And This Is Not Elf Land

JERSEY BOYS 日本版 2018 ② 演出&作品理解について

~2020年8月に書いています~

大阪で観た公演の感想はこちらにあります。

さて「演出」等について語らせていただくわけですが…これ、すごく長くなりそうなので、もう結論から言っちゃいますね。

イーストウッド監督による映画が公開されるまで「ジャージー・ボーイズ」(以下JB)は長い間、アメリカと日本ではその知名度に著しい差があるミュージカルでした。それでも、2014年1月のフランキー・ヴァリ&ザ・フォーシーズンズの初来日~2014年9月の映画版公開~2015年6月の北米ツアープロダクション来日の流れの中で、少しずつ盛り上がりを見せていたのも事実。主に洋楽関係者/洋楽ファンの人たちが盛り上げてくださいました。

ただ、私としては、緻密な資料を基に洋楽を研究していらっしゃる方々に、フィクションとしてのミュージカル作品を理解していただくことに次第に限界も感じ始めていました。このブログのどこかに書いていたと思うのですが…もう、これで演劇関係者の手に預けてしまえばどうだろう?と考えるに至った経緯があります。

…で、めでたく「演劇関係者の手に渡った」日本のJBは、2016年に初演を迎えました。

で、結論です

これがまた…さらなる絶望と落胆でした


日本では独自演出ということで、そこは違和感はありませんでした。オリジナルのJBは、あくまでも、あの時代のアメリカのポップカルチャーを肌で感じていた人向けの演出です。クリエイターたちも、まさか、ここまで世界的にヒットするとは思っていなかったでしょうし、最初から世界を狙った演出なんてしていません。

それでも、日本でも、あの時代のアメリカのポップカルチャーに親しみを持っている人にはしっくりくる演出だとは思いますが…ただ、それが日本のシアターゴーアーとは被らないでしょうしね。

そういうわけで、私は、オリジナルの演出は大好きだけど、日本でやる以上、日本独自の演出も仕方がない。日本で知られるようになるまで年月がかかったミュージカルだし…と思っていたんです。

…で、日本版の演出家の藤田俊太郎氏…注目度が高い期待の演出家の方でありますが、インタビューや動画で語られるのは「オリジナルをぶち壊す」から始まり、「ブロードウェイ版は観ていない」「圧勝してやると思った」  

むむ~そう来ますか…

いきなりそう来られては、私としては、たちまち「その喧嘩買います」スイッチがONになりますわな(!)…で、4年間、そのスイッチが入ったまま、その勢いてこの記事書いてますんでヨロシク

いや…演出って、才能に恵まれた人にしかできない、非常に難しく大変なことだと思うんですが、この藤田氏の一連の発言を聞いていると、私には非常に子どもっぽい意地を張っていらっしゃるように見えて仕方がないのですが。こんなもんなんでしょうか?

良質の舞台作品というのは人類の共有財産なんじゃないですか?言語や文化が異なる人たちにも作品の神髄を伝えるべく、その知恵を発揮されるのが演劇人なのでは?

でも…まぁ、言葉って独り歩きすることもありますしね…かならずしも、100%正確にその人を表すわけではないでしょうから。この件についてはこれくらいにしときます。


さて、この記事は2018年のプロダクションを見ての感想ですので、その話に戻ります。

まず、第一印象として「あれっ、オリジナルの演出に近づいているのでは?」と思いました。

特に「君の瞳に恋してる」のシーンで、フランキーとボブがちゃんと視線を交わすじゃありませんか!ここは非常に重要なシーンなのに、初演ではありませんでした。まぁ、とにかく…このシーンを入れたのは良かった!

…と思ったら、プログラムを読むと、脚本家のリック・エリスのコメントとして、このシーンの重要性が語られているんですね~。そうでしたか…脚本家が「このシーンは重要だ」と語り、それをプログラムに載せていながら、そのシーンをやらないわけにはいかなかった…?

なんか腰砕けですね…「ぶち壊す」だの「圧勝する」だのと仰るわりには…いっそのこと、エリス氏のこのコメントもガン無視されればよろしかったのに…

さて、とにかく日本版の藤田氏は「ブロードウェイ版は観ていない」前提で話が進んでいるので、まぁ、それはそれでいいとしても、戯曲ってものにはト書きってものがあるはずです。私が持っているJERSEY BOYSの大型本にはスクリプトも掲載されているのですが、そこにもしっかりとト書きがあります。ちょっと謎ですね。

まぁ、とにかく…演出家の藤田氏が戯曲をどう読まれたのか?疑問に思った部分をまとめて書きます。

★メアリの台詞の解釈違いでは?

名曲「シェリー」が生まれるのはフランキーとメアリの家のキッチンです。オリジナルでは、その前の登場シーンのメアリが、いかにも男性の気を引く派手な服装をしていたのとは打って変わって、このシーンでは、バミューダパンツにブラウス。すっかりママさんになって、かいがいしくフランキーの肩をもんでいます。そして、お行儀の悪いトミーやニックが娘たちに悪影響を与えないか心配しています。トミーには「娘がいるから悪い言葉遣いはやめてよ!」と言いながらも、自分もトミーに「As×h×le!」なんて言葉を投げつけてキッチンから出ていきます。アメリカでは、ここは笑いが起きる。妻として母として頑張っているメアリさん、でも、思わぬところで「お育ち」がでちゃう(笑)それでも、なんとか家庭を守っている姿が微笑ましい。

ここが日本版では壊れてしまってる。名曲を生み出すために四苦八苦しているフランキーたちのそばでメアリは既に酒浸り。「As×h×le!」にあたる言葉は酔っぱらいながら言うんですよね。これはちょっと…解釈違いだと思う。「As×h×le!」なんて言葉は酔っぱらってでもいない限り口にするわけない…って思い込みで演出しているんでしょうか。

オリジナルのメアリは、フランキーがツアーで忙しくなって家を空けがちになってから酒浸りなります。(映画版も同じですね)そして、しっかり不満の理由を語っていますよ。ところが、日本版では、結婚して突然酒浸り(??)…フランキーが元々問題のある女性と結婚したみたいな描かれ方。

それでもって、それだけ酒浸りになっているんなら(オリジナル版のように)もっとバタバタの格好をしているもんでは?かわいいドレスを着て、クルンクルンに髪をカールして酒浸りな女性って何?外でイケナイことしてるの?

とにかく、メアリ・デルガドさんは実在の方なんです。(ロレインは架空のキャラクターですが)オリジナルでは、すぐに酒浸りになったようには描写していません。実在のメアリさんにも失礼な話。


★「彼ら・彼女たち」とは誰なのか?

第1幕のクライマックス、「悲しき朝焼け」が歌われるシーン。ボブが当時の社会情勢にも言及し「僕たちを押し上げてくれたのは彼ら・彼女たちだった!」と高らかに宣言します。盛り上がりますよね。私も胸が熱くなるシーンです。

で、そこなんですがね…いつの間にか日本では、その「彼ら・彼女たち」というのが観客席にいる人たちのことであり、その台詞は観客に向けて発せられているような解釈になっている…

まぁ、人気作品では、その台詞だけが独り歩きする…なんてことは普通にあるので、いちいち目くじらを立てなくてもいいかとは思うんですよ。でも、ここはJBの非常に重要な部分なんでね。

60年代は激動の時代でした。公民権運動、ベトナム反戦運動…これらの運動の担い手となったのは中産階級(と言っていいのかな…)とにかく、安定した家庭環境の下で大学へ行かせてもらえた若者たちでした。そんな若者たちに支持されたのはボブ・ディラン、ビーチ・ボーイズなど。一方、気楽な恋の歌を歌ってるフォーシーズンズは彼らの興味の対象ではなかったのです。

むしろフォーシーズンズを支持したのは貧しい労働者たち。社会運動どころか、毎日の生活が大変だった人たち。ベトナム反戦どころか、生きるために軍隊に入るしかなくて、やがては戦地へ送られた人たち。「彼ら・彼女たち」とはそういう人たちのことを指している。

っていうか、ここはボブのこの台詞の中で明確に示されていますけどね。「花を持ってペンタゴンへ押しかけた人たち」と「戦地にいる恋人を思って酒場で泣いた女性」は対照をなすように語られているんですが…観客の中で、そのあたりが分からない人がいたとしても仕方がないですが、プロダクション側が理解してもらおうと努めている様子もない。それどころか観客を鼓舞する台詞に化けてしまった…

大変な「ぶち壊し」ですわ…でも「圧勝」はしていないと思いますが。

とにかく、実際、向こうのJBファンにはトランプ支持者が多い印象なんですよ。フランキー・ヴァリも、向こうのライブでは「軍人さんたちに感謝しよう。アメリカを強くしてくれているのは彼らだ」という力強いメッセージを口にします。そして、客席は大喝采。

まぁ、それらはあくまでもアメリカの話ではありますが。とにかく、日本版の演出では、舞台上で反戦デモの映像を見せたりとか…時代背景もしっかり見せようとしているようで、なんか、それが一部の劇評家には好評みたいですが…でも、そういう時代にあって、彼らがどういうポジションにいて、誰の代弁をしたのか?という視点が欠落してしまっている。

それなら、中途半端に当時の社会情勢を映す映像なんて必要ないのでは?そういう余計な映像を全部取っ払ってしまったらどうですか?反戦デモの中にフォーシーズンズのファンはいないと思いますよ。(創作上の建前では「いない」って意味です)

そういうのをすべて排したうえでならば、日本の客席でペンライトを振っている人たちが「彼ら・彼女たち」は自分たちのことだと受け止めて大喜びしていたとしても、「まぁ、ここは日本だし…これでいいんじゃない?」って納得できますけどね。


★バンドを前面に出さないのは

とにかく、日本版のJBには「バンド感」がない。バンドとしてパフォーマンスするのはほんの数回。

昨年オフBWで久しぶりに観ましたが、やはりバンドを前面に出すJBこそ、私が長年親しんだJBだな~と。

特に第2幕、次々と苦難に直面するフランキーですが、バックには仲間のバンドがいて、そこに戻って歌う。ああ、バンドが人生そのものなんだな~とじんわり来ました。

で、「演出」って何だろうな?…って思った。結局、「伝わってなんぼ」なんでしょうね。

(オリジナルの)JBは「ただのコンサート過にぎない」、幾度となく言われてきたことです。その都度「違う」と反論してはきましたが…。

ただ、この国の劇評家は、バンドを前面に出せば「ただのコンサート」と冷ややか、傘を持った通行人を登場させれば「おお、演劇的!」と絶賛するらしいですから、まぁ単純なもんだな…と心の中で思っていますよ。


★フランキーの最後の台詞

JBは典型的なアメリカンドリームの話です。トミーの「地元から抜け出すには」という台詞で始まり「それで抜け出せたのか?」とそれぞれに問いかけて終わるのです。

アメリカンドリームはあくまでも「ドリーム」です。本当に実体があるのかどうかも分からないものを追い求めた男たちの話ですよ。

ボブは「地元なんて何の愛着もない」と言ってのけます。彼ほどの才能にあふれていたら、自ずと道は開ける…「抜け出す」ためにもがく必要もないんですね。

トミーは…まぁ、地元から抜け出しても、新しい場所で同じことやってる。で「俺はヒーロー」いいじゃありませんか、トミーだから。どこへ行ってもニュージャージーのならず者。

ニックは、才能がありながらも、夢を実現させることができなかった人。無念な思いをにじませながらも、地元で生きる。

そしてフランキーなんですが、ボブほど自分の才能を信じてビジネスライクに突き進むことができないし、もちろん、彼はトミーでもない。ただ、置き去りにしたニックを忘れることができない。メアリやフランシーンにも可哀そうな思いをさせた末に掴んだ栄光である。自分は「何から抜け出そうとしていたのか?」これが、本当に、これまで犠牲を払ってきたものに報いる人生なのか?…自分に問いかけながら、ひたすら歌い続けているのですね。

だから、最後のシーンではフランキーだけが答えが出ていないんだと思うのです。「電池仕掛けのウサギ」は、自分の意志に関係なく、電池が切れるまでただただ太鼓をたたき続ける。これは苦行じゃないでしょうか…

日本の劇評家が言うには、フランキーの最後の台詞は「不屈の精神」とか「限りない音楽愛」を表しているそうですが…そうですか…それはJBじゃない。


★観客が5番目のピースだって?!

2018年のプロダクションから、何やら「観客参加」になってしまって、いよいよ謎に!藤田氏も「これは終わらない青春の物語」とか「別れと再会がテーマ」とか…いよいよ混迷を深めているとしか思えない。

そして「観客が5番目のピース」だって…

ちょっとよろしいですか…

↓↓



なわけないだろっ!!!

こんな完璧に作り上げられたストリーのどこに観客が参加する隙間があるというのか…よくわかりません。

このブログでも書いていますが、JBは典型的なアメリカンドラマで、アメリカの古典劇ともいえる「ガラスの動物園」に近い。その世界観といい、舞台効果といい、キャラクター設定においても。

でもまぁ…「ガラスの動物園」はあまり知られていないと思うので…もう、この際「オペラ座の怪人」に例えましょう。

フランキーはクリスティーヌです。トミーは怪人でフランキーを闇の世界に誘う。そこを救い出してくれるのが光のキャラ、ボブ。ボブはラウルです。大きな葛藤を乗り越えて、フランキーは闇の力を振り切り、光へ進みます。でも、闇の世界を完全に振り切ったわけではなく…闇の世界にひっそりと置かれていた猿のオルゴールが忘れられない。あの寂しそうな眼差し…何を訴えようとしていたのか?猿のオルゴールこそニックですね。

この完璧な4つのピース…これのどこに観客が入るんでしょうか?

謎です…




大変長い記事を書いてしまいました。ツイッターなどでちょこちょこと呟いていたことをまとめたような感じです。ツイッターは過去のつぶやきを読むことが難しく、一度まとめねば…と思っていたところでした。

最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございます。どこかでお会いいたしましょうね。たとえ、どんな形になっていても、やっぱり私が愛するジャージー・ボーイズを観に行きますから。
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