みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1211「人工冬眠」

2022-03-04 17:59:29 | ブログ短編

 彼は冬眠(とうみん)から目覚(めざ)めた。カプセルの扉(とびら)が開くと、彼はゆっくりと起き上がった。――そこには誰(だれ)もいなかった。装置(そうち)のランプが点滅(てんめつ)し、機械(きかい)の作動音(さどうおん)が微(かす)かに響(ひび)いていた。
 彼は立ち上がると装置に向かった。操作盤(そうさばん)には埃(ほこり)がたまっていて、もう何十年も触(ふ)れられていないようだ。時間表示(じかんひょうじ)は2137年になっていた。彼は100年以上眠(ねむ)っていたことになる。彼は録画(ろくが)装置を作動させてみた。埃まみれのモニターに懐(なつ)かしい顔が映(うつ)し出された。それは、同じ研究者(けんきゅうしゃ)の妻(つま)の姿(すがた)だ。妻は緊迫(きんぱく)した表情(ひょうじょう)で話し出した。
「あなたが眠りについた後、世界大戦(せかいたいせん)が始まってしまったの。この施設(しせつ)も閉鎖(へいさ)することにしたわ。電源(でんげん)は確保(かくほ)したから大丈夫(だいじょうぶ)よ。1年間の冬眠の予定(よてい)だったけど、50年に変えておいたわ。あたしも、これから眠りにつく。50年後に会いましょう。愛(あい)してるわ」
 彼は驚いて、辺りを見回した。彼の入っていたカプセルの向こうに、もうひとつカプセルが置かれていた。彼はそのカプセルによろけながら駆(か)け寄った。中を覗(のぞ)いた彼は、呻(うめ)き声を上げてその場に崩(くず)れ落ちた。中に入っていたのは、ミイラになっている妻の姿だった。そのカプセルは急(きゅう)ごしらえで作られたので、不具合(ふぐあい)を起こして停止(ていし)してしまったようだ。
 しばらく彼は、身動(みうご)きもできなかった。しかし、いつまでもこうしてはいられない。彼は、妻が用意(ようい)しておいた非常食(ひじょうしょく)を見つけて空腹(くうふく)を満(み)たした。そして、外の世界がどうなっているのか確認(かくにん)するために、不安(ふあん)な面持(おもも)ちで外へ向かった。
<つぶやき>外の世界はどうなってしまったのか? 人類(じんるい)は滅亡(めつぼう)しているかもしれません。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする