彼は彼女の膝枕(ひざまくら)が大好きだった。彼女の部屋を訪(おとず)れるたびに、彼は膝枕をおねだりする。でも彼女の方は迷惑(めいわく)そうで、そう言われるたびに暗(くら)い気持(きも)ちになってしまう。
彼女としては、二人の関係(かんけい)をぎくしゃくさせないために無下(むげ)に断(ことわ)るわけにも――。
彼女は、自分の膝の上で気持ちよさそうに寝息(ねいき)をたてている彼に呟(つぶや)いた。
「君(きみ)はどう思ってるの? 頭ってけっこう重(おも)いんだよ。それに、足がしびれてきちゃった」
彼女は手をグッと伸(の)ばして近くにあるクッションを引き寄(よ)せた。そして、彼の頭をそっと持ち上げる。それでも彼は目を覚(さ)まさなかった。彼女は身体(からだ)を何とかずらして、クッションを頭の下へ持っていく。彼女は彼の寝顔(ねがお)を覗(のぞ)き込んで、
「ほんと子供(こども)みたいだわ。目を覚まさないなんて、よっぽど疲(つか)れてるのかしら?」
彼女は食事(しょくじ)の後片(あとかた)づけを始めた。彼を起こさないようになるべく静(しず)かに――。
片づけが終わると、彼女はほっとひと息ついた。ふと時計(とけい)を見る。彼女はハッとして、
「ねえ、起きてよ。終電(しゅうでん)がなくなっちゃうわ」
彼女は、彼を揺(ゆ)り起こした。彼は寝(ね)ぼけていたのか、寝言(ねごと)のように呟いた。
「ママ…。もう少し…寝かせてよ。あと…五分でいいから……」
この後、彼は叩(たた)き起こされた。そして、部屋から追(お)い出されたのは言うまでもない。
<つぶやき>ママの代(か)わりはしたくなかったんでしょうね。彼には自立(じりつ)を促(うなが)したいです。
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