背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

SQUALL(3)

2021年08月01日 14時20分40秒 | CJ二次創作
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ちょっと、外に出てくるわ。そう言って車から出ようとしたアルフィンをジョウは呼び止めた。
「何の用だ? 俺も行く」
アルフィンは一瞬躊躇したが、ジョウに目で促されしぶしぶ、
「お手洗い………」
と声を潜めた。
ジョウは、「ああ……」と言ってから隣で一緒に銃器の点検をしていたウーラに顔を向けた。
「ひとりで行くな。ウーラ、すまないがついていってやってくれないか」
「いいわよ」
ウーラが腰を上げる。アルフィンは焦って「大丈夫よ。わざわざ悪いわ」と制したが、ジョウは首を横に振った。
「駄目だ。言うことを聞け。あまり遠くへは行くなよ」
「分かってるわよォ」
お手洗いでそんな遠くまで行くわけないでしょ。恥ずかしいのか、つんと口を尖らせてアルフィンが言い返す。
プロンドを翻して背を向ける。
「ジョウってけっこう過保護なのね」
ハッチを開けて出て行くとき、ウーラがアルフィンにこっそり話しかけるのが聞こえてきたが、それに何と答えたのかは分からなかった。
「過保護っていうよりは、なア…。ちょっと違うだろ」
「.....…」
俺が聞こえよがしに言っても、ジョウはマガジンを装填する手を止めない。黙々と作業を続ける。
「なあジョウ」
「うん?」
「ひとつ、訊いてもいいか」
無言。俺はそれを了承の意と受け取る。
「なにをそんなに悔やんでいる?」
そう。悔やむという言葉が、一番ふさわしい気がした。
ジョウは俺の問いかけに、ようやく作業を止め、俺をまっすぐに見た。
そのまま、じっと次の言葉を待っている。
「いや、なんか普通じゃないだろ。アルフィンへの気の遣いようが、よ。下にも置かないっていうと大袈裟だけどよ」
ずっと気になってた。合流してからこっち、いつものジョウらしくないと。
ジョウは表情の浮かんでいない平坦な顔をこちらに向けて、俺を見つめていた。そして、
「そう見えるのか、お前には」
「ん? ああ。まあな」
「何でそう思った?」
「何で、って……。だってよ、お前、アルフィンにくっつかれても全然引っぺがさねえし。好きなようにさせてるだろ。あんまし得意じゃ
ないはずだったなって思ってよ。人前でいちゃつくの」
人前じゃねえとこではどうか、知らねェけどよ。ごにょごにょと尻すぼみになっちまうのは、なんでだ。と俺は何故か動揺する。
ジョウがあまりにも凪いだ目をしているからだ。これから敵地に打って出ようとしているとは思えない、夜のような静かな黒を目に湛えているからだ。
違和感を覚える。
……そうか、とジョウはため息をつくように呟いた。なんだか急に老け込んだように見える。
「お前の目にはそう映るか」
「ん、うん」
冷静な、というよりは寂しげな声の響きに胸を衝かれる。
「他のやつに分かるくらいなら、本人は完全に気がついてるよな」
本人とは、アルフィンのことか。とは、とてもじゃないけど訊けない雰囲気。
自分で切り出したくせに俺はほんの少しそれを後悔し始めていた。
「なあ。どうしたんだよ? ジョウ」
「.....いや。なんでも。なんでもないんだ」
俺は、と言いかけて呑み込んだ。
代わりに苦く笑う。そして遠い目をして、装甲車の壁のフックを、というよりも、その向こうに延々と続いているだろう溶岩台地の荒れた光景を見晴るかすようにした。
「....…アルフィンは、ひとことも、俺を責めない。
会ってから絶対に、その話題に触れようとしない」
俺はジョウが何を言い出したのか、意味がすぐ分からなかった。
「あん?」
「俺が、彼女を沼地に置いて、ウーラと先に行ったことだ。……一人きり、置き去りにした」
あ。
噛み砕いて言われて、ようやく俺は悟る。自分の鈍さを呪いたくなった。
そうか、そうだったのか。
ジョウの悔恨を察した。こいつがアルフィンに甘えさせている理由が見えた。
時折、何か言いたげに彼女を見つめるまなざし。躊躇いがちな。声にならずに呑み込まれる言葉。
こいつの心の奥にあるものに、ようやく触れることが出来た。
ああ.……そうか。だからか。
だから、お前は、あんなにも、ーー
ジョウは、ライフルを握る手元に視線を落とした。暗く、くぐもった声が、俯いた横顔から漏れる。
「あんなに明るく笑ってくれるより、泣いてどうしてと詰られた方が、どれだけ楽か分からない。アルフィンは俺に謝らせてもくれない。気がつかない振りをしてくれている。たぶん、この先もずっと。
それに甘えている、俺は、最低だ」
そう言って、ジョウは俺をまた見た。
こいつが何と言って欲しいのか、俺には手に取るように分かった。でも、あえて答えず、俺は別の言葉を差し出した。
「..……お前に謝ってほしいと思うのか。アルフィンが。違うだろ」
俺は知らずため息をついていた。長いものとなった。
「おんな、だからよ」
ぽつり。口を突いて出る。
「いや、なんでもない。独り言だ、単に、ただ、聞き流してくれや。
ただ、感じたことだよ、お前といるアルフィンを見てて」
ジョウは漆黒の目を俺に据える。何もかも見透かしてしまうような、夜を切り取ったような黒々とした瞳は、同性の俺でさえ心が騒ぐ。
魅力的な男だと、俺はまだ少年の影を残す、俺より年若いクラッシャーを見つめる。
アルフィンの愛する男を。
「アルフィンは、そのう。どうしようもなく、女なんだよ。お前さんの前だと。
たぶん王女さまとかクラッシャーとかよりも先に、女になっちまうんだろうな、一人の。
だから、いいんだよ、お前は、向こうが気がつかない振りをしてくれるなら、お前も気がついていないようにするしかねえよ。悪かった、すまないとか考えるのは、失礼だ。違うか?
アルフィンが黙って預けてくれているのなら、お前も黙って胸を貸せばいい。それがあの子の想いに応えるってことなんじゃねえのか」
ああ、なんだかひどくもどかしい。こんなのでは言いたいことの半分も伝わらない気がした。
「わかんねえよな。俺も何言ってるか自分でもわかんねえもの」
とにかく、と俺は話を畳もうとした。
「いい女だってことだよ、アルフィンは」
そう言うと、ジョウは、
「.…そうだな」
と頷いた。さっきよりも幾分柔らかい表情で。
そして、ふと真顔になって、
「手を出すなよ、プロディ」
と釘を刺した。ふざけた口調だったが、声に真剣さが含まれているのを俺は聞き逃さなかった。眼光がわずかに鋭さを増す。
「ばーか、分かってるよ。出せるかよ、こんな凄腕の男のチームのメンパーによ」
俺は笑い飛ばした。狭い車内に、俺の声はガラガラと虚しく響いた。
ジョウもかすかに笑った。
「ならいい」
ーーンとに、そんなの。俺の方がいやってほど、分かってるよ……。

(4)
⇒pixiv安達 薫

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