどのような人生を送ってきていたのか、どれほど緻密な観察眼をもって人間や社会を見据えていたのか…「想像を絶する」って、こういうことを言うんでしょうね。また、「そんな人生、疲れない!?」なんて単純に思ったりもするわけですよ。
ところが、もっと信じられないことには、それなのにDreiserという人は「ちゃんと天寿を全うしている」!…彼の作品に登場する人物と同様、生まれも貧しく、絶望や挫折の多い人生だったにもかかわらず。私自身も年を重ねるごとに、こういうのって本当に驚嘆に値すると思う。尊敬しますよ、心から…
この小説の主人公、Carrieも人間として…というよりも、ひとつの生命体としての強さを持った女性。貧しい田舎からChicagoに出てきた彼女は店頭に並ぶ贅沢な服やアクセサリーを目の当たりにして、「自分がいかに貧しいか」「貧しいということははどれほど惨めなものか」実感するのです。
私はこのあたりの描写が好きなのですよ。ショーウィンドウに並ぶ煌びやかなぜいたく品を見つめるCarrie。とにかく、「モノを欲しがる」場面にこんなに心を動かされたことはありませんでした。また、こういう場面の描写が人の心を動かしうるものだと想像したことさえありませんでした。
でも、何故なのだろう?
そのあたりを自分なりに分析して、少しずつ書いていきたいと思います。
Carrieが貧しい田舎にいた時は、自分が貧しいのだという自覚さえもなかったのです。でも、「自覚」した彼女は彼女に備わっている生来の魅力や幸運も味方につけて、華やかな世界に向って歩み始めるのです。
このblogのタイトルは
Sister Carrie, Chapter XLIV
- And This Is Not Elf Land - What Gold Will Not Buyからとりました。
to be continued
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