彼女は日々(ひび)の生活(せいかつ)に味気(あじけ)なさを感(かん)じていた。何の変化(へんか)もなく、楽(たの)しいことや幸(しあわ)せを感じることもなかった。彼女はひとりだ。彼氏(かれし)がいるわけでもなく、仲(なか)のいい友(とも)だちも存在(そんざい)しなかった。そんな彼女の前に、一人の男性が現(あらわ)れた。そして、唐突(とうとつ)に言うのだ。
「僕(ぼく)と契約(けいやく)を結(むす)びませんか? あなたの人生(じんせい)を覗(のぞ)かせてほしいんです」
どうやら彼は作家(さっか)のようだ。新作(しんさく)の題材(だいざい)を探(さが)しているのだ。でも彼女は、
「あたしの人生なんてつまんないですよ。何もないですから…」
「失礼(しつれい)ですが、お金(かね)に困(こま)ってますよね。今の派遣(はけん)の仕事(しごと)も今月(こんげつ)で終(お)わりなんでしょ」
「ど、どうして…そんなこと…。あなた…、何なんですか?」
「僕と契約を結べば、毎月(まいつき)謝礼(しゃれい)をお支払(しはら)いします。家賃(やちん)も払えますよ」
「だから…。あたしには何にもないって言ってるじゃないですか。会社(かいしゃ)とアパートの往復(おうふく)だけで、面白(おもしろ)いことなんか…」
彼は笑(え)みを浮(う)かべて言った。「それは、大丈夫(だいじょうぶ)ですよ。何の問題(もんだい)もありません」
彼女は警戒(けいかい)するように、「あたしのこと、欺(だま)そうとしてるんですか?」
「とんでもない。欺そうなんて…。あなたは何もしなくていいんです。僕と契約を結んでいただければ、波瀾万丈(はらんばんじょう)の人生をお約束(やくそく)します」
彼は微笑(ほほえ)んで手(て)を差(さ)し出した。彼女はまだ迷(まよ)っていた。彼は、
「何の心配(しんぱい)もいりません。楽しい人生が待ってますよ。さぁ、始(はじ)めましょ!」
<つぶやき>彼女は契約しちゃうの? 波瀾万丈の人生って、ほんとに大丈夫なのかなぁ。
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