ネクタイの結び方を知りたいとアルフィンが言うので、教えてやることにした。
自分の首にぶら下げて端と端を持つ。
「まずはこうだろ、で、こうしてここに通す」
「うん」
「で、次はここ」
「待って、今どこに入れたの?」
「ここだよ」
「ああ、分かんない。向かい合って教えてもらっても、いまいちピンとこないわ」
唇を尖らせる。
俺はやれやれとため息をついて、「ほら」とアルフィンを椅子に座らせた。
背後に立ち、首に掛けていたネクタイを彼女の肩に移した。
「じゃあ同じ方向を向いてやろう。まずここをこうして、こう折り曲げるだろ」
使の目の前、少し低い位置にアルフィンのエンジェルリングがある。黄金の輪をつやつやと光らせて、殊勝に頷く。
「う、うん」
「で、この輪になってるところに通して、」
俺はアルフィンの胸の前で、実際にネクタイを結ぶ手順を追っていく。
アルフィンの息が手にかかるほど、近い。
慎重に、手がへんなところに触れないように気をつけながら俺はタイを扱う。
教えてやっているうちにだんだんとアルフィンの口数が少なくなっていき、やがてばったりと口を禁んでしまった。
「?」
怪訝に思い、後ろから顔をき込むと、なんだか真っ赤になっている。耳たぶまでほんのりと。
「どうした?」
「な、なんでもないわ」
そう言うけど、なんでもないって顔じゃないだろ。
と、言いかけて、なんだか俺まで首筋が赤くなっていくのが分かって焦る。
う、うつった....。
まずい。
俺は手早くネクタイを結び終える。ふう、と息をついて身を離した。
「これでおしまいだ。分かった?」
「う、うん」
「じゃあやってみな」
「自分で?」
「そう」
アルフィンは何か言いかけたが、俺が促すと不承不承結び目を解いた。
俺が教えたとおりの手順をもう一度なぞり始める。
すぐに下あごがぐっと突き出され、眉間にしわが数本刻まれる。
険悪な顔つき。
俺は腕を組んで黙ってそれを見守る。
「……ああ、もう、分かる訳ないでしょ! 一回教えてもらったくらいで
さ。なによ、ジョウの意地悪!」
ヒステリーを起こし、途中まで結んだやつを手荒に振り解いてしまった。
あーあ、やっぱり、と思って傍で見ていると、
「あなたの教え方、下手くそよ!」
意味の分からぬ罵声を浴びせて、どん、と胸を乱暴に突いてきた。
へ、下手くそだって??
思わぬ一撃に俺はよろめいた。後ろにあったソファによろりと倒れる。
い、今、男に対して絶対に言ってはいけないことを言ったな。ダメージが……。
「何よ、ネクタイ結べれば偉いっていうの? こんなのこうして巻いてりゃいいのよ」
アルフィンは俺の膝に乗り上げて、蛇がとぐろを巻くように俺の首にネクタイをぐるぐるさせてきた。
「ぐぐえっ」
死ぬ。殺される。
アルフィンの癇癪のせいで命を落とすなんて!! しかもネクタイで、アルフィンは更に手に力を込めて、俺を締め上げながら、ふと手を止めた。
ぐっと顔を俺の顔に近づける。真顔になって、こう言った。
「でも、教え方は下手でも、キスはとびきり上手よね」
そして唇を重ねた。巻きつけたネクタイをぐいと乱暴に引き寄せて。
「……ン....…」
「...…、っ……」
アルフィンの吐息で視界が滲む。
そうか。
人間誰しも得手不得手はあるよな。
じゃあ得意分野に磨きをかけるとするか。
俺はネクタイを引くアルフィンの手を掴み、いっそうアルフィンを深く貪った。
END
自分の首にぶら下げて端と端を持つ。
「まずはこうだろ、で、こうしてここに通す」
「うん」
「で、次はここ」
「待って、今どこに入れたの?」
「ここだよ」
「ああ、分かんない。向かい合って教えてもらっても、いまいちピンとこないわ」
唇を尖らせる。
俺はやれやれとため息をついて、「ほら」とアルフィンを椅子に座らせた。
背後に立ち、首に掛けていたネクタイを彼女の肩に移した。
「じゃあ同じ方向を向いてやろう。まずここをこうして、こう折り曲げるだろ」
使の目の前、少し低い位置にアルフィンのエンジェルリングがある。黄金の輪をつやつやと光らせて、殊勝に頷く。
「う、うん」
「で、この輪になってるところに通して、」
俺はアルフィンの胸の前で、実際にネクタイを結ぶ手順を追っていく。
アルフィンの息が手にかかるほど、近い。
慎重に、手がへんなところに触れないように気をつけながら俺はタイを扱う。
教えてやっているうちにだんだんとアルフィンの口数が少なくなっていき、やがてばったりと口を禁んでしまった。
「?」
怪訝に思い、後ろから顔をき込むと、なんだか真っ赤になっている。耳たぶまでほんのりと。
「どうした?」
「な、なんでもないわ」
そう言うけど、なんでもないって顔じゃないだろ。
と、言いかけて、なんだか俺まで首筋が赤くなっていくのが分かって焦る。
う、うつった....。
まずい。
俺は手早くネクタイを結び終える。ふう、と息をついて身を離した。
「これでおしまいだ。分かった?」
「う、うん」
「じゃあやってみな」
「自分で?」
「そう」
アルフィンは何か言いかけたが、俺が促すと不承不承結び目を解いた。
俺が教えたとおりの手順をもう一度なぞり始める。
すぐに下あごがぐっと突き出され、眉間にしわが数本刻まれる。
険悪な顔つき。
俺は腕を組んで黙ってそれを見守る。
「……ああ、もう、分かる訳ないでしょ! 一回教えてもらったくらいで
さ。なによ、ジョウの意地悪!」
ヒステリーを起こし、途中まで結んだやつを手荒に振り解いてしまった。
あーあ、やっぱり、と思って傍で見ていると、
「あなたの教え方、下手くそよ!」
意味の分からぬ罵声を浴びせて、どん、と胸を乱暴に突いてきた。
へ、下手くそだって??
思わぬ一撃に俺はよろめいた。後ろにあったソファによろりと倒れる。
い、今、男に対して絶対に言ってはいけないことを言ったな。ダメージが……。
「何よ、ネクタイ結べれば偉いっていうの? こんなのこうして巻いてりゃいいのよ」
アルフィンは俺の膝に乗り上げて、蛇がとぐろを巻くように俺の首にネクタイをぐるぐるさせてきた。
「ぐぐえっ」
死ぬ。殺される。
アルフィンの癇癪のせいで命を落とすなんて!! しかもネクタイで、アルフィンは更に手に力を込めて、俺を締め上げながら、ふと手を止めた。
ぐっと顔を俺の顔に近づける。真顔になって、こう言った。
「でも、教え方は下手でも、キスはとびきり上手よね」
そして唇を重ねた。巻きつけたネクタイをぐいと乱暴に引き寄せて。
「……ン....…」
「...…、っ……」
アルフィンの吐息で視界が滲む。
そうか。
人間誰しも得手不得手はあるよな。
じゃあ得意分野に磨きをかけるとするか。
俺はネクタイを引くアルフィンの手を掴み、いっそうアルフィンを深く貪った。
END
⇒pixiv安達 薫