幸福なカエル

道路でカエルがひかれ

せんべいになっていた

そのカエルは幸せであった


そのカエルは幸運であった

うまれてすぐなにか大きいものに

兄弟の多くを奪われたが

幼い彼には何が起こったのかもわからぬまま

泥に紛れて生き延びた


そのカエルは幸せであった

親元を離れ

妻となるカエルにも会えた

可愛い可愛い子どもらもできた


そのカエルは幸せであった

ある日突然車に轢かれ

苦しむ間もなく死んでしまった


空腹の辛さも

食べられる苦しみも

老いていく情けなさも

家族を失う悲しみも

どれも知らずに生きることができた


そのカエルは幸せであった

平たくなったカエルを見て

少女がひとりかわいそうにとつぶやいた

けれども

やはり

それこそが

死んだカエルの幸せだった