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And This Is Not Elf Land

Orange Street

Paul Auster, GHOSTS
ポール・オースター『幽霊たち』


Paul Austerの有名なThe New York Trilogy(ニューヨーク三部作)の二番目の話。
とにかく。Austerの英文が美しい。
惚れ惚れするほど簡潔で心地よい文。
英語って美しい…と脱力。

柴田元幸氏による翻訳も出ていますが、
ともに原文でも読まれることをお薦めします。


The New York Trilogyは大都会の摩訶不思議な三つの物語。
「見つめる」「書く」という行為を媒介にした
「自分探し」の気の遠くなるような三つのjourney。

GHOSTSの舞台は1947年のNew York。




BlueはWhiteという男から、Brooklyn のOrange Streetにあるアパートで、向かいのアパートにいるBlackの行動を観察し、reportを提出するように…との仕事依頼を受ける。Blueは、この一風変わった仕事を引き受ける。

こうして物語は始まる。

思えば不思議な仕事。
Blueのそれまでの人生では、じっとしている機会など殆どなく、事物がそこのある…ということ以上のものを求めたりはしなかった。立ち止まる必要も、しげしげとモノを見る必要もなかった。

Blackを見張り続ける日々。
speculateは「見張る」「傍観する」という意味のラテン語speclatusから来ている。speculumという「鏡」を表す英語ともつながりがある。

定期的にreportを書く。Blueはこのような文章は得意である。言葉が事物と合致するように描写する。言葉は透明で、Blueと世界の間にあるgreat windowsである。


淡々とした物語の中で、いくつもの小さいなエピソードが様々な形で組み込まれている。
Brooklyn Bridge建設に関わった親子の話。西部劇の話。検視官の話。黒人初の大リーガー、Jackie Robinsonや詩人、ホイットマンの話…

フランスのアルプスで雪崩に巻き込まれて20年間行方不明になっていた登山家のエピソードは映画「スモーク」の中でも、作家ポール(オースターをモデルにしている)の話として登場するので、映画ファンにはお馴染みかも。

そんな生活が長くなると、Blueは、自分とBlackが完全に一体化しているようにみえてくる。彼の行動を予測する時は自分を覗いてみればいい。それが見事に的中する時の快感。隔たりを感じるときの恐怖感。両極を行ったりきたりする。

自分がBlackについて身近に感じれば感じるほど、彼について考えることがなくなる。職務にのめりこむほど自由になる。


Blackはソローのウォールデンを読んでいる。
Blueも手にするが、読書らしい読書をしたことのない彼には作品世界に近づく術さえわからない。

ひとつ分かったのは、本はそれが書かれた時と同じ慎重さと冷静さをもって読まねばならないということ。

自分がBlackを観察しているように、自分も誰かに観察されているのではないかの思いに囚われ始める。

Blueには「ウォールデン」の一節が思い出される。

我々は我々の真の場所にはいない。
人間としての本来の弱さゆえ、
我々は檻を夢想し、
自身を閉じ込める。
したがって我々は同時にふたつの檻にいるのであり、
抜け出すのは困難を極める。

     ※     ※     ※

さて、作品の舞台、BrooklynのOrange Streetは実在の住所です。

静かな住宅地Brooklyn Heightsにある100メートルぐらい(たぶん)の通りです。

今でもこのようなアパート(築何年かは不明)が立ち並ぶ静かな場所。昼間も人通りは殆どありません。

こんな「窓」からBlueは見ていたのか…

少し行けばマンハッタンが望める。


GHOSTSにも書かれているとおり、通りの端には教会があります。

教会の中庭には、ヘンリー・ウォード・ビーチャーのブロンズ像があり、二人の奴隷が彼の足にしがみついている。助けを請うかのように、どうか私達を自由にしてくださいと嘆願しているかのように。後ろの壁にはリンカーンのレリーフがある。

この中庭を眺めるたびに
Blueは人間の尊厳をめぐる思いに満たされるのでした。

Orange Streetを歩きながら、
Blueのjourneyに思いをはせながら
迷わずにマンハッタンに帰らなきゃ…と緊張せずにはいられない方向音痴の私…

いつまでたっても「方向音痴」はなおらない…

コメント一覧

マーカム
GHOSTSの舞台は1947年のNew York。
っておもいっきりこの日記書いてあるじゃないですか?

1947年ておかしいでしょ?
1950年ぐらいが普通でしょ。

オースターを読むと
悲しくてたまらなくなってしまって
しまいますが
その先が
結構ここちいいです。


オースターは、丁寧に読まないと
読んでないのと同じこと
になりかねない
master of my domain
パークスロープ
昨年、オースターも住んでいるブルックリンのパークスロープに1週間余り滞在したのですが、あの独特のたたずまいを歩いていると、なぜか悲しくてたまらなくなってしまって、あれ以来、オースターはあまり読んでいないのですが、マーカムさまの来訪を機会に再び手に取ってみたいと思います。
マーカム
たった一文が
小説全体を
変える力を持つ
オースター作品が
僕は大好きだ。
幽霊たちは、
無駄な文が少ないね。
master of my domain
お~っと!
omg!
それは知りませんでした。オースターの作品は、アイデンティティーの迷宮に投げ込まれているようでありながら、実は一つの方向にしっかり引き寄せられている感覚というか…それを象徴するような話ですね。ありがとうございました。
マーカム
ホワイトが来た日が
オースターの誕生日。
master of my domain
マーカムさま、コメントありがとうございます。

オースターの「影」を一番感じるのがホワイトのような…
マーカム
ホワイトの立場で読んでも面白いなー
『幽霊たち』は、

ホワイトの立場で読んでも面白いなー
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