①JERSEY BOYS日本版 2018 大阪
②JERSEY BOYS日本版 2018 演出&作品理解について
最後は、昨年BSで放送されたドキュメンタリー「ミュージカルの聖地に挑む~演出家・藤田俊太郎のロンドン進出」について書きたいと思います。
ホンっと、「ごめんなさい」って感じです(?)
…いや、自分自身の「ジャージー・ボーイズ」愛については、これはこれとして…しっかし、なんで私がこんなに藤田氏に執着してるのか(汗)
これって、ホントは藤田氏のことが大好きなんじゃないか??とか、私も自分でよくわかんなくなってきています(!?)
でもまぁ…気持ち悪い話はこのくらいにして(笑)始めましょう。
ただ、この番組は、あくまでもテレビドキュメンタリーとして「編集」されたもので、実際に起きたことが100%忠実に見せられているわけではないことを念頭に置いて書きたいと思っています。
★日本版ジャージー・ボーイズ、絶賛一辺倒の中で
2016年に初演となった日本版ジャージー・ボーイズは観客の熱狂のうちに、批評家からも高い評価を受けて終わりました。もう「絶賛の嵐」という感じでしたね。
ただ、オリジナル版を愛してやまない私には、この「絶賛一辺倒」というのに違和感を覚えてしまいまして…
そんな中、放送されたのがこのドキュメンタリーでした。(この放送の中で藤田氏が手掛けておられたVIOLETは先日東京で上演されたそうで、観劇された人の評判も良く、状況が許せば観てみたかった。)
このドキュメンタリーは私的には大ヒットで…私が藤田氏演出のジャージー・ボーイズに抱いていた漠然とした「違和感」の正体が明らかになったような感じでしょうか。観ながら、思わず「これだ!」と何度も膝を叩きました。
この番組の初回の放送を録画しなかったのを激しく後悔していたところ、ほどなく再放送があり、それはバッチリ録画。それ以降、時間があるときにちょくちょく観ています。もしかしたら(藤田氏ご本人や関係者を除いて)日本で一番この放送をよく観ているのは私ではないかと思うくらい…(気持ち悪くてスイマセンね、ほんと)
★作品の背景
VIOLETもジャージー・ボーイズも激動の60年代の話です。(ジャージー・ボーイズの場合は、厳密に言うと、60年代を中心とした話ですが)60年代は激動の時代でした。特に、VIOLETは根強い人種差別があったアメリカ南部が舞台です。
藤田氏はロンドンの俳優たちを前に、「時代の空気感とかレイシズムを観点として入れることで、この作品をいま上演する意義があると思う」という発言をしたところ、フリック役の俳優から異論が来ます。「僕の役は黒人ではあっても軍人だったから、当時の社会でも、それほど露骨な差別は受けなかったはずだ」と。他の俳優たちも「人種差別のありようは場所によって違っていた」と様々な意見が出されます。藤田氏が口をはさむ余地もないほど、議論が白熱してきます。
そして、フリック役の俳優が苦笑しながら「欧米が他国にどう見られているのかよく知らないので、藤田さんの見方は皆の興味をひきますね」というコメントが流れます。
これですね…(最初に膝を叩いたシーン…笑)
藤田氏が、VIOLETという作品の舞台となったアメリカ南部を実際に訪れ、時代背景も探りながら作品テーマに近づこうとしても…実際にその地で、或いはそれに近い環境の下で生きてきた人たちには、別の世界から来た人が見せる「素朴な好奇心」だとしか受け止められない。
何が問題なんだろうね…
日本版のジャージー・ボーイズでも、当時の時代背景から作品に入り込めるようにという意図で(たぶん)舞台上のプロジェクションで、反戦運動などの時代を表す映像が映し出されました。それが批評家には随分好評でありまして…オリジナル版を凌駕しているとかなんとか…しかし、あれが演出として「正解」だったかどうか、については疑問が残ります。
これについては、ここにたっぷり書いてあります。
この時代、反戦運動などは表立って現れた事象ではありましたが、アメリカは一枚岩の国ではありません。激動の時代にあって、フランキー・ヴァリ&ザ・フォーシーズンズ、或いはかれらを取り巻く人々には、かれらなりの生き方があった…しかし、日本版はそこまでは見据えて作られているとは思えない。
もっとも、日本でやる以上、そのあたりは見えてなくてもいいのかもしれません。でも、そういう風に割り切るわけでもなく、あの時代のアメリカへの「素朴な好奇心」のようなものだけが、中途半端に見え隠れする演出なんですね。だから、全体的にも中途半端…
また、この番組の中でも、ジャージー・ボーイズのプログラムの中にも、藤田氏はトランプ政権によって社会が変わっていくことに対する危惧の念を示しています。
しかし、トランプ氏はアメリカの人々によって選ばれた大統領です。日本にいる私たちには見えにくいけれど、彼を求める人たちが相当数いるのもアメリカという国のはず。そこを見つめてこそ、人々の生きざまが見えてくると思うんですが…そういうことよりも「演出家の意図」が勝るのかなぁ…
★多様性ということ
VIOLETは顔に傷がある女性の話です。藤田氏がまず「顔の傷を肯定したい」と俳優たちに話すと、また俳優たちから容赦のない突っ込みが入ります。
ここは、「肯定」という言葉を通訳がそのままpositivelyと言い表してしまったことで、ちょっと極論のように聞こえてしまったのではないかと思いました。では、どういう英語表現にすればよかったのか?ここは微妙ですね。ナレーターが語るように、藤田氏が作品のテーマを「感覚的に」掴んでもらおうと発した言葉が俳優たちを混乱させたのでしょう。
ロンドンも非常に多様な社会。かれらの世界では、これは「感覚的に掴んでいい」という問題ではないのだと思います。一方、藤田氏はこういう問題に真摯に向き合い、深く掘り下げて考えたことがあるのでしょうか?ちょっと意識の差を感じてしまいました。
そして、藤田氏は「顔に傷のある人にどう反応するかは人格の問題」だと…
仮に、顔に傷がある人を見て、傷がある本人にはちょっと失礼な反応をしてしまう人でも、必ずしも人格に問題があるわけではないですよ。その傷を深刻に受け止めた分、当事者の気持ちに寄り添える人だっている。一方、優しい言葉をかけても、心の中は偏見に満ちている人もいるだろうし、傷を「見て見ぬふり」をして、そのまま関わり合いにならない人もいる。
そもそも、こういうことは私が言わなくても(笑)演劇にかかわる人はみな、常に「人の心のありよう」に向き合っておられるだろうし、「人の心の多面性」「社会の多様性」ということに対しても、誰よりも研ぎ澄まされた意識を持っておられるものと思っているのですが…この番組を見る限り、藤田氏はあまりにナイーブで…
とにかく、日本では、ジャージー・ボーイズはこういう人物の手に渡ってしまっているってことです。私は深刻に受け止めています。
★テーブルワーク
そのうちに、イギリスの制作サイドから「稽古のやり方を変えてほしい」との打診があり、結局は多くの部分を現地の演出家であるトム・サザーランド氏にゆだねることになります。
サザーランド氏が言うには「私のやり方は、まず物語の内側から掘り進め、俳優たちと議論しながら芝居を作ります。一方、俊太郎はビジュアルを重視し、そこから物語を深めていきます」そして、藤田氏は「台詞の解釈が浅い」と指摘します。
私はこれを見ていて非常にショックでした。なぜって…ジャージー・ボーイズは(サザーランドが批判したような)そんなやり方で作られたんですよね?
だからあんな仕上がりになるんだ。
たしかにビジュアルは綺麗。おそらく、藤田氏は独自の美的感覚を持っておられるのだと思います。あれはギフトだと思います。でも、そもそも「演出家」の仕事って何?なんだかよくわからなくなってきました。
ジャージー・ボーイズの脚本は完璧に練られていて、無駄な台詞や伏線もまったくないし、ちょっとした台詞でも、のちに起きるできごととしっかり結びついています。オリジナルでは、その繋がりが非常に分かり易い演出になっています。縦に横にと巧みに織り込みながら…物語を紡いでいるような感じ。
しかしながら、日本版は、ひたすらビジュアルは綺麗だけど…解釈に疑問が残るシーン、意味不明なシーンも少なくありません。
ロンドン版のVIOLETは、藤田氏の思い通りにはできませんでした。おそらく、ご本人も関係者もファンの方々も残念に思われているでしょう。でも、VIOLETという作品は少し救われたのではないかな?私はVIOLETが羨ましいですね。
一方、おそらく、藤田氏の思い通りにできたのであろう日本版ジャージー・ボーイズ…私は無念です。
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