夕方、買い物に行った帰りの阪神電車の車中のこと
電車の座席は一応、ひとりづつのくぼみが付いている
ところが、どどっと乗った瞬間のことである
前の席に座った親子三人連れと一人の男性が同時に座り込んだのが
三人分の座席空間
少し狭くはなったがたまたま、この4人細かったので何とか落ち着いて座っていた
次の駅で男は下車
親子連れは改めてくぼみの中にゆったりと落ち着いた
が
安心したのもつかの間その駅から乗車してきた一人の男
この親子の前に立ち
「すまんけどちょっと寄ったってくれへんかなぁ、もう六十過ぎとンネン」
仕方なくまた、この三人の親子席を詰める
男は座りながら小声で
「年金はまだやけどな」
にこにことしている
と、突然少し大きな声で誰に言うともなく
「この電車、このまま、まっすぐ行くやろなぁ」
と、言うのもこの阪神電車
この駅からの折り返し運転になることもあるのだ
この男の眼と少し離れた場所に立っていた男と目があった
立っている男は大丈夫と言うようにうなづく
「時々、途中でまた、戻りよるからなぁ・・・・・
JRはわし詳しいんやけどな
ローカルはわからん」
(立っている男傍まで来て大丈夫だという説明をしている)
知り合いか?しかし、説明した後はまた、もとの位置に戻る
どうやら、知り合いではなさそう
「そうか、わしは板宿(いたやど)までいけたらええんやけどな」
「こないだもなぁ、明石のお濠のとこで寝てもてなぁ
雨が降ってきよったんや
なんで世間は冷たいんや…そない思てなぁ
気がついたら雨やって
雨が冷たかったんやぁ」
誰に言うともなく男の話は続いて行く
ちらちらと立っている男のほうを見ながら
立っている男は仕方なくうなずく
親子連れのお母ちゃんのほうは眉根を寄せたまま
寝た振りを決め込んでいる