文芸春秋9月特別号で読みました。
こういうのは、選者評と御本人のインタビューと一緒に読むと面白いのです。
で、この作品ですが…
良くも悪くも「よく書けている」、
好き嫌いは別として「よく書けている」
これでもか!と言うが如くに「よく書けている」
とにかく、Very well-written!という印象。
で…全体としてみたらどうか?…となると、私などとやかく言えることでもありません。ただ、の作品に否定的な選者は「ペダンティック(pedantic 衒学的)」という言葉を用いていました。村上龍氏は「この語自体、今どきはジョークとしか思えない」と述べています。そう、ジョークと思えば、それなりに笑えるかも…なんか私風に言えば「サインフェルドなobservational comic」みたいな(笑)
主人公の商社マンの「彼」なのですが、途中で「ん~『彼』って誰や?」と思ってしまう。読んでいるうちに「一人称」で語られる小説だとついつい思い込んで…
そして、「彼」が出てくる度に…「あ、そうだった」となるわけです。
その「彼」の結婚から娘が独り立ちするまでの「外面」と「内面」を、時間軸を自在に移動させながら、線と面を用いた巧みな空間を構築しながら書き込んであります。「彼」の意思というのはとても希薄にも見えます。登場人物でアイデンティティーが明確に打ち出しているのは、アメリカの製薬会社の社長ぐらいに思えた。
そして、時々時代背景の説明のジャーナリズムのような調子の文が出てきたり、時としてエッセイのような文になったり、心象が詩的な言葉で表されたり…モザイクのよう。でも、こういう、一見「ばらばら」な感じって、私は好きですね。
面白かったのは、「大きな観覧車」に乗ったのをきっかけに妻と心が通い合わなくなり、「螺旋階段を下りる」ように、再び家庭に心が戻るところの「円」と「渦巻き」の対比。
時間×心÷connection=円または渦巻き???
なんか…わけのわからない公式が頭に浮かんだ。
さて、小説を味わうときは、書いた人の視座というのも意識せざるを得ないと思うのですが、(実際、昔はそればかりが気になった)でも、最近は「ここんところは、あんまり考えないでおこう」と思ってしまう私がおります。年齢とともに、そのあたりの許容範囲みたいなものが、だんだん狭まってくるのが分かるんでね…そこにばかり拘っていると、大事なものがだんだん見えなくなって、なんか人生を損するような気がするんですよ(笑)
というわけで、
この作品も、素人のおばちゃんが読んでも、「よく書けている」のに感心した…ってことにしときます!
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