草(くさ)むらの中をかき分けて歩く調査隊(ちょうさたい)。先頭(せんとう)を行くのは隊長(たいちょう)の村雨(むらさめ)。その顔は真剣(しんけん)そのものである。どこかから「キィーン」と甲高(かんだか)い大きな鳴(な)き声がした。隊長は立ち止まり、辺りをキョロキョロしながら言った。
「気をつけろ。どこから…、何が飛(と)び出すか…、分からんからな」
「でも、隊長」すぐ後ろを歩いていたヨリ子が言った。「大丈夫(だいじょうぶ)だと思いますけど」
「何を言ってる。今のを聞いたろ。あの鳴き声がするということは、怪獣(かいじゅう)が出現(しゅつげん)する…」
「隊長!」列(れつ)の後ろの方から叫(さけ)ぶ隊員(たいいん)の声。「後ろがつかえてるんで、早く行って下さい」
ヨリ子は隊長をなだめるように、「あの、ウルトラマンじゃないんですから。それに、今の声はキジの鳴き声ですよ。――もう、こういうのやめませんか、教授(きょうじゅ)」
「何を言ってるんだ。人跡未踏(じんせきみとう)のこのシチュエーションなんだぞ。怪獣が無理(むり)だとしても、恐竜(きょうりゅう)とか、巨大昆虫(きょだいこんちゅう)、それから…、そうだ、巨大アナコンダなんてのもあるぞ」
「映画(えいが)じゃないんですから」ヨリ子はため息をつき、「それに、ここは日本です。私たち、ただ道(みち)に迷(まよ)ってるだけじゃないですか。教授がこっちだって言い張(は)るもんだから…」
「私のせいだと言うのかね。ヨリ子君、君はなぜこのシチュエーションを楽しまないんだ」
「だから、私たち昼食(ちゅうしょく)も食べずにずっと歩きつづけてるんです。誰(だれ)かさんが、お弁当(べんとう)を車の中に置き忘(わす)れるから。――これ以上(いじょう)、何かゴタゴタ言ったら、私、切(き)れますよ。いいんですか?」
教授はヨリ子のひと睨(にら)みで口をつぐみ、すごすごと歩き出した。
<つぶやき>無事(ぶじ)に車まで辿(たど)り着けたのでしょうか。それにしても、何の調査だったの?
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