背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

冬は、スポ根 【5】

2009年02月22日 07時14分19秒 | 【図書館危機】以降

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大会は、勤務明けの17:30より武蔵野基地第一体育館にて行われた。
就業時間が終わっているということと、噂が噂を呼んだことで、相乗効果となり、多くの人々が会場にどっと押し寄せた。
ギャラリーを埋め尽くす観客に手塚はびびった。
「な、なんだ? あれ」

「跳べ! そして叩け! 白球を力の限り!」
だの、
「我ら手塚一士私設応援団 ~GANBA!HIKARU!~」
だの、
「君たちの未来へ 全身全霊でアタック」

だの、いまいちセンスを疑う横断幕が掲げられているのはもとより、ブラスバンド部隊まで見える。まるで本物のVリーグの戦いの場のような趣だ。
「ああ、あれな。基地内サークルのブラバンがぜひ応援にって駆けつけてくれたんだと」
幾分げっそりした顔で堂上が説明してくれた。
この日のため会場準備やら、審判の手配やら、さまざまな雑事は結局全部堂上が引き受け仕切っていたため、ホイッスルの前だというのにすっかり消耗してしまっている。
隊長の口から話が出た時からどーせ俺がやらなきゃならんだろうと覚悟はできてたからいいけどな!とこめかみにうっすらと青筋を立てて笑う顔が怖い。
「ジュースはいらんかねー。パンもあるよ、おせんべいも」
駅弁売りのように四角い箱を抱えて、ギャラリーの間を流していくおばちゃんの姿も見えた。
「なんか、物売りまで出てますよ。あれって部外者じゃないんですかね。いいのかな」
「既に手遅れだ。こんなに人が入ったらもはや誰が基地関係者で、誰がそうでないのかよく分からん」
「確かに」
「手塚」
不意に真顔で名を呼ばれた。
「はい」
反射で手塚は堂上に向きなおり、踵をぴしっと揃えて立つ。
直立不動の体勢。
「俺としては、この大会の開催自体甚だ不本意なところがあるが、実際に今日を迎えてしまっては仕方がない。腹をくくる。
そこでだ。やると決めたからには全力でやる。勝負事に負けるのは俺は大嫌いだ。玄田チームには絶対負けん」
鋭い眼光が、手塚の眼を射る。表だって見せることはないが、堂上が無類の負けず嫌いだということは、彼を知る人なら誰でも分かっていることだ。
この小さな体には、なみなみではない負けん気が詰まっている。
知らず、手塚の背筋が伸びた。敬礼さえ出そうになる。
「もちろんであります!」
「いいか、お前には尋常でなく期待してるぞ。いつもどおり、きっちりいい仕事をしてくれ」
ぽん、と肩に手を置かれ、手塚の頬が少年のように紅潮した。
「はい!」
力んだせいで、返事の声が、かすれた。




「おー、堂上のやつやっとるやっとる。早速檄入れとるわ。昔っからあいつはなんだかんだ言って、こういうお祭り大会になると血が騒いでしようがないやつだからなー」
向こうのベンチをにやにやとすが目で見やりながら、顎を撫で回して玄田が言った。
「下町の生まれだからでしょうかね」
同じく余裕の笑みを湛えながら小牧が言う。
「かもな。法被とか似合いそうだもんなー。出初式とか」
「隊長それはちょっと違うかもです」
「そうか。ところでアレはどうした?」
顎でしゃくる。
「アレですか?」
小牧もそちらを見た。彼らから少し距離を置いたところには、郁がいた。
しきりと掌に指で文字を書いてはぺろりと飲み込むしぐさを繰り返している。目が泳ぎ、こめかみにはうっすらと汗が。
完全にあがっている。あがりまくっているのが分かる。
「笠原~! がんばってえ!」
ギャラリーに詰めかけた観客から声が上がる。きっと馴染みの女子だろう。
その黄色い声援に、ぎこちなく右手をあげて応えている。そのぎくしゃくとした動きは、ロボコップを彷彿させた。
「あからさまに緊張してますねえ。笠原さんは」
小牧が困ったように頭を掻くと、玄田が眉を跳ね上げた。
「あいつにもプレッシャーを感じる繊細さがあったか! 初耳だな」
「たぶん、試合が始まっちゃえばオールオッケーなんでしょうけどね。頭ではなく、身体で動いちゃうみたいに。それまでのメンタル面のコントロールがしっちゃかめっちゃかなんだろうな」
しかも今日はその部分をフォローする役目の上官が、敵軍の監督だしね。
心の中、小牧は付け加える。
そこは今日は俺がフォローしてあげなきゃならないかな。
そう思って何気なくギャラリーに目をやると、そこに毬江の姿を見つけた。
前列の席を取って、身を乗り出すようにして下を覗き込んでいる。
目が合うと、小さく胸の前で手を振った。
小牧も軽く手をあげて返して、
――ごめん、やっぱ無理だわ。
と郁に詫びる。
俺的に今日は、毬江ちゃんの前でめっちゃいいところ見せることしか頭にありません。自分勝手な男でごめんなさい。
でも、今日はお祭りだからね。そう弁解しているところへ、玄田から号令がかかる。
「よおっし、お前ら、円陣組むぞ! 集まれい!」
玄田はジャージの前を一気に肌蹴た。中から漆黒のTシャツが現れる。
その胸には「玄田組推参!」と白抜き、相撲の番付表のような達筆で文字が書かれてあった。
おお! とギャラリーから歓声が上がる。観客の反応に満足げに頬を持ち上げて、玄田が「お前らも脱げ脱げい。白組の気合いを見せつけれやれ」と自軍の選手を促す。
小牧も郁も他の選手も、隊長に続いてジャージを脱ぎ捨てた。
みな同じ「玄田組推参!」の黒Tシャツを身につけている。彼らは円陣を組み、気合いを高めた。
すると、対する紅組のベンチでも堂上が声を張り上げる。
「紅組集合!整列!」
朗々と響くその声に従って、紅の精鋭たちが集う。
手塚、進藤、緒形という、一流狙撃手たちはもちろん、他の選手もみな精悍な面持ちで堂上のもとに集う。
こちらは全員真紅のTシャツを身に着け、真っ赤な鉢巻を額に巻いている。
その胸元には「堂上班オールスターズ」の横文字ロゴが、目にも鮮やかな黄色で刻印され。
鉢巻にも☆のマークが真中に染め抜かれていた。
派手さにおいては、玄田組に勝るデザイン。
ギャラリーは沸きに沸いた。うぬう、小癪なと玄田が向こうで歯噛みするのが見え、堂上はにんまりとほくそ笑む。
「は、班長、これはさすがには、派手すぎではないでしょうか」
手塚がめったに私服でも着ない赤を身につける落ち着かなさを零すと、緒形たちも「お前はまだいいよ。そこそこ似合ってるよ。俺たちは年齢的にきつい」と渋い顔で唸った。
しかも額には☆。
「いいんだ、もう試合は始まっている。してやられた! と向こうが感じてくれれば、もはや勝ったも同然だ!」
意外と赤をさらりと着こなす堂上がそう胸を張ると、相手ベンチの玄田から、
「なんだ、そんなチャラチャラした星なんか身につけやがって。このドロンパめ!」と罵声が上がる。
「ド、ドロンパですと!」
堂上が激昂した。
その体を進藤や緒形が取り押さえる。
「ばか、挑発に乗っちゃだめだ!向こうの手だ、監督。冷静に、冷静に」
「は――そうか、そうでした」
「あのう、ドロンパってなんですか?」
こっそりと進藤に耳打ちする手塚。とたんにげっそりした顔つきになって、彼は言った。
「ああ……。お前は知らんか。いや、昔の人気漫画にオバQってのがあってな……。って、説明、今じゃないとだめか?」
「いえ、構いませんが」
「じゃあ後で」
そこでピピーっと会場いっぱいに鳴り響くホイッスルの音。
審判が「選手はライン上に整列してください」と声を発した。




玄田からはっぱがかけられる。
「いいか、気合いだ。気合いさえあれば大抵のことはどうにかなるもんだ。これはバレーという球技だが、足を踏み出せばコートも戦場だ! お前ら、命がけで勝利をつかむぞ!」
「おお!」
一方堂上も全く引かない。
「うちの紅組は精鋭ぞろいだ! 文武両道。仕事にもスポーツにも長けることを見せつけるがいい。そして玄田隊長に常づね思うところがあるやつは、この機を逃すな。普段の思いをボールにぶつけてみろ!」
「おお!」
「あ、きったね」
郁の隣で小牧がそう呟くのが聞こえた。
ともあれ、試合を迎えて会場は一気にヒートアップ。期待と興奮はピークに達した。
そこへ、すらりとした人影がギャラリーに現れる。
「……いったいこれは、なんの騒ぎ?」
残務処理で少し会場入りが遅れた柴崎だった。制服のまま、階段を下りて空席を探す。
目を瞠ってこの異様な熱に浮かされた会場内を見回しながら。
彼女が登場するや否や、館内の歓声はひときわ高くなり、怒号と呼べるものにさえ変わっていった。

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6 コメント

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あ、あれ ()
2009-02-22 07:24:14
このころの手塚の階級って、なんですっけ??
三士かな? 昇級試験は終わってるので、、、ああ調べてきます!
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「ドロンパめ!」ww (MIO)
2009-02-22 13:29:46
目にした瞬間「バケラッタ!」と呼応した私は、緒形と同世代(笑)。哀愁漂う緒形の肩をそっと叩いてやりたくなりましたヨ(笑)。

いやしかし、玄田以下、みんな可笑しいw
燃える堂上、あっさり郁を見捨てる小牧(ひでぇ!でもすっごく『らしい』w)、おろおろする手塚、テンパる郁、もう皆それぞれが可笑しすぎるwww

果たして堂上は日頃の怨みを晴らせるのか!?
そして手塚は、期待された通りの活躍を(柴崎に)見せることが出来るのかっっ!?
続きが楽しみですっvvv
返信する
ドロンパ… (たくねこ)
2009-02-23 06:20:34
⌒⌒⌒(~ _△_)~ギャハハ!
ああいう、ほのぼのとしたアニメってなくなりましたね~。
ジャイアン玄田とドロンパどじょかぁ…
ジャイアンの方が勢いありますな。
とりあえず、モニタの前で(o^ O^)シ彡☆バンバンです!
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レス遅くなってごめんなさい(><) (安達)
2009-02-25 02:26:21
裏にはないような感じ、しっちゃかめっちゃかな感じにしたいなと思ってたら、いつの間にかこんな話になってしまってします(^^;

>MIOさん
なんだか本の帯のキャッチコピーみたいに書いてくださって有難うございます。な、中身が負けないように頑張りたいです。

>たくねこさん
こういうイベントになると、案外堂上さんも隊長を前に一歩も引かないんじゃないかなって(笑) いやもしかするとそれ以上にはっちゃけるかもなって思い書きました。
藤子つながり対決ですなあ…さて勝敗の行方は?
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Unknown (Unknown)
2009-02-25 10:56:01
ドロンパがこのお話に出てくるなんて(笑)想像してなかったぁ(笑)それも手塚と緒方がぁドロンパやってるなんてお気の毒だけどおかしすぎます。続き楽しみにしております。バケラッタ〓
返信する
足跡有難うございますv (安達)
2009-02-27 02:54:41
星マークを見ると私は速攻でドロンパを想像してしまうんです、あのアメリカナイズなところが花輪君みたいでステキvvこの連載はまったり更新中ですので気長にお待ちくださると嬉しいですv
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